書いてあること
- 主な読者:株主総会前に例年と違う手続きがあるのかを知りたい経営者
- 課題:会社法が改正されたため、自社がその影響を受ける可能性がある
- 解決策:会社補償、役員等賠償責任保険の契約は、株主総会または取締役会での対応が必要
1 【改正会社法の施行】2021年の株主総会はいつもと違う?
中小企業の場合、株主の多くは親族や友人などの関係者なので、毎年特に問題なく株主総会が開催できます。しかし、2021年は少し状況が違います。なぜなら、2021年3月1日に改正会社法が施行された影響で、一部の会社では例年通りの準備や手続きでは不十分になったからです。具体的には次の対応が必要です。
- 会社補償、役員等賠償責任保険の契約内容を株主総会または取締役会で決議
- 株主提案権の行使の濫用に備えて、株式取扱規程を整備
これがどういうことなのか、早速、確認していきましょう。なお、本稿で対象としているのは、いわゆる「非公開会社」です。非公開会社とは、全ての株式の譲渡について、会社の承認が必要となる旨を定款に定めている会社です。
また、「株主総会の決議」とは、普通決議を指します。普通決議には、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した株主の議決権の過半数の賛成(決議要件)が必要です。
2 会社補償と役員等賠償責任保険に関連した対応
1)会社補償の契約内容は、株主総会または取締役会の決議が必要
会社補償とは、役員が業務上の賠償責任を負った場合の弁護士費用や、賠償金などを会社が負担する契約です。細かな定義は次の通りです。
役員等がその職務の執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、または責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用や、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における損失(いわゆる賠償金または和解金)の全部または一部を、株式会社が当該役員等に対して補償すること
会社補償を契約することで、取締役はリスクを恐れずに職務を執行できます。これまでは、会社補償の内容をどのように定めるべきか法律上明らかではなかったのですが、2021年3月1日以降変わりました。具体的には、会社補償の内容は株主総会の決議(取締役会設置会社は取締役会の決議)で決めることになりました。
ここまでのポイントを整理すると、次のようになります。
- 会社補償の契約内容を株主総会または(取締役会設置会社は)取締役会で決議する
- 上記の決議をした後、会社と役員が会社補償を契約する
2)会社補償の契約内容
会社補償の契約内容は次の通りです。全ての費用・責任が補償契約の対象になるわけではないので、その点に注意しましょう。
3)役員等賠償責任保険の契約内容は、株主総会または取締役会の決議が必要
役員等賠償責任保険とは、取締役が業務上の賠償責任を負った場合の弁護士費用や、賠償金などを一定の範囲で補償する保険です。いわゆる「D&O保険(会社役員賠償責任保険)」などが該当します。細かな定義は次の通りです。
株式会社が、保険者との間で締結する保険契約のうち取締役等がその職務の執行に関し責任を負うこと、または当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が填補することを約するものであって、取締役等を被保険者とするもの
なお、以下の保険は役員等賠償責任保険には含まれません。
- 主に法人に生じる損害を填補する保険で、取締役は付随的に被保険者になっている性質の保険。具体的には「PL保険、企業総合賠償責任保険」など
- 取締役自身に生じる損害を填補するが、取締役の職務執行の適正性が阻害される懸念が小さい性質の保険。具体的には「自動車賠償責任保険、海外旅行保険」など
会社補償の場合と同様に、役員等賠償責任保険を契約することで、取締役はリスクを恐れずに職務を執行できます。これまでは、役員等賠償責任保険の内容をどのように定めるべきか法律上明らかではなかったのですが、2021年3月1日以降変わりました。具体的には、役員等賠償責任保険の内容は株主総会の決議(取締役会設置会社は取締役会の決議)で決めることになりました。新規契約だけでなく、契約の更新・更改も含みます。
ここまでのポイントを整理すると、次のようになります。
- 役員等賠償責任保険の基本的な内容を株主総会または(取締役会設置会社は)取締役会で決議する
- 決議する役員等賠償責任保険の基本的な内容とは、「保険会社、被保険者、保険料、保険期間、保険金の支払事由および支払限度額、保険金により填補される損害の範囲、保険会社の主な免責事由、主な特約条項など」のこと
- 役員等賠償責任保険の更新時は、同様の決議をする
なお、(中小企業の場合、該当しない場合が多いと思われますが)株主総会に「取締役の選任」に関する議案を上程する場合で株主総会参考書類を交付しなければならない会社は、株主総会参考書類に取締役の候補者と補償契約および役員等賠償責任保険契約の締結状況(締結予定を含む)を記載しなければなりません。
3 株主提案権の濫用的な行使の制限に関連した対応
株主は株主総会の議案を提案できます。とはいえ、さまつな議案や会社を困惑させる目的の議案の提案があると、株主総会の意思決定機関としての機能が阻害されてしまいます。そこで会社法が改正され、「株主提案権の濫用的な行使が制限」されました。具体的には次の通りです。
取締役会設置会社の株主が、議案を提案し、招集通知に記載請求(議案要領通知請求)する場合、株主が記載請求できる議案数は10までとする。10を超過した場合、どの議案を選ぶかは、原則として取締役が決められる(株主が議案相互間の優先順位を定めている場合を除く)
ただし、取締役が恣意的に議案を決定することにもリスクがあります。例えば、株主から「議案の要領を株主総会の招集通知に記載する」ことが求められる、「取締役や会社に対して損害賠償請求がされる」などの恐れがあります。こうした株主からの指摘を避けるために、取締役会設置会社においては、あらかじめ株式取扱規程の中で、議案を選ぶ際の決定方法を定めておくとよいでしょう。
また、実際に株主から株主提案権の濫用的な行使がされてしまった場合は、まず株主にどの議案を優先するかを確認し、その確認が取れない場合は、株式取扱規程に従って対応することが望ましいでしょう。
以上(2021年4月)
(執筆 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生、田椽史也)
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