アイデア(発明・考案)・デザイン・ロゴマーク・著作物・営業上のノウハウなど、企業には多くの知的財産があります。知的財産は、コピーやいわゆるパクりなどの被害に遭いやすいという問題があります。これを防ぐためには、「特許権」「商標権」など、個々の知的財産を権利化することで、自社の知的財産を守ることが大切です。

このシリーズでは、さまざまな知的財産について、「何が保護されるのか」「どうすれば取得できるのか」といった基本を解説していきます。第1回は、アイデア(発明・考案)を保護する「特許権」を取り上げます。

 なお、特許権以外の知的財産や知的財産にはどのような種類があるのか? などを知りたい場合は、次の記事をご覧ください。

1 特許権とは

特許権は、発明について特許庁に特許出願をして、審査をクリアした後に登録することで取得することができます。
発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものを指します。どのようなものが発明に該当するのか? など発明の詳細は、後述する「3 特許権の対象となる発明が満たす4つのこと」で紹介しています。

特許権の取得には、次のようなメリットがあります。

  • 特許権の存続期間中は、特許権者(特許権を持つ権利者)だけがその発明を独占排他的に実施することができる
  • 特許権の侵害があった場合、特許権者は侵害者に対して差止請求権、損害賠償請求権などの権利を行使することができる
  • 自社の発明を使用したいという他者とライセンス契約を結び、ライセンス料を得ることができる
  • 特許権=自社にしかない発明があることを広くアピールでき、ブランディングに役立つ

特許権の保護期間は、出願から原則として20年(医薬品など一部は25年)です。

2 特許出願で注意すべきこと

1)先行調査が必須

出願する前に自社の発明と同じもの(または類似するもの)が、既に出願されているかどうかを調査します。既に同じような技術が公開されている場合には、特許を受けることができませんし、特許権が設定されている技術を無断で使用すると特許権の侵害となる可能性もあります。先行調査をする際は、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)を利用して、キーワードなどから調査します。

2)すぐに出願する

特許権には「先願主義」というルールがあります。これは同じ発明があった場合、特許庁に先に出願した出願者が特許権を取得できるというルールです。発明の完成後は速やかに出願することが重要になります。

3)従業員や外部の協力先との権利関係をクリアに

特許出願をする権利や特許権は、発明を行った本人にあります。そのため、特許権を自社の名義にしたい場合、発明を行った従業員や外部の協力先などから権利を譲渡してもらう必要があります。

中小企業や起業したばかりの企業では、企業規模が小さく、従業員も外部の協力先もよく知った仲ということが多いと思います。良好な関係が築けている間は問題にならなくても、従業員の退職や、外部の協力先との方向性の違いなどから、後日特許権をめぐってトラブルになる恐れもあります。権利譲渡について、あらかじめ契約を交わしておくと良いでしょう。

4)「特許権を取得しない戦略」についても検討する

特許権を取得すれば、他者の利用を排除することができます。一方、どのような発明なのか、その詳細が広く公開されますし、保護期間を過ぎれば他者の利用を排除することができません。

もし、特許権の取得を検討しているのが、「製品を見ただけでは想像できないような製造方法」などの場合、徹底的に秘匿して、社内でノウハウとして管理するほうが得策でしょう。出願ありきではなく、弁理士や弁護士などの専門家に相談して、自社に適した戦略を検討します。

3 特許権の対象となる発明が満たす4つのこと

特許法が定義する「発明」とは、次の4つを満たしているものになります。

1)自然法則を利用していること

自然法則とは、自然界において経験的に見いだされる科学的な法則のことで、「万有引力の法則」などが該当します。従って、計算方法、コンピューター言語、ゲームのルール、ビジネスモデルなどの人為的な取り決めや経済法則は自然法則とは異なります。
なお、「ビジネスモデル特許」という言葉がありますが、これはビジネスモデルに不可欠な、ソフトウエアや情報処理装置などが発明に該当するものを指します。ビジネスモデルそのものは発明には該当しません。
また、自然法則を利用していなければならないため、「万有引力の法則」のように、自然法則そのものは発明には該当しません。

2)技術的思想であること

技術とは、反復可能で、実際に利用でき、知識として客観的に伝達できるもののことです。従って、熟練職人の持つ技や勘など、個人の熟練によって得られる技能や奥義・秘伝などは技術とは異なります。
また、絵画や彫刻などの美的創作物、機械の操作方法についてのマニュアル、デジタルカメラで撮影された画像データなど、単なる情報の掲示も発明には該当しません。

3)創作であること

創作とは、新たに創り出すことであり、既にあるものを発見するのとは異なります。従って、自然界に存在する天然物を発見しても創作を伴わなければ、発明には該当しません。ただし、抗生物質など、天然物から人為的に単離精製した化学物質などは発明に該当します。

4)高度なものであること

発明は高度なものであることが求められています。これは、特許権と似た権利である実用新案権と区別するためです。実用新案権では、考案(いわゆる小発明など高度でないもの)を保護対象としていて、保護期間も出願から10年となっています。

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4 特許権を取得することができる発明の要件

前述した、発明の定義を満たすだけでなく、次の4つに該当しなければ、特許権は取得できません。

1)産業上の利用可能性を有していること

特許制度は産業の発達を目的にしているため、産業として利用できる発明に該当しない場合、特許権を取得することはできません。ここでいう産業とは、工業・鉱業・農業などの生産業だけでなく、サービス業・運輸業など、あらゆる産業を含む広い概念です。
例えば、人間の手術方法や個人的にのみ利用する発明は、産業上の利用可能性を有していない発明になります。

2)新規性を有していること

社会で一般的に知られた発明は特許権を取得することができません。新規性を有しているか否かは、特許出願の時点で判断されます。
例えば、ある発明を4月1日の午後に出願しても、同日の午前にテレビでその発明が放映されていた場合などは、新規性を有していないと判断されます。

3)進歩性を有していること

既に知られている発明を少し改良しただけの発明など、当業者(発明の属する技術分野において通常の知識を有する者)が容易に行える発明については、特許権を取得することができません。
ただし、既に知られた技術や発明などを組み合わせた発明であっても、その組み合わせに意外性がある場合や組み合わせた効果が大きい場合は、進歩性を有した発明だと判断される場合があります。

4)先願であること

同一の発明について異なった日に2つ以上の特許出願があったときは、先に出願した特許出願人のみがその発明について特許を受けることができます
この他、紙幣偽造機械などの「公共の秩序に反した発明」は特許権を取得することができません。

5 特許権を取得する際の手続き

発明について特許権を取得するためには、特許庁長官に対して特許出願を行わなければなりません。出願から特許権取得までの期間は平均15.0ヵ月(2020年度)です。
特許出願から特許権取得までの流れは次の通りです。

特許出願から取得までの流れを説明した画像です

出願後、審査の通知を受けるまでには平均9.5カ月(2019年度)の期間を要します。
しかし、特許庁では「早期審査」「スーパー早期審査」という制度を設けており、通常よりも短期間で審査の通知が届く制度があります。審査の通知が届くまでの期間は、早期審査の場合は平均2.5カ月、スーパー早期審査の場合は平均0.6カ月(2019年度)となっています。早期審査の対象は中小企業など、スーパー早期審査の対象はベンチャー企業などとなっています。詳細については、特許庁のウェブサイトで紹介されています。

特許出願の際には、所定の書類を提出しなければなりません。特許出願時に必要となる書類は次の通りです。

特許出願時に必要となる書類を示した画像です

特許出願の際には、次の費用を特許庁に納付します。

  • 出願費用:1万4000円(定額)
  • 出願審査請求費用:12万2000円〜(請求項(保護を受けたい発明を記載した項)の数により増加します)

また、審査をクリアした後、特許料の納付が必要です。特許料は登録期間や請求項などによって異なります。
取得のための手続きや出願費用などの詳細は、特許庁のウェブサイトで紹介されています。

以上

(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年8月2日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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