書いてあること
- 主な読者:中小企業で多く設置される「機関」について少し詳しく知りたい人
- 課題:多く設定される機関の種類と、それぞれの機能が分からない
- 解決策:株主総会、取締役、取締役会、監査役、監査役会の主な機能を知る
1 株主総会
1)株主総会の権限
株主総会は、会社の「最高意思決定機関」です。株主を構成員として、組織、運営、管理など会社に関する一切の事項を決議します。株主総会には、定時株主総会と臨時株主総会とがあります。
- 定時株主総会:事業年度の終了後に開催
- 臨時株主総会:定時株主総会以外で必要がある場合に開催
取締役会設置会社の場合、会社法で定められている事項と定款で定めた事項に限って決議できます。具体的には、取締役等の選任や解任に関する事項、定款の変更、会社運営に関する重要事項などです。
取締役会非設置会社の場合、会社法で定められている事項に加えて、会社の組織、運営、管理その他会社に関する一切の事項を決議できます。
2)株主総会の招集手続き
取締役会設置会社の場合、取締役会で「開催の日時・場所」「議題(株主総会の目的事項)」「書面投票・電子投票を認めるときはその旨」などを決めて、代表取締役が招集します。招集通知は書面が原則ですが、株主の承諾を得れば電磁的方法でも大丈夫です。定時株主総会の招集通知の際は、計算書類と事業報告も提供します。また、公開会社の招集通知は株主総会の2週間前です。非公開会社の招集通知は株主総会の1週間前までですが、定款に定めれば短縮できます。
取締役会非設置会社の場合で、書面投票や電磁的方法による議決権行使を認めないのであれば、招集通知を書面で行う必要はありません。また、議題の通知は必要なく、計算書類と事業報告の提供も必須ではありません。また、公開会社の招集通知は株主総会の2週間前です。非公開会社の招集通知は株主総会の1週間前までですが、定款に定めれば短縮できます。
なお、非公開会社とは、全ての株式について譲渡制限(会社の承認が必要)ある旨を定款に定めている会社です。
3)議事の運営および議題
議事の運営は議長が行います。とはいえ、運営方法が会社法で定められているわけではなく、定款または慣習に任されています。
取締役会設置会社の場合、原則として、議題(株主総会の目的事項)として定めた事項以外のことは株主総会で決議できません。議題として定めた事項以外を決議した場合、株主総会決議取り消しの訴えの原因となります。
取締役会非設置会社の場合、議題として定めた事項以外でも決議できます。
4)3つの決議の方法
1.普通決議
普通決議には、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した株主の議決権の過半数の賛成(決議要件)が必要です。決議事項は、特別決議や特殊決議が必要ない事項です。ただし、定款に定めることで定足数をなくすことができます。
2.特別決議
特別決議には、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の賛成(決議要件)が必要です。ただし、定款に定めることで定足数を3分の1超、決議要件を3分の2超にすることができます。主な決議事項には、募集株式の発行、組織再編などがあります。
3.特殊決議
特殊決議には2種類あります。1つは、議決権を行使できる株主の半数以上であって、当該株主の議決権の3分の2以上の賛成(決議要件)を必要とするものです。主な決議事項には、発行する全部の株式に譲渡制限を付するための定款変更などがあります。
もう1つは、総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上の賛成(決議要件)を必要とするものです。主な決議事項には、非公開会社における「剰余金の配当を受ける権利」「残余財産の分配を受ける権利」「株主総会における議決権」について、株主ごとに異なる取り扱いを行う旨の定款の変更(廃止を除く)などがあります。
5)議事録
議事録の原本は株主総会の日から10年間、本店に備え置きます。同様に、写しを5年間、支店に備え置きます。
6)手続きの簡略化
一定の要件を満たすと、招集手続きなどを簡略化できます。例えば、議決権を行使できる全ての株主が同意すれば、招集手続きをせずに株主総会が開催できます(書面投票や電磁的方法による議決権を認めない場合)。
株主総会の開催を省略できることもあります。例えば、議決権を行使できる全ての株主が取締役または株主の提案に書面または電磁的記録で賛成しているときは、その提案を可決した株主総会の決議があったものと見なし、株主総会の開催を省略できます。
さらに、全ての株主に報告事項を通知し、全員がその報告事項を株主総会に報告する必要が無いと書面または電磁的記録で同意したときは、報告があったものと見なし、株主総会の開催を省略できます。
2 取締役
1)取締役の権限
取締役は、株主から会社経営を任された、いわば「経営のスペシャリスト」であり、会社の業務執行をする機関です。
取締役の業務執行権は、取締役会が設定されているか否かで違ってきます。取締役会設置会社の場合、全ての取締役で組織される取締役会が業務執行に関する意思決定を行います。業務執行は、代表取締役または取締役会の決議によって会社の業務を執行する取締役として選任された業務執行取締役が行います。
取締役会非設置会社で取締役が1人のときは、定款で特に定めていない限り、その取締役が包括的な業務執行権限を持ちます。取締役が2人以上いるときは、定款で特に定めていない限り、取締役の過半数をもって決定した業務執行を各取締役が行います。
2)取締役の人数
取締役会設置会社の場合、取締役は3人以上を選任し、その中から代表取締役を取締役会の決議によって選びます。代表取締役は1人でも2人以上でも構いません。取締役会非設置会社の場合、取締役は複数でも1人でも大丈夫です。
3)選任・解任
取締役の選任・解任は、原則として、株主総会の普通決議によって行います。
4)取締役の任期
取締役の任期は、原則として、2年です。ただし、定款に定めるか、株主総会の普通決議によって短縮できます。また、非公開会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)の場合、定款に定めれば、取締役の任期を最長10年まで伸ばせます。
3 取締役会
1)取締役会の権限
取締役会は、取締役で構成される合議体である機関です。業務執行に関する意思決定を行いますが、次の事項について委任することはできません。
- 重要な財産の処分・譲り受け
- 多額の借財
- 支配人その他重要な使用人の選任・解任
- 支店その他の重要な組織の設置・変更・廃止
- 社債の募集に関する事項およびその他重要な事項として法務省令で定める事項
- 内部統制システムの整備
- 定款規定に基づく取締役等の責任の一部免除
- その他重要な業務執行の決定
2)取締役会の招集手続き
取締役会は、定款または取締役会の定めがある場合はその取締役、定めが無い場合は各取締役が招集します。また、取締役会の招集権がない取締役でも、招集権者に取締役会の目的である事項を示して招集を請求できます。
招集は、取締役会の1週間(これを下回る期間を定款で定めた場合は、その期間)前までに、各取締役(監査役設置会社の場合は、各取締役および各監査役)に通知をします。通知は書面でなくてもよく、招集通知に議題を記載する必要もありません。
3)決議の方法
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、出席した取締役の過半数で行います。この要件は、定款に定めれば加重できます。ただし、軽減はできません。また、決議事項について特別の利害関係がある取締役は決議に参加できません。
4)議事録
取締役会を開催したら、日時・場所・出席者・議事の内容などを記載した議事録を作成します。書面で作成したときは、出席した取締役・監査役は署名または記名押印します。決議に反対した取締役は、議事録に異議をとどめておかないと決議に賛成したものと推定されます。作成した取締役会議事録は、取締役会の日から10年間、本店に備え置きます。
5)手続きの簡略化
取締役会の招集は、全ての取締役(監査役設置会社の場合は、取締役および監査役)の同意があれば省略できます。
定款の定めがあり、議決に加わることのできる全ての取締役が書面ないし電磁的方法によって議案に同意する場合、その議案を可決したものと見なして、取締役会の開催を省略できます。ただし、監査役設置会社の場合、監査役が異議を述べたら取締役会は省略できません。
4 監査役
1)監査役の権限
監査役は、取締役(および会計参与)の職務執行を監査する機関です。そのため、いつでも取締役などに対して事業の報告を求めることができますし、会社の業務および財産の状況を調査することもできます。
また、監査役には、計算書類や事業報告、これらの附属明細書を監査する権限と義務があります。ただし、会計監査人(公認会計士または監査法人)が置かれている場合、会計監査人の監査の方法または結果が相当かどうかなどを監査すれば足ります。
2)監査役の人数
監査役は1人でも大丈夫です。ただし、ただし、監査役会設置会社の場合は3人以上を選び、その半数以上は社外監査役でなければなりません。
3)選任・解任
監査役の選任は、原則として、株主総会の普通決議によって行います。また、解任は株主総会の特別決議によって行います。
4)監査役の任期
監査役の任期は、原則として、4年です。ただし、非公開会社の場合、定款に定めれば最長10年まで伸ばせます。しかし、短縮はできません。
5 監査役会
1)監査役会の権限
監査役会は、監査役で構成される合議体である機関です。
監査役会は全ての監査役で構成され、監査報告の作成、常勤監査役の選定および解職、監査の方針、監査役会設置会社の業務および財産の状況の調査の方法、その他の監査役の職務の執行に関する事項を決定します。
監査役会設置会社は、非公開会社であっても、監査役会による監査の範囲を会計監査に限定することはできません。
2)監査役会の招集
監査役会の招集権は、各監査役が有します。招集は、監査役会の日の1週間前(これを下回る期間を定款で定めた場合はその期間)までに通知します。
3)決議の方法
監査役会の決議は、監査役の過半数で行います。
4)議事録
監査役会を開催したら、日時・場所・出席者・議事の内容などを記載した議事録を作成します。書面で作成したときは、出席した監査役は署名または記名押印します。決議に反対した監査役は、議事録に異議をとどめておかないと決議に賛成したものと推定されます。作成した監査役会議事録は、監査役会の日から10年間、本店に備え置きます。
5)手続きの簡略化
全ての監査役全員の同意があれば、招集の手続きをせずに監査役会を開催できます。
以上(2024年7月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)
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画像:Mariko Mitsuda