書いてあること
- 主な読者:マイカー通勤をしている経営者やその会社の総務担当者など
- 課題:交通事故のリスクを低減したい
- 解決策:自家用自動車管理業に運転を委託するなど、交通事故のリスク低減に努める
1 経営者のマイカー通勤にはリスクがある
皆さんの会社では、マイカー通勤(社用車・社有車を含みますが、便宜上、「マイカー通勤」と表記します。以降、同様)を認めていますか。
マイカー通勤は便利で気楽な半面、交通事故のリスクがあります。特に、会社を代表する経営者が交通事故を起こしたり、交通事故に巻き込まれたりしたら深刻な影響が及ぶ恐れがあります。中には、高齢でありながらマイカー通勤を続けている経営者もいるでしょう。しかし、たとえ運転免許の更新ができたとしても、加齢に伴う身体機能の低下を考えると過信は禁物です。
交通事故件数は減少傾向にありますが、依然として年間28万件以上の交通事故が発生しており、65歳以上のドライバーが起こしてしまう事故は約25%に達します。経営者がマイカーを運転して通勤する途中に交通事故の加害者・被害者になっても不思議ではない状況ですが、その場合、次の問題が生じます。
- 経営者が死傷した場合、会社の意思決定に支障を来す
- 経営者や会社が刑事上・民事上の責任を問われ、多額の損害賠償を請求されたり、社会的信用が損なわれたりする
この記事では、マイカー通勤中の経営者が交通事故の当事者となった場合、どのような問題点があるかを整理した上で、交通事故のリスクを回避する方法の一例を提案します。総務担当者などが中心となって、経営者のマイカー通勤のリスクを改めて見直してみてください。
2 経営者が交通事故の当事者となってしまった場合
1)経営者自身の死傷
経営者が入院や自宅療養を余儀なくされる場合、一時的とはいえ、会社は経営者不在の状況となり、意思決定に支障を来します。資金調達など会社の重要な機能が滞る恐れもあるでしょう。また、負傷の程度によっては、経営者ご自身の体が事故前の状態に完全に戻るとは限りません。
最悪の事態として経営者が急逝してしまった場合、ほとんど準備をしていない状況で後継者を決め、事業を存続させていかなければなりません。
2)会社の信用度の低下
相手が死亡するなどの重大な交通事故を起こした経営者は、自身が思い悩むことはもちろん、社会から非難され、経営者としての立場を続けることが難しくなるかもしれません。
もちろん、過失割合の大小にかかわらず、その事実が明るみに出た時点で会社のイメージも悪化するでしょう。
3)刑事上・民事上の責任
死者や重傷者が出てしまうような重大な交通事故なら、刑事上・民事上の責任を問われることになります(この他に行政上の責任がありますが、この記事では割愛します)。
まず刑事上の責任です。自動車の運転上必要な注意を怠り他人を死亡させてしまった場合、運転者は過失運転致死傷罪に問われる恐れがあります。これが確定すると、7年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金が科されます。
民事上の責任は、交通事故の被害者や遺族に対する損害賠償です。交通事故の状況や被害の大小によって損害賠償の内容は異なりますが、被害者が死亡してしまった場合は、より高額になります。通常、賠償金は損害保険を利用して支払いますが、任意保険の補償金額で足りなければ経営者自身が負担することになりますし、会社が「経営者のマイカー通勤を認めている場合」などは、会社に責任が及ぶ恐れもあります。
3 交通事故のリスクを回避するための方法
1)マイカーの運転や管理を自家用自動車管理業に委託する
自動車(というハード)があれば、それに対して運転、整備、修理、燃料、消耗品などのソフト面を任せることができるのが「自家用自動車管理業」です。そのため、自分で車両を管理する手間が省けるといったメリットがあります。
自動車保険は自家用自動車管理業のほうで契約(保険料は依頼者側が負担)し、交通事故発生時の補償や処理も自家用自動車管理業側で行ってもらえます。
■日本自動車運行管理協会■
https://www.ajva.or.jp/service/index.html
2)タクシーやハイヤーを利用する
どちらも車で目的地に移動するという点では同じですが、ハイヤーは完全予約制かつ、タクシーよりもサービスが充実しています。利用料金も異なるため、通勤の頻度や利用シーンによって使い分けると良いでしょう。
3)専属の運転手を確保する
自社雇用、もしくは外部委託で専属の運転手を確保するのも一策です。自社雇用であれば、自社で重視する条件に合わせた雇用、育成ができる点がメリットになります。一方で、外部委託であれば、車両の運転のみなど、業務の範囲が限られますが、求人、採用、管理などのコスト削減につながる点がメリットになります。
ただし、万一の交通事故発生時の責任や処理は自社で行う必要があることに注意が必要です。
4)企業向け安全教育を活用する
交通事故が発生しやすい状況の確認であったり、継続的に自身の運転能力や適性を把握したりすることでも交通事故のリスク回避につながります。
例えば、JAF(日本自動車連盟)では、安全運転のコツ「ウェブトレーニング」をウェブサイト上で公表しており、交通安全トレーニングや危険予知トレーニングなどを閲覧することができます。
■JAF 安全運転のコツ「ウェブトレーニング」■
https://jaf.or.jp/common/safety-drive/online-training
5)通勤頻度を減らす
在宅勤務やサテライトオフィス勤務などのリモートワークによって、オフィスに通勤する頻度を減らすのも、交通事故のリスクを軽減する一策です。燃料費の削減や移動時間の短縮にもつながります。
6)他の通勤手段と併用したり、置き換えたりする
自転車通勤などによって、自動車を使う距離を短縮するのも1つの方法です。燃料費の削減や身体面・精神面の健康増進にもつながります。
ただし、自転車通勤でも走行時のヘルメットの着用、自転車損害賠償責任保険の加入など、交通事故のリスクを低減するための対策は欠かせません。
以上(2024年9月更新)
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画像:pexels