書いてあること

  • 主な読者:商標や意匠を登録してビジネスを有利に進めたい経営者
  • 課題:商標や意匠は早い者勝ちのはず。リソース不足で先行する知財の調査などが困難
  • 解決策:現在のマーケティング手法に合わせ、商標登録や意匠登録がしやすくなった

1 登録要件が緩和された商標登録と意匠登録

2023年6月14日に、「不正競争防止法等の一部を改正する法律」(いわゆる「知財一括法」)が公布されました。これにより、不正競争防止法、商標法、意匠法その他の知的財産法が改正され、2024年4月1日までに順次施行されました。

知財の活用は企業規模を問わず重要ですが、今回、商標登録や意匠登録について

登録要件が緩和されたので、リソースが少ない中小企業でも対応しやすくなったこと

が特徴です。この記事では、知的財産権に詳しい弁護士が、法改正のポイントを分かりやすく解説します。

2 商標登録のポイント

1)商標は早い者勝ち?

商標とは、

企業が自社の取り扱う商品・サービスを、他社のものと区別するために使うロゴマークやネーミング、シンボルアイコン

のことで、文字や図形、記号、立体的形状などによって表されます。消費者にとってロゴなどはブランドであり、購入する商品を決める際の重要な要素となります。商標が「もの言わぬセールスマン」と言われるゆえんです。

商標を自社の権利とするには、特許庁に出願し、「商標登録」しなければなりません。商標登録をすると、自社の商標として独占的に使用でき、ブランドイメージの維持につながります。もちろん、他社の商標侵害にも対抗すること(差止請求や損害賠償請求など)ができます。改正前は、商標は早い者勝ちで、他社に先駆けて登録する必要がありました。

2)改正で併願登録が可能に!

今回の改正で、いわゆる「コンセント制度」が導入されました。コンセント制度とは、

既に登録されているロゴと似ていても、相手が同意(コンセント)すれば併存登録できる

というものです。先行する登録商標の権利者の同意があれば、類似する商標を併存して登録できるようになりました。ただし、

併存して登録ができる商標は、それぞれ商標につき出所混同の恐れがない場合に限定

されます。消費者が混同するような「パクリ商標」は、当然、認められないのです。図表1は商標登録の一般的な流れですが、関連するのは1番左の「先行商標の登録調査」とその隣の「商標登録の出願」です。

画像1

もう1つポイントがあるので補足します。改正前は、「商標の中に他人の氏名が含まれる場合、本人の承諾がないと商標登録できない」ことになっていました。しかし、ファッション業界などのように、創業者やデザイナー等(知名度が高いとは限らない)の氏名をブランド名に用いることが多い業界は困ってしまいます。そこで、今回の改正で、

商標に含まれる「他人の氏名」に一定の知名度がなければ、誰にも承諾を得る必要はない(一定の知名度がある場合、知名度のある他人1人にだけ承諾を得ればよい)こと

になりました(ただし、出願商標に含まれる氏名と無関係の者による濫用的な出願は拒絶されます)。これにより、新興ブランドのデザイナーの氏名を含む商標が保護され、ブランド選択の幅、ひいてはビジネスチャンスを広げやすくなります。

3 意匠登録のポイント

1)意匠とは?

意匠とは、

モノや建築物、画像のデザインのこと

です。商標のロゴと同じように、消費者にとってデザインは、購入する商品を決める際の重要な要素となります。意匠を自社の権利とするには、特許庁に出願し、「意匠登録」しなければなりません。登録できた場合のメリットは、商標の場合と同じであると考えてよいです。

2)法改正で事前マーケティングが可能に!

意匠は「新規性」がなければ登録できません。ここでいう新規性とは、「デザインが新しく、まだ世に知られていない」ということです。ですから、たとえデザイナー本人でも、既に公開されているデザインについて意匠登録するには、「出願と同時に例外の適用を受ける旨の書面(例外適用書面)を提出」「出願から30日以内に自ら公開したことを証明する証明書(例外適用証明書)を、自己が公開した全ての意匠について網羅的に提出」という面倒な実務が必要でした。今回の改正でこの点が見直され、出願前に似たようなデザインが複数公開された場合、

最も早く公開された意匠について「例外適用証明書」を提出すれば、それ以後の公開については証明書が不要

になりました。図表2は意匠登録の一般的な流れですが、関係するのは、左から2番目の「意匠登録の出願」です。

画像2

現在は、

  • 色違いや細部をちょっとだけ変えた複数のデザインを創作する
  • SNSで発売前の製品デザインを断片的に公開する
  • クラウドファンディングでは、先行してデザインを公開して資金調達する

といったマーケティングが当たり前のように行われており、法令がそれに追いついた格好です。

画像3

4 その他のポイント

商標登録・意匠登録以外のポイントとして、不正競争防止法について補足します。不正競争防止法の改正により

デジタル空間における模倣行為の差止めが認められる

ようになりました。これまでは有体物に対してパクリが禁止されていましたが、最近は「メタバース」などのデジタル空間で商品が販売されるケースもあります。こうした状況を踏まえ、デジタル空間上であっても、他人の商品形態を模倣した商品を提供する行為については、不正競争行為として差止めが認められます。

以上(2024年4月作成)
(執筆 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:Kaspars Grinvalds-Adobe Stock

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