書いてあること
- 主な読者:フリーランスなどに業務委託をしている企業の経営者
- 課題:請負と準委任の違い、労働者とフリーランスの違いなどが分からない
- 解決策:準委任は請負と違い、仕事の完成の義務を負わないため、履行された仕事の内容に応じて報酬を支払わなければならない。労働者と違い、フリーランスには指揮命令を下すことができないため、これを守らないと偽装請負になる恐れがある
1 請負と委任の違い
「業務委託」をしていても、契約内容である「請負」と「委任」との違いを明確に理解していない企業は意外と多いです。今後、フリーランスの権利保護がますます進むことは間違いないので、業務委託をするこちら側も、きちんとした知識を持っておくべきです。
この記事では、請負と委任の違いを明らかにした上で、相手(フリーランスを想定)と契約を交わす際のポイントをまとめます。
まず知っておくべきことは請負と委任との違いです。両方とも民法で定義されていますが、内容は次のように全く異なります。
- 請負:相手は仕事を完成させる義務を負い、自社は仕事が完成しなければ報酬を支払う必要がない
- 委任:相手は事務処理を遂行する義務を負い(仕事を完成させる義務は負わない)、自社は履行された仕事の割合で報酬を支払う
また、委任については「準委任」のほうが聞き慣れているかもしれませんので補足します。「準」がつかない委任は法律行為を対象とするもので、弁護士などが相手になります。一方、準委任は法律行為以外の事実行為が対象となります。この記事では準委任を前提に説明します。
準委任の報酬ですが、これは履行割合型と成果完成型に分かれます。履行割合型の例は、一般的な学習指導の契約です。学習塾は生徒が志望校に合格できるように教育しますが、仮に志望校に合格できなくても報酬は支払われます。一方、成果完成型の例は、経営コンサルティングの契約です(契約の定めにもよります)。自社が資金調達を目的にコンサルティングを依頼した場合、コンサルタントには交通費などの経費に加えて、資金調達に成功した際には成功報酬が支払われます。
2 契約全般で注意すべきポイント
1)契約書は実態で判断する
請負と準委任のいずれの場合でも、契約内容を明らかにしておくために契約書を作成しましょう。契約時、業務内容をできるだけ細分化し、何をもって業務が終了するかなどを明確にします。実務上、請負と準委任の双方の性質を持つ業務も考えられるので、そうした場合は弁護士などに相談するのが無難です。
また、下請法の規制を受ける取引の場合、下請事業者(ここではフリーランス)の成果物の内容や、下請代金の額などを記載した書面の交付が義務付けられています。
こうした親事業者(ここでは自社)の義務は、当事者間の合意に優先して適用される強行法規であり、契約で変更することはできません。そのため、自社の取引が下請法の規制対象となっているかどうかを確認しましょう。下請法に関しては、公正取引委員会ウェブサイトをご参照ください。
■公正取引委員会「下請法」■
https://www.jftc.go.jp/shitauke/
2)請負、準委任とも重い責任を負っている
請負ではフリーランスが仕事の完成義務を負っているのに対し、準委任ではそれがないので、請負のほうが準委任よりも責任が重いように思えますが、それは正しくありません。
準委任では、自社はフリーランスが持つ専門的な能力や知見に期待して契約しています。そのため、業務内容に問題があった場合、フリーランスに対して善管注意義務違反としての債務不履行責任を問い、問題箇所をやり直させることなどができます。このように、一概に準委任は請負よりも責任が軽いわけではありません。また、準委任であっても、
自社が業務内容の検査後や確認後に業務が終了する旨を定めることで、実質的に請負における仕事の完成と同等の契約内容にする
こともできます。
3 指揮命令などで注意すべきポイント
1)偽装請負になっていないか確認する
フリーランスが社員と大きく違うのは、フリーランスには企業が指揮命令を下して、業務を遂行させることができないことです。これを守らないと、偽装請負として問題になる恐れがあります。
偽装請負に該当するとして労働関係法令違反を指摘されると、罰則を受けたり、社会的な信用を失ったりする恐れがあります。また、フリーランスの労働者性が認められる場合は、自社が社会保険料や時間外手当を後日支給する必要があります。
2)業務の遂行方法の指示や、自社の名刺を持たせるのは避ける
実務では、偽装請負か否か(労働者性)について、次の要素を基に総合的に判断されます。
- 仕事の依頼への拒否の自由
- 業務遂行上の指揮監督の有無
- 時間的・場所的拘束性の有無、代替性の有無
- 報酬の算定・支払方法
- 機械・器具の負担や報酬の額等に表れた事業者性
- 専属性の程度等
例えば、フリーランスが自社のオフィスなどで業務を行う場合、フリーランスに対して業務の遂行方法を細かく指示したり、出退勤や休憩時間、休日や休暇などに関して指示したりすることは、偽装請負と見なされる恐れがあります。
また、自社の名刺を持たせる際にも気を付けなければなりません。取引先などが、フリーランスが従業員としての責任や権限を持っていると勘違いする可能性があります。フリーランスには自社の名刺を持たせないのが無難です。仮に持たせる場合は、細心の注意が必要です。
3)再委託・再委任の禁止や報告を義務付ける
自社はフリーランスに対して、業務の遂行方法を指示することはできませんが、再委託・再委任を禁止したり、業務の状況等に関する報告を求めたりすることはできます。ただし、請負と準委任では、再委託・再委任の禁止や報告の義務に関する法令上の取り決めが異なります。
請負では、再委託が原則可能であり、報告の義務は原則なしとされています。そのため、再委託の禁止や報告を求める場合、契約書でその旨を定めておくことが求められます。
一方、準委任では、フリーランスの専門的な能力や知見を見込んで業務を委任していることから、再委任は原則不可とされています。また、報告の義務についても民法で定められています。
請負、準委任のいずれの場合も、契約締結時にフリーランスに対して、契約書で再委託・再委任を禁止する旨や、報告を義務付ける旨を規定しておくとトラブルが避けられます。
4)行き過ぎた競業避止義務を避ける
自社はフリーランスに対して、営業上重要な情報などを漏洩しないよう、秘密保持義務に加えて、競業避止義務を課すことができます。競業避止義務とは、社員が自社と競合する企業などに所属したり、自ら会社を設立したりといった行為をしない義務のことです。
とはいえ、競業避止義務期間が5年を超えるなど、フリーランスに対して行き過ぎた義務を課すことは、市場の自由競争やフリーランスの取引の自由を侵害することになりかねないため、独占禁止法(独禁法)や民法で規制される場合があります。
具体的には、期間、業務範囲、場所的範囲、競業避止を定めることに対する対価の有無などの要素を考慮して判断されます。
4 報酬の支払いなどで注意すべきポイント
1)報酬の支払期日や減額に注意する
下請法の規制対象である取引では、業務の終了日から60日以内の、できる限り短い期間内を報酬支払いの期日として定め、報酬を支払わなければなりません。従って、毎月特定の日に締切日を設けている場合は、締切日の翌月末日までに支払う必要があります。
また、フリーランスの責任ではない理由から報酬を減額したり、通常支払われる対価(市場価格など)に比べて著しく低い報酬を定めたりすることは、下請法だけでなく、独禁法でも規制されます。
2)知的財産権の帰属を決めておく
請負、準委任とも、フリーランスが業務を遂行する中で生まれた発明や著作物、それらの知的財産権はフリーランスに帰属します。
そのため、競合他社が知的財産権を利用できないようにしたいなどの場合、契約時に自社が知的財産権を承継できるように定めておく必要があります。
権利を承継する際は、適切な対価を支払わなければなりません。特に、企業がフリーランスに対して、無償や低廉な価格で著作権などの知的財産権を譲渡させているという問題が指摘されていることから、十分な配慮が求められます。
3)報酬の請求は慎重に確認する
税務上で注意しなければならないのが、消費税や源泉所得税の扱いです。
フリーランスへの報酬は外注費として消費税の対象ですが、社員への給与は消費税の対象とはなりません。問題は偽装請負です。中には偽装請負であるにもかかわらず、外注費とすることで、消費税の納税額の負担を減らす悪質なケースがあるようで、外注費が多い企業は税務調査で指摘されることがあります。
また、フリーランスへの報酬は、一律に源泉徴収が必要になるわけではありません。源泉徴収の対象となるのは、原稿料やデザイン料などの一部の報酬です。自社が支払う報酬が源泉徴収の対象であるのかを確認しておく必要があります。
特に、フリーランスの中には、源泉所得税の知識に乏しい人もいて、源泉所得税を天引きしない金額で自社に報酬を請求してくることがあります。
そのため、フリーランスからの請求が正しい金額であることを自社で確認し、誤った金額を支払わないように注意しましょう。仮に源泉徴収漏れを指摘された場合、フリーランスではなく自社が追徴支払いをすることもあり得ます。
5 外注契約の形態と特徴のまとめ
最後に、外注契約の形態と特徴をまとめた表を紹介します。業務委託をする前に各項目を確認してみてください。
以上(2023年10月更新)
(監修 弁護士 田淵博雅)
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