書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法のポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか把握していないので、全体像が知りたい
  • 解決策:法定利率のポイントを紹介(シリーズの他のコンテンツもあります)

1 法定利率の改正

1)法定利率とは

法定利率とは、利息の発生に関する当事者の合意があるものの、利率が合意によって定められていない場合や、法律の規定により利息が発生する場合に適用される利率です。旧民法では年5分(5%)でしたが、改正民法では変更されました。

簡単にまとめると、「当初の法定利率を年3%とする。その後、市場金利の過去5年間の平均値が、前回法定利率を見直したときより1%以上変動したら、その分だけ法定利率を加減する」となります。より厳密には、次の通りです。

  • 改正民法施行後、法定利率は(まず)年3%とする。
  • その後、3年を1期として、1期ごとに法定利率を見直す。
  • 各期の法定利率は、「法定利率に変更があった期のうち直近のものの基準割合」と、「当期の基準割合」との差に相当する割合(その割合に1%未満の端数があるときは、これを切り捨てる)を、直近変動期の法定利率に加算・減算した割合とする。
  • この基準割合は、短期貸付けの平均利率の過去5年間(厳密には「各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月まで」)の平均値とする(法務大臣が告示する)。

債権の利率は、別段の意思表示がない限り、その利息が生じた最初の時点の法定利率で固定し、その後は変動しません(改正民法第404条第1項)。また、民法の改正に伴い、商法で定められていた、いわゆる商事法定利率・年6%は廃止されました。

2)契約で利率、遅延損害金を定める

法定利率は1期(3年)ごとに見直されるので、取引相手との合意によって利率を定めておかなければ、たとえ同じ取引先・同じ取引内容であっても債権ごとに利率が異なる可能性があります。

実務上、契約書では、約定利率、遅延損害金利率を定めていることが一般的です。しかし、注文書と受注書だけで取引をしている場合や、契約書締結の負担感を下げるため、あえて簡便な契約書を用いているような場合、利率、遅延損害金の定めがないこともあります。注文書などの書面を確認し、約定利率、遅延損害金利率を定めるようにしましょう。

2020年4月1日より前に利息が生じた場合、旧民法の法定利率、2020年4月1日以降に利息が生じた場合、改正民法の法定利率の規定が適用されます。

2 中間利息の控除の改正

中間利息の控除の計算において、損害賠償の請求権が生じた時点の法定利率が適用されることになりました(改正民法第417条の2)。中間利息の控除の概念に関する詳細は割愛しますが、これは逸失利益の請求額などに大きく影響します。

交通事故の逸失利益の場合で考えてみましょう。被害者が将来30年間にわたり得るはずだった収入を年3%の場合の現在価値に割り引くと、年収約19.6年分となります。利率年5%で計算した場合は年収約15.4年分であり、約4.2年分も賠償額が大きくなります(19.6年-15.4年)。年収500万円の方を前提とすれば、単純計算で、賠償額が2100万円近く変わることになります。これは、労災事故が起きたといった場合に会社が負うべき賠償額についても同じです。

このような賠償義務のリスクを軽減するため、損害保険への加入や、すでに加入している場合は補償内容の見直しの検討も必要かもしれません。

以上(2020年11月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:pixabay

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