書いてあること

  • 主な読者:株主の権利や株式の種類について知りたい人
  • 課題:経営方針の決定や資本政策などに株主の権利がどう影響するかが分からない
  • 解決策:株式には3種類の制約を付けられる。また、9種類の種類株式がある

1 株主の権利と株主平等の原則

1)株主の権利は自益権と共益権

株主は、株式会社(以下「会社」)会社に資本を提供する出資者であり、会社が倒産すれば、出資を失うリスクを負っている実質的な会社の所有者です。そのため、会社が儲かった場合、配当(剰余金)を受け取ったり、経営者を選ぶ権利を持っています。これらを自益権と共益権といいます。

1.自益権

自益権とは、株主が会社から直接経済的な利益を受ける権利です。「剰余金の配当を受ける権利」「残余財産(会社が解散し、清算される際に残っている会社の財産)の分配を受ける権利」などがあります。

2.共益権

共益権とは、株主が会社の経営に参加する権利で、「株主総会における議決権」などがあります。上記の通り、経営者である取締役を選任する決議権が典型です。

2)株主平等の原則

株主としての権利義務は、持っている株式の内容と数に応じて平等でなければなりません。そこで、会社は株主名簿を作成し、次の内容を記載・記録することになっています。

  1. 株主の氏名または名称および住所
  2. 株主が持っている株式の数(種類株式の場合、株式の種類と種類ごとの数)
  3. 株主が株式を取得した日
  4. 会社が株券発行会社である場合は株式の株券番号

会社は、一定の日を定めて、その日に株主名簿に記載・記録されている株主を権利者と定めます。

2 株式の内容

会社の設立や新株発行は、株主を募ることでもあり、同時に出資金を募ることでもあります。様々なタイプの会社や株主の要望に応じられるように、株式の内容を自由に設計できれば、それだけ、資金調達がしやすくなります。それゆえに、会社法では多様な株式を認めています。

1)全ての株式の内容を異なる株式にする

定款で一定の事項を定めることで、全ての株式について普通株式とは異なる取り扱いにすることができます。具体的に次の通りです。

  • 譲渡制限株式:株式を譲渡する際に会社の承認が必要な株式
  • 取得条項付株式:一定の事由が発生した場合、会社が強制的に取得できる株式
  • 取得請求権付株式:株主が会社に対して取得を請求できる株式

2)株主によって株式の権利内容を変える

株主は、原則として、株式の内容と数に応じて平等に扱われなければなりません。しかし、非公開会社(全ての株式について譲渡制限(譲渡にあたり会社の承認が必要)がある旨を定款に定めている会社)の場合、定款に定めることで、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権行使について株主ごとに異なる定めができます。例えば、

  • 特定の株主にのみ複数の議決権を与える
  • 保有株式数にかかわらず、頭割りで議決権を与える
  • 特定の株主にのみ保有株式数に応じた金額以上(または以下)の剰余金の配当等を行う
  • 保有株式数にかかわらず、頭割りで剰余金の配当等を行う

といった具合です。

3 9つの種類株式

定款で一定の事項を定めることで、次の9つの種類株式を発行できます。

1)剰余金の配当額が異なる株式

優先株式と劣後株式の両方があります。他の株主の先だって、剰余金の配当を受けられる権利があるのが優先株で、この反対の他の株式より遅れてしか配当を受けられないのが劣後株です。業績が悪いときに等に出資を募りたい場合は、優先株を発行するでしょうし、また、会社に資金援助の必要がある場合に親会社や企業が劣後株を引き受けることがあります。

2)残余財産の分配額が異なる株式

優先株式と劣後株式の両方があります。優先、劣後の関係が、上記の剰余金の配当ではなく、会社解散の際の残余財産の配分において認められる株式です。

3)議決権が制限される株式

株主総会の全部または一部の事項について議決権を行使することができない株式を、議決権制限株式といいます。議決権の制限のない一定の株主が会社支配権を持つことになりますが、一定のベンチャー企業等にニーズがあると考えられています。必ずしも健全な姿とは言えないため、公開会社の場合、議決権のない株式が発行済み株式の1/2を超える場合、これ以下にするための必要な措置を講じなければなりません。

4)株式を譲渡する際に会社の承認が必要な株式

一部の種類の株式についてのみ譲渡制限がある会社は、会社法上の公開会社に該当します。公開会社は、非公開会社に比べて定款で会社の基本的な規則を定める自由度が低く、より厳格な会社法上の規律に従うことになります。

従前からある小規模閉鎖会社を念頭にした制度で、仲間以外の人間の会社参入を防ぐことができましたが、一部の株式だけに譲渡制限も付けられるようになっており、より多様な目的にかないます。

5)株主が会社に取得を請求できる株式

株主は、定款に定められた期間内に請求することで、定款の定めに従い、対価を得ることができます。一定の期間、会社の資金需要を賄いつつ、一定の期間後、会社の配当の負担を減らすことが可能になります。

6)一定の事由が発生した場合、会社が強制的に株式を取得できる株式

会社は、定款に定められた事項が生じたことを株主等に通知・公告し、定款の定めに従い対価を支払うことによって、会社が株主から株式を取得することができる株式です。

7)株主総会の特別決議により、他の株式などと引き換えに会社が取得できる株式

株主総会の特別決議によりその種類の株式の全部を取得することができる株式です。

8)一定の事項につき、株主総会の決議に加え、その種類株主総会の決議が必要な株式

いわゆる黄金株や、拒否権付き株式といわれるものです。その種類株主総会で会社の合併などの総会決議事項を否決することできます。合弁会社やベンチャー企業においてニーズがあるといわれてはいますが、特異な制度ではあります。

9)当該株式の種類株主総会の決議だけで取締役または監査役を選任・解任する株式

ある種類株式の種類株式総会だけで、取締役又は監査役を選任できる株式です。その種類株式総会で選任できる取締役、監査役の人数は、定款で定めなければなりません。これらも合弁会社やベンチャー企業において、ニューズがあるといわれています。なお、委員会設置会社および公開会社はこの株式を発行することはできません。

4 発行済株式の内容を変更する手続き

1)既存の全ての株式の内容を変更する手続き

1.譲渡制限

定款を変更して普通株式に譲渡制限を付ける場合、株主総会の特殊決議が必要です。特殊決議には、議決権を行使できる株主の半数以上であって、当該株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。また、反対株主には買取請求権が与えられます。

2.取得条項

定款を変更して普通株式に取得条項を付ける場合、全ての株主の同意が必要です。反対株主に株式買取請求権は与えられません。

3.取得請求権

定款を変更して普通株式に取得請求権を付ける場合、株主総会の特別決議が必要です。特別決議には、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。反対株主に株式買取請求権は与えられません。

2)既存の一部の種類株式の内容を変更する手続き

1.譲渡制限

定款を変更して種類株式に譲渡制限を付ける場合、その種類株式を持つ株主が参加する種類株主総会の特殊決議が必要です。特殊決議の内容や株式買取請求権については、前述した「既存の全ての株式の内容を変更する手続き」と同じです。

2.取得条項

定款を変更して種類株式に取得条項を付ける場合、全ての種類株主の同意が必要です。反対株主がいても、株式買取請求権は与えられません。

3.全部取得条項

全部取得条項付種類株式とは、「7.株主総会の特別決議により、他の株式などと引き換えに会社が取得できる株式」(前述した「2)権利の異なる複数の種類の株式を発行する」を参照)のことです。特別決議には、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。

定款を変更して、ある種類株式に全部取得条項を付ける場合、その種類株式を持つ株主が参加する種類株主総会の特別決議が必要です。また、反対株主には買取請求権が与えられます。

5 譲渡制限株式を譲渡するための手続き

1)株主からの承認の請求

譲渡制限株式の譲渡人は、譲渡制限株式を発行した会社に対して、譲受人への譲渡を承認するか否かを決定するよう請求します。

2)譲渡の承認の決定など

譲渡人から譲渡承認の請求を受けた会社は、承認するか否かを決定し、その内容を譲渡人に通知します。この通知は、譲渡承認の請求から2週間以内にしなければならず、これを超えると譲渡を承認したものと見なされます。なお、定款に定めることで2週間を短縮できます。

3)会社または指定買取人による買取請求

会社が譲渡を拒否すれば、譲渡人は株式に投資した資本を回収できません。そこで、譲渡人は、譲渡承認の請求に際して、譲渡を承認しない場合は会社または指定買取人が譲渡制限株式を買取るように請求できます。

4)会社または指定買取人による買取り

3)の請求がなされ、会社が株式譲渡を承認しない場合、会社は、会社が買取るか、別の買取人を指定するかを決定します。

会社が買取る場合、会社は2)の通知をしたときから40日以内(これを超えた場合、譲渡を承認したと見なされる)に、1株当たり純資産額に買取る対象株式数を乗じて得た額を供託します。そして、当該供託を証する書面を譲渡人に交付し、譲渡人に株式を買取る旨および買取る株式の種類および数を通知します。

別の買取人を指定する場合、指定買取人は2)の通知をしたときから10日以内(これを超えた場合、譲渡を承認したと見なされる)に、指定買取人が1株当たり純資産額に買取る対象株式数を乗じて得た額の供託を証明する書面を譲渡人に交付します。そして、指定買取人として指定された旨および買取る株式の種類および数を通知します。

5)売買価格の協議

会社または指定買取人から譲渡人に4)の通知があったら、売買価格を協議します。協議が調えば、それが売買価格となります。

6)裁判所による売買価格の決定

4)の通知があった日から20日以内に、裁判所に売買価格決定の申し立てがあれば、裁判所が定めた額が売買価格となります。一方、20日以内に申し立てがない場合は、4)で供託した金額が売買価格となります。

7)留意点

以上は、譲渡人が承認を求める流れです。反対に譲受人から承認を求めることもでき、基本的な手続きの流れは同じです。譲受人が承認を求める場合、「取得した株式の株主名簿上の株主またはその一般承継人と共同で請求」をするか、「確定判決、裁判上の和解、競売、株式移転などで株式を取得したことを示す資料を提供して請求」します。

6 株式に係るその他の制度について

1)単元株制度

単元株制度とは、

定款で一定数の株式を「1単元」と定め、単元株式数(1単元の株式)につき1個の議決権を認める一方、単元株式数に未たなければ議決権を認めない

というものです。単元株制度の目的は、少額出資者の権利(特に「共益権」)を限定し、会社の株主管理コストを削減することです。つまり、一定の株式数を持つ株主だけを対象に議決権行使に関する手続きをすればよいので、業務が効率化できるのです。

一方、単元株制度は、単元未満株主の権利を制限するため、会社法ではこの点に配慮しています。例えば、

  • 単元株式数の上限を1000および発行済株式の総数の200分の1
  • 単元未満株主は会社に株式の買取請求ができる
  • 単元株式数となるように、単元未満株主が会社に株式を売り渡すよう請求できる

ことなどを定めています。

2)株式の分割・併合

株式の分割とは、発行済株式を細分化することです。例えば、1株を10株に分割すると、会社財産は変わらないまま株式総数が増えます。その結果、1株当たりの株価が下がり、株式の流動性が向上します。株式分割は既存株主にはあまり影響がないため、取締役会設置会社は取締役会の決議、その他の会社は株主総会の普通決議で決められます。

株式の併合とは、数個の株式を合わせることです。例えば、2株を1株に合わせると、会社財産は変わらないまま株式総数が減ります。その結果、1株当たりの株価が上がり、株式の流動性が低下します。また、株主管理コストを削減したり、合併や株式交換などに先立って株式の割当比率を調整したりすることができます。

株式の併合によって1株に満たない端数が生ずる場合、会社は端数の合計数に相当する株式を競売などで売却し、売却金を従前の株主に分配することになるので、既存株主にとっては影響が大きい手続きといえます。そこで、株式の併合を行うためには、原則として、株主総会の特別決議が必要です。また、取締役はその株主総会において、株式併合の必要性を説明しなければなりません。

以上(2024年7月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 有村佳人)

pj60071
画像:Mariko Mitsuda

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です