Q.災害などを見据え、契約書のどこを確認するべきですか?
A.民法(2020年4月1日より改正法が施行)の内容を踏まえ、解除権の行使などについて、契約書の規定を見直し、災害時の自社のリスクを低減しておきましょう。
1 解除権の行使に関する定め
民法では、一方当事者が契約を履行できなくなった場合、その原因が災害のように自己に責任がないものだったとしても、相手方は履行を催告した上で(履行が不能であれば催告なしで)、契約を解除できるとされています。災害などによって物流が滞り、商品の納品が遅れる場合を想定してみましょう。
まず、自社が売主の場合、契約を解除されると支払いを受けられないまま在庫を抱えることになります。もう少し時間がたてば納品できそうな場合などは特に困ります。そのため契約では、「履行遅滞の原因が不可抗力によるものであるときは、当該履行遅滞を理由として契約を解除できない」などとしておくことが考えられます。
次に、自社が買主の場合、「納品が遅れるのであれば、契約を直ちに解除して他社から商品を購入したい」と考えるかもしれません。そのため契約では、「不履行があったときは、催告をすることなく直ちに契約を解除できる」などとしておくことが考えられます。
2 引渡し前か後かで変わる代金の支払い
自らに責任がない事情で債務を履行できなくなった場合に、対価の支払いが受けられるか否かの結論が変わることを「危険の移転」といいます。例えば、自社が販売する建売住宅の売買契約を締結した後に(引渡し前に)地震で当該建物が倒壊した場合、自社が買主に代金の請求をしても、買主は代金の支払いを拒絶できます。一方、自社が買主に建物を引き渡してしまえば、その後に地震で建物が倒壊しても、買主は代金を支払わなければならないとされています。
つまり、災害などを原因として売買契約の目的物が滅失した場合、それが引渡しの前か後かによって代金支払拒絶の可否が異なります。そして、当事者が契約で取り決めれば、危険の移転時期を引渡しとは異なった時点とすることができます。例えば、鍵の引渡しより前に所有権移転登記がされる場合、「登記の移転をもって危険を移転する」とすれば、鍵の引渡しが未了でも、登記さえされていれば代金の支払いを求めることができます。
3 請負契約、賃貸借契約の留意点
民法では、請負契約において、災害などを原因として仕事の完成が不能となった場合、請負人が出来高部分に応じた報酬を請求できます。また、賃貸借契約において、災害などで賃借物の一部が滅失した場合、賃料が滅失の割合に応じて当然に減額されます。 こうした民法の定めと異なる取り扱いをしたい場合、あらかじめ契約に定めておくことが必要です。
以上(2020年4月)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 佐藤文行)
pj60212
画像:Maslakhatul Khasanah-Shutterstock