Q.災害などで契約を履行できない。どのようなリスクがありますか?
A.自社だけではなく、取引先が被災して契約を履行できなくなった場合にも、自社が損害賠償責任を負う恐れがあります。
1 自社が契約を履行できなくなった場合
災害時は、工場が被災して商品が納品できない、社員が出社できず請け負っていたソフトウエア開発が納期に間に合わないなど、自社が取引先との契約を履行できなくなる恐れがあります。社員が感染症にかかり、自宅待機を命じられている場合なども同様です。
契約の世界では、不可抗力によって契約を履行できなくても、当事者は損害賠償責任を負わないものとされています。実際、災害などによる契約不履行について、免責する規定を定めている契約書は多く見受けられます。
もっとも、契約不履行の原因が災害にあるからといって、必ず免責されるわけではありません。例えば、地震が原因で契約を履行できない場合、地震の規模がどの程度であれば不可抗力といえるのかについての明確な基準はありません。また、極めて大規模な地震であっても、近隣の同業他社が事前に災害に備えていて、早期に事業を再開させた場合、事業がストップし続けた原因は、事前の対策が不十分な自社にあるかもしれません。
こうした場合、自社が損害賠償責任を負う恐れがあります。その対策として、契約書の中に、不可抗力として自社が免責される場合をできる限り具体的に定めたり(「自社所在地の震度が○以上の場合」など)、早期に業務を再開するためにBCPを策定したりしておく必要があるでしょう。
2 取引先が契約を履行できなくなった場合
自社が被災していなくても、取引先が被災して操業がストップしてしまい、いわゆる「サプライチェーンの断絶」によって自社が契約を履行できないケースもあります。例えば、取引先から部品を調達できず、完成品を納品できない場合などです。
自社が顧客に対し、平常時の生産体制を前提とした納品を約束しているとしたら、自社は顧客から、商品を納品できないことについての責任を問われる恐れがあります。これは、取引先である部品メーカーが被災した場合のみならず、部品メーカーのさらに先の原材料商社などが被災した場合も同様です。 こうした事態を避けるためには、代替部品や代替業者などの確保手段を検討したり、契約書の中に「原材料や部品の調達が自社の責めによらずして不能となった場合、不可抗力として自社が免責される」旨の規定を定めたりしておくことがとても重要です。
また、場合によっては、自社と密接な取引関係にある業者との間で、「グループ」としてBCPを策定するのもよいでしょう。いずれかの会社が被災した際、自社と業者で協力して顧客への影響を最小限に抑えられるようにするためです。非常時の体制が整備されているかを、取引先チェックの項目に加えることも検討すべきです。
以上(2020年4月)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 佐藤文行)
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