書いてあること

  • 主な読者:BtoC、消費者相手のビジネスを展開する企業
  • 課題:消費者契約法の改正が頻繁に行われており、改正内容を十分にフォローできていない
  • 解決策:契約の取り消しに関する規定が強化される流れ。特に「過量契約の取り消し」「不実告知の契約取り消しにおける重要事項」の2つを押さえておく

1 見直しが進む消費者契約法

消費者契約法とは、消費者を保護すべく、不当な勧誘による契約の取り消しと不当な契約条項の無効等を規定している法律です。近時の改正で重要なのは2017年6月から適用された、「過量契約の取り消しの新設」「不実告知の契約取り消しにおける重要事項の拡大」の2つです。これらの概要と事業者の対応方法を紹介します。

なお、消費者契約法は2019年6月にも改正が行われていますが、基本的には2017年6月施行の改正法と同様に、不当な勧誘行為等をする悪質な事業者に対する規制を、より強化する方向の見直しです。この改正については、巻末で紹介していますので、併せてご確認ください。

2 過量契約の取り消し

1)過量契約とは

過量契約とは、「消費者が事業者から受ける物品、権利、役務などが、当該消費者にとっての通常の分量、回数、期間(以下「分量等」)を著しく超える」ケースを指します。取り消しの対象となる過量契約は、次のような場合です。

1つは、一度に大量の商品を販売する場合です。1回の販売における分量等が、消費者にとっての通常の分量等を著しく超えると過量契約になります(消費者契約法4条4項前段)。

  • 例:独居の高齢者であることを知っていながら、1人では消化することができない量の食品を販売するなど

もう1つは、同じような種類の商品を繰り返し販売する、いわゆる「次々販売」の場合です。過去に販売した分量等の合計が、消費者にとっての通常の分量等を著しく超えると過量契約になります(消費者契約法4条4項後段)。

  • 例:社交の場にほとんど出ない高齢者に、同じような種類の服を次々に販売するなど

2)事業者が勧誘の際に過量契約であることを知っていたかがポイント

過量契約の取り消しが認められるためには、「事業者が勧誘の際に過量契約に該当することを知っていたこと」が要件とされています。過量契約の取り消しは、合理的な判断をすることができない事情がある消費者に対し、その事情につけ込んで契約を締結させるという、事業者の行為の悪質性に着目したものです。そもそも事業者が過量契約であることを知らなければ、事業者の行為に取り消しを認めるまでの悪質性はないといえます。

例えば、消費者が自らレジに商品を持ってきた場合や、インターネットやテレビショッピングで購入した場合などについては、事業者は注文を受け付けただけで勧誘を行っていないため、過量契約にはならないことが多いといえます。

また、事業者が消費者の生活の状況など(独居であること、認知症であることなど)を把握しておらず、過量契約となることを知り得ない場合も過量契約にはなりません。なお、事業者に消費者の生活状況などを調査する義務はありません。

3)過量契約か否かを判断する際の視点

1.内容(性質、性能、大きさ、用途など)

例えば、生鮮食品のようにすぐに消費が必要なものは、缶詰のように比較的長期間の保存が前提とされるものと比べて、過量契約になりやすい傾向があります。

2.取引条件(価格、景品類提供の有無など)

例えば、何十万円もする高価品は、100円の商品と比べて、当該消費者にとっての通常必要とされる分量等が少なくなり、過量契約になりやすい傾向があります。

3.消費者の生活の状況(職業、世帯構成、交友関係、趣味嗜好等)

例えば、独居の消費者の場合、通常必要とされる分量等が少なくなり、過量契約になりやすい傾向があります。ただし、友人が遊びに来るなどの一時的な事情で大量購入をする場合もあるため、個別具体的な検討が必要になります。

4.消費者の認識

例えば、消費者が1カ月後の友人の来訪予定を翌日と勘違いして大量の食品を購入した場合などは、過量契約にはならないと考えられます。

ただし、その消費者が認知症などで合理的な判断ができず、来訪予定を誤認していることを事業者が客観的に分かっているような場合には、過量契約になると考えられます。

4)過量契約にならないよう事業者は何をすべきか?

誠実な企業活動をしている事業者が過敏になる必要はないでしょう。前述したように、過量契約の取り消しは、高齢者など合理的な判断ができない消費者につけ込む、事業者の行為の悪質性に着目して設けられた規定だからです。

過量販売規制の対応として、事業者は、取扱商品の内容や取引条件、ターゲットとなる消費者の特徴を社内で共有するようにしましょう。その上で、過去の販売実績と比べて明らかに販売量が多いケースでは、消費者に事情を確認する、現場の営業担当者が独断せずに必ず上司に相談するなどの方法で対応します。

3 不実告知の契約取り消しにおける重要事項

1)不実告知の重要事項とは

不実告知とは、事業者が消費者に対し、重要事項について、事実と異なることを告げることです。不実告知の「重要事項」の範囲は、次の通りです(消費者契約法4条1項1号)。

  • 物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容、および対価その他の取引条件であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの(消費者契約法4条5項1号及び2号)
  • 当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情(消費者契約法4条5項3号)

2)不実告知となるケース

例えば、事業者が事実に反して、「(実際はシロアリがいないにもかかわらず)床下にシロアリがいて家が倒壊する恐れがある」として、リフォームをしたほうがよいと勧誘し、消費者とリフォーム契約を締結したとします。

「床下にシロアリがいる」ことは家が倒壊する恐れがあるので、「消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益に対する損害や危険を回避するために必要な情報」といえます。この例のように、そうした事実がない場合、消費者は不実告知を理由に契約を取り消すことができます。

なお、不実告知は、それが故意であるか過失であるかを問いません。上の事例であれば、事業者が「床下にシロアリがいる」と勘違いして消費者にリフォームを勧めた場合でも、実際シロアリがいなければ不実告知になります。

3)重要事項を告知しなかった場合

事業者が、消費者の不利益となる事実について、偽るのではなく、あえて秘匿して告げなかった場合はどうなるのでしょうか。この場合は、消費者契約法の「不利益事実の不告知」に該当します(消費者契約法4条2項)。

不利益事実の不告知とは、事業者が消費者に対し、重要事項について利益となることだけを告げ、不利益になることを故意又は重大な過失によって伝えないことです。

例えば、事業者が「眺望・日当たりの良いマンション」の賃貸契約を消費者と締結する際に、「近い将来、眺望・日当たりを阻害する大きな建物が建つ」という情報を知っているにもかかわらず、あえて秘匿した場合、不利益事実の不告知となります。

ただし、不実告知の場合と異なり、不利益事実の不告知は、事業者が消費者の不利益となる事実について知らなかったために消費者に情報が伝わらなかった場合は、事業者に重大な過失があった場合を除き、契約の取り消しの対象とはなりません。すなわち事業者の故意又は重大な過失があったかどうかがポイントです。

また、不利益事実の不告知の場合、重要事項の範囲は「物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容、及び対価その他の取引条件であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」に限られます。「当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害または危険を回避するために通常必要であると判断される事情」が重要事項に含まれない点も、不実告知とは異なります。

4)不実告知にならないように企業は何をすべきか?

事業者が悪意なく不実告知をしてしまう恐れがあるケースとして、次の2つが考えられます。

1つは、成果を上げたい営業担当者が、ついつい自社にとって都合の良い方便を言ってしまうケースです。

もう1つは、経験の浅い営業担当者が自社の商品やサービスの内容、契約内容等について事実誤認をしているケースです。

いずれにしても、事実とは異なる情報や誇張された情報を消費者に伝えて勧誘することは、正しい企業活動とはいえませんし、企業のレピュテーションを下げる行為にすぎず、長期的な視点から見ても、企業にとってメリットはありません。営業担当者に対する再教育や情報提供を行う必要があります。

なお、「消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益に対する損害または危険を回避するために必要な情報」に明らかに該当しない、ちょっとした社交辞令などは問題なく、むしろ消費者との関係構築に必要な場合もあります。ただし、そうした社交辞令などであっても、それをどのように受け取るかは消費者次第です。無用なトラブルを避けるためにも、適切な営業活動を心掛けることが大切だといえるでしょう。

4 2019年6月施行の改正内容

2019年6月の改正は大幅な改正点が盛り込まれたわけではありません。基本的には、不当な勧誘行為等をする悪質な事業者に対しての規制を、より強化する方向の見直しが行われました。

2019年6月の改正では、実際の被害事例などを踏まえています。また、2022年4月より民法が改正され、成年年齢が引き下げられます。これまで未成年者取消権で保護されていた18歳、19歳の若者が保護の対象から外れることになるため、消費者契約などの被害が拡大することが懸念されていることも踏まえて、次の内容が盛り込まれました。

  • 「不安をあおる告知」など取り消しうる不当な勧誘行為の追加
    例:就活中の学生の不安を知りつつ、「このままでは一生成功しない、この就職セミナーが必要」と告げ勧誘
  • 「事業者が自分の責任を自ら決める条項」など無効となる不当な契約条項の追加
    例:当社が過失のあることを認めた場合に限り、当社は損害賠償責任を負う
  • 「解釈に疑義が生じない明確で平易な条項の作成」などの事業者の努力義務の明示

以上(2020年10月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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画像:pixabay

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