書いてあること
- 主な読者:自分自身の相続を円満に進めるために遺言書の作成を考えている人
- 課題:具体的に何から始めればよいのか分からない。遺言書の種類もよく分からない
- 解決策:基本的な流れは、財産状況の確認、遺産分割の検討、相続税の試算、遺言書の作成
1 「争続」防止のために遺言書を作成しよう!
遺言書は、
いわゆる「争続 (相続時の紛争) 」を防ぎ、親族の円満な関係を維持する
ために重要です。遺言書がない状態で相続が発生すると、残された親族が遺産を把握しにくいことがあります。また、遺産を確認できても、非上場会社の株式や不動産など価値が高額で分割できない資産があると、公平な遺産分割ができず、争続が発生する恐れがあります。こうした問題を回避するために、しっかりと遺言書を作成しておきましょう。
2 3種類ある遺言書の特徴
1)公正証書遺言
公正証書遺言とは、
公証役場で作成する遺言書
で、最も多く利用されています。過去、裁判官や検察官を務めた法律専門家である公証人が遺言の内容を公正証書にしてくれるので、法的に問題のない遺言書を作成できます。さらに、公証役場が作成した公正証書遺言を数十年間保管してくれるため、紛失、変造の危険がありません。
公正証書遺言の場合、
- 作成時、遺言書の内容について2人の証人(顧問弁護士、顧問税理士などが比較的多い)に確認してもらう
- 公証役場に財産の価額ごとに定められた手数料を支払う
必要があります。証人には推定相続人(配偶者や子など相続人になることが推定される人)や未成年者など一定の人は選ぶことはできません。
2)自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、
自筆で作成する遺言書
です。具体的には、遺言書の本文、日付、署名を自筆で作成し、押印する必要があります。財産目録は自筆ではなく、WordやExcelなどパソコンで作成することもできます。
自筆証書遺言は、公証人の手を借りず、自分だけで遺言書を作成したい場合に利用されることが多いです。例えば、生前に自身の財産状況を他者に知られたくない場合などに適しています。公正証書遺言と異なり証人も不要ですし、作成費用もかかりません。しかし、専門家が内容を確認していないため、法的に無効となる遺言書もあるので注意が必要です。
また、自筆証書遺言に関しては、2020年7月から法務局で自筆証書遺言を保管することができるようになっており、紛失や遺言内容の改変を防止できるようになりました。
3)秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、
遺言の内容を誰にも公開せず、秘密にしたまま公証人に遺言の存在のみを証明してもらう遺言書
です。遺言の内容を秘密にしたい場合に利用されます。
3 遺言書を作成するまでに必要な4つの作業
1)保有する財産(資産・負債)の状況を確認する
まず、財産(資産・負債)の状況を確認して、財産目録を作成します。財産目録とは、相続の対象となる財産の種類と内容、それぞれの評価額や所在地などをまとめた一覧表です。
資産は主に金融資産(現預金、株式、保険など)と不動産とに分けて、次のことを確認します。
- 金融資産:金融機関名、支店名、口座番号、残高
- 不動産:不動産登記簿謄本で不動産の所在地など
不動産の概算評価額を確認するため、不動産の固定資産税課税明細書(毎年4~6月ごろに郵送される)で評価額を確認し、財産目録に記載します。また、絵画や骨董品がある場合には、金融資産と不動産以外の資産になりますので財産目録に追加します。
負債は、借入金や買掛金などの債務を記載します。また、葬儀費用(見積額)も負債として記載します。
2)遺産分割の内容を検討する
財産目録を作成した後は、それぞれの遺産(資産・負債)を誰に相続させるか、遺産分割の内容を検討します。現在の居住状況や非上場会社の株式がある場合は、会社の後継者が誰であるかを前提に検討します。
3)相続税額の試算・遺留分侵害の有無を確認する
遺産分割の内容が決まったら、その条件で遺産の相続がなされた場合に納付すべき相続税額を確認します。相続税の計算は、配偶者の税額軽減、小規模宅地の特例など、相続税の算出に大きな影響を与える制度があるので、これらの制度を有効活用しつつ試算します。その上で、遺産を相続する親族に納税資金を支払うだけの現預金の相続ができているかを確認します。
また、遺産分割の内容が決まったら、その分割案で遺留分侵害(法定相続人に対して最低限保証されている相続割合を下回っていること)を起こすことがないかを確認します。仮に、遺留分侵害を起こす場合は、事前に当事者である相続人が遺留分を放棄するなどの対策を取る必要があります。
なお、相続税の試算や遺留分に関しては細かな取り扱いもあるため、弁護士や税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
4)遺産分割案を遺言書の案文として書き起こす
検討した遺産分割案で相続税の支払いに問題がなく、遺留分侵害も起こさないことが確認できたら、その遺産分割案に関する税務および法務の問題はひとまずクリアです。次に、その内容を遺言書の案文に書き起こし、必要な手続きを経て完成させます。
4 遺言書の内容(文例)
記載事項1:現状の遺産内容を漏れなく記載
記載事項2:遺産(負債を含む)を誰に相続するか記載
遺言者は、遺言者の有する下記の財産を遺言者の妻 ○田○子(1952年○月○日生)に相続させる。
1.土地
所在地:東京都●●区〇〇1丁目
地番:2番地3
地目:宅地
地積:○○平方メートル
2.建物
⋮
記載事項3:遺言執行者を指定
遺言執行者とは、遺言書の内容に従って遺産の名義変更などを行う責任者です。遺言執行者には顧問弁護士や顧問税理士、あるいは長男が指定されることが比較的多いです。
遺言執行者として、下記の者を指定する。
東京都中央区〇〇1丁目2番地
弁護士 ○藤○夫(1965年○月○日生)
記載事項4:祭祀(さいし)承継者を指定
祭祀承継者とは、祭具や墳墓といった祭祀財産や遺骨を管理し、祖先の祭祀を主催すべき者です。祭祀承継者には長男が指定されることが比較的多いです。
祭祀承継者として、長男 ○田○彦(1976年○月○日生)を指定する。
記載事項5:付言事項を記載
付言事項とは、遺言書で自由な記載が許される事項です。一般的には相続財産にならない生命保険金の受取人について記載したり、親族への感謝の気持ちなどを記載したりします。
5 遺言書を作成する
1)公正証書遺言の場合
公正証書遺言の場合は、事前に最寄りの公証役場に連絡し、作成した遺言書ドラフトをメールなどで送信します。公証人が内容を確認した上で、公証役場において公正証書遺言を作成します(体調不良などで直接訪問できない場合は、公証人の出張依頼もできる)。なお、公正証書遺言作成時には、証人2人の立ち会いが必要です。
公正証書遺言作成時に必要な主な書類は次の通りです。なお、相続財産によっては、下記以外の書類も必要になりますので、事前に確認しておきましょう。
- 本人と相続人の戸籍謄本(発行から3カ月以内のもの)
- 本人の印鑑証明書(発行から3カ月以内のもの)
- 不動産登記簿謄本(相続財産に土地・建物がある場合)
- 固定資産評価証明書または固定資産税納税通知書(相続財産に土地・建物がある場合)
- 口座の銀行名・証券会社名、口座番号・証券番号(預貯金や株式がある場合)
- 証人2人の氏名、住所、生年月日、職業などが分かる身分証明書
2)自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言の場合は、遺言書を自分で書き、押印(実印を用いることが多い)して完成させます。その後は封筒に入れ、封印をして保管します。また繰り返しますが、2020年7月から自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるようになりました。
3)秘密証書遺言の場合
秘密証書遺言の場合は、遺言書ドラフトを自分で作成し、署名押印(実印を用いることが多い)します。それを封筒に入れて封印し、公証役場に持参すると、公証人が遺言書を提出した日時、遺言書の申述(これが自分の遺言書である旨)を記載し、公証人と証人2人が署名します。これで完成です。
以上(2023年7月更新)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 代表弁護士 福崎剛志)
pj60223
画像:Burdun Iliya-shutterstock