書いてあること
- 主な読者:会社法に基づく株式会社の設立の流れを把握したい人
- 課題:設立の手続きは複雑で、難しそう
- 解決策:主な流れは「事前の検討」「定款の作成・認証」「出資金の払い込み」「設立時の取締役の選任」「会社の設立登記」になる
1 発起設立と募集設立
株式会社(以下「会社」)を設立する方法には、以下の2つがあります。具体的な進め方は会社法に従う必要があり、手続きに瑕疵(かし)があると、会社の設立が無効となってしまうこともあります。
- 発起設立
- 募集設立
1)発起設立
発起設立とは、
発起人(その会社の設立を企画した者)が、会社設立時に発行される株式(設立時発行株式)を全て引き受ける方式
です。発起人が複数いる場合、各発起人は1株以上引き受けなければなりません。現在は最低資本金制度が撤廃されているので、1人または少数の発起人でも会社を作りやすくなっています。こうした事情から、会社の設立は発起設立が一般的です。
発起人になるためには、定款に署名または記名押印しなければなりません。事実上、会社の設立に尽力したとしても、発起人として定款に署名などをしていなければ、発起人にはなれません。
2)募集設立
募集設立とは、
設立時発行株式のうち、発起人が一部だけを引き受け、その他の株式は第三者から募集する方式
です。募集設立が選択されるのは、資本金額の大きい会社を設立する必要がある、発起人の縁故者が株式の募集に応じるなどといったケースに限られます。
2 会社設立(発起設立)の流れ
会社設立の大まかな流れは次の通りです。
1)事前の検討
発起人、事業目的、商号、機関設計、資本金の額などを決めます。留意が必要な点は次の通りです(本店所在地や事業年度については触れていません)。
1.発起人
発起人は、設立時発行株式を1株以上引き受けなければなりません。誰を発起人とするかは、慎重に決める必要があります。
2.商号
商号とは、会社名のことです。原則として、会社名は自由に決められますが、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社といった会社の種類に従い、商号中に株式会社や合名会社などの文字を用いなければなりません。また、自社が有利になるように他社と同じまたは似た商号を使用したり、有名企業の商号を使用したりすることはできません。
3.事業目的
事業目的とは、会社が行う事業の内容や目的です。会社は、定款で定めた事業目的の範囲内でしか活動できません。そのため、設立後すぐに行う事業だけではなく、今後、行う可能性のある事業も含めて記載するのが一般的です。通常、具体的な事業内容を各号で列挙した上で、最後に「前各号に付帯関連する一切の事業」と定めます。
4.機関設計
機関とは、株主総会や取締役など会社の意思決定や運営などを行うもののことです。株式会社の機関には以下のようなものがあり、これらを会社法のルールに従って組み合わせることを機関設計といいます。
株主総会、取締役・代表取締役、取締役会、監査役、監査役会、会計参与、会計監査人、監査等委員会、指名委員会等、執行役
5.資本金の額
資本金の額は、会社法上は最低資本金制度が廃止されているため、少額であっても問題ありません。ただし、資本金の額が少額だと、経営の安定性といった観点からは不安視されることがあるので、注意が必要です。
2)定款の作成・認証
定款とは、
会社の組織や運営などに関する基本的なルール
であり、発起人が作成します。定款が無ければ会社を設立することができません。定款に記載する事項は、「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」に分かれます。
1.絶対的記載事項
絶対的記載事項とは、定款に必ず記載しなければならず、その規定を欠くと定款が無効になる事項です。絶対的記載事項は次の通りです。
- 事業目的
- 商号
- 本店の所在地
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
- 発起人の氏名または名称および住所
- 発行可能株式総数
発行可能株式総数は、公証人の認証を受ける際に提出する「原始定款」には記載しなくても大丈夫です。しかし、設立登記までには発起人全員の同意の上、記載しなければなりません。
2.相対的記載事項
相対的記載事項とは、記載しなくても定款の効力自体に問題はないものの、その内容について効力が認められない事項です。主な相対的記載事項は次の通りです。
- 設立時の変態設立事項(現物出資、財産引き受けなど)
- 種類株式の発行、全部譲渡制限、全部取得請求権・取得条項付株式の発行
- 株券の発行
- 取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会または指名委員会等の設置
- 取締役、監査役、執行役を株主に限定する定め
- 取締役および監査役の任期伸長
- 全取締役の同意により取締役会決議を省略できることの定め
- 取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人の責任免除、取締役(業務執行取締役)、会計参与、監査役、会計監査人の責任限定契約
- 取締役会設置会社の中間配当
- 会計監査人設置会社の取締役会による剰余金の配当
- 公告の方法
- 剰余金の配当請求権の除斥期間の定め
- 株主総会における議決権行使の代理人資格を株主に限る旨の定め
設立時の変態設立事項とは、会社設立時にその事項を決定した場合に必ず記載するものです。例えば、現物出資とは発起人が金銭以外の財産で出資を行うことです。具体的には、動産・不動産・債権・有価証券・知的財産権などで出資をします。また、財産引き受けとは、発起人が会社のために第三者との間で会社の設立後に特定の財産を譲り受ける契約のことです。
3.任意的記載事項
任意的記載事項とは、会社が任意に記載する事項であり、必ずしも定款に記載しなくてもよく、他でも規定できる事項です。定款で定められることが多い任意的記載事項は次の通りです。
- 株式の名義書き換え手続き
- 定時株主総会の招集時期
- 株主総会の議長
- 取締役・監査役の員数
- 代表取締役の選定方法
- 取締役の報酬等の決定方法
- 社長・会長・専務取締役・常務取締役等の役職
- 取締役会の招集権者・議長
- 事業年度
定款の作成は、弁護士や司法書士などの専門家や、定款の認証を行う公証役場に相談しながら進めます。定款が完成したら、発起人全員が署名または記名押印し、公証人の認証を受けます。認証を受ける公証役場は、本店所在地の都道府県内の公証役場です。
3)出資金の払い込み
定款が認証されたら、出資金を払い込みます。具体的には、発起人が指定した銀行口座(まだ、会社の口座がないため)に、各発起人が振り込みます。これが資本金です。資本金が払い込まれたら、代表取締役(または唯一の取締役)が資本金の払い込みを証する文書を作成し、登記申請書の添付書類として法務局に提出します。
資本金は、現物出資もできます。現物出資を行う場合、定款に現物出資に関する定めを記載します。また、原則として、裁判所に検査役の選任を申し出て、検査役の調査を受けなければなりません。ただし、現物出資の総額が500万円以下である場合や、財産の価額が相当であると弁護士など専門家の証明がある場合は、検査役による調査は不要となります。
4)設立時の取締役の選任
定款で定めた機関設計に従って、設立時の取締役を選任します。定款で、設立時取締役や監査役を定めており、かつそれらの者が発起人として定款に署名または記名押印している場合は、「就任承諾書」を省略できます。
定款に定めが無い場合は、取締役と監査役の選任手続きをします。発起人が1人の場合は「設立時取締役・設立時監査役選任決定書」を作成し、発起人が2人以上いる場合は「発起人会(発起人が集まり開く会議)」で取締役や監査役を選任します。その上で、それぞれの取締役から就任承諾書を取得します。
選任された取締役・監査役は、株式の引き受けや払い込みについて調査し、法令・定款違反または不当な事項がある場合は発起人に伝えなければなりません。なお、設立時取締役・監査役の調査が完了した日(または発起人が定めた日)が発起設立の手続き終了の日になります。
5)会社の設立登記
会社の設立登記を行います。その登記申請は、会社の本店所在地を管轄する法務局で行います。
6)実務上のその他の手続き
会社法で定められている主な手続きは以上の説明で終わりですが、実務上、都道府県や市区町村、税務署、年金事務所、労働基準監督署、公共職業安定所などでの各種手続きも必要です。会社名義の銀行口座の開設なども必要となるでしょう。
具体的な説明は省略しますが、各種手続きには会社によって異なる点もあります。そのため、こうした手続きも含めて、事前に確認しておくようにしましょう。
以上(2024年7月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)
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画像:Mariko Mitsuda