書いてあること

  • 主な読者:分かるようで分からない民法の用語を正しく理解したいビジネスパーソン
  • 課題:日常で使用している用語と意味が違ったり、聞き慣れなかったりする用語が多い
  • 解決策:弁護士がピックアップした、要注意な用語から押さえる

このシリーズでは、民法で頻出する次の用語の意味を、前後編に分けてご紹介しています。

  • 前編で紹介している用語
    法律全般(内容証明郵便、公正証書、供託、確定期限、条件付法律行為(停止条件・解除条件)、信義則、権利の濫用、善意、悪意、権限、権原、重過失、錯誤、心裡留保、取消し、無効、地位の移転、地位の留保、特定物・不特定物)、時効(時効、時効期間、時効の完成、時効の完成猶予と更新)、保証(保証、根保証、極度額、個人貸金等根保証契約)
  • 後編で紹介している用語
    債権総論(債権者代位権、詐害行為取消権(債権者取消権))、取引総論(無過失責任、契約不適合責任、危険負担、不可抗力、反対給付)、契約各論(双務契約、要物契約、有名契約(典型契約)、無名契約(非典型契約)、定型約款、消費貸借契約、委任契約、請負契約)、執行・保全(仮差押え、差押え)
本稿は前編です。
後編については、次のコンテンツに記載されています。合わせてお読みください。

1 法律全般

1)内容証明郵便

内容証明郵便とは、郵便局が、1.いつ、2.誰に対して、3.どのような内容の郵便を発送したかを証明してくれるサービスです。なお、通常は内容証明郵便を発送する際、書留郵便として、配達証明を付けます。そうすると、4.相手にそれがいつ届いたのかも明らかになるため、契約解除や金銭請求、時効に関する通知などについて、裁判を見据えた効果的な証拠として発送することができます。

2)公正証書

公正証書とは、公証人がその権限に基づいて作成する文書です。公証人は、裁判官、検察官、弁護士あるいは法務局長や司法書士など長年法律関係の仕事をしていた人の中から法務大臣が任命します。公正証書は、改ざんや変造の心配がなく、また、内容によっては裁判を経ずに強制執行が可能となることから、金銭消費貸借や債務弁済、遺言、離婚などの場面において作成されることがよくあります。

3)供託

供託とは、金銭・有価証券などを供託所に提出して、その管理を委ね、最終的には供託所がその財産をある人に取得させることによって、一定の法律上の目的を達成するための制度です。例えば、賃借人が、賃貸人から賃料の受領を拒否されたり、賃貸人が行方不明になったり、誰が賃貸人か分からなくなったような場合に、供託をすると賃料債務を履行したことと同じ効果が生じます。

4)確定期限

確定期限とは、到来する期日が確定している期限をいいます。

5)条件付法律行為(停止条件・解除条件)

条件付法律行為とは、条件の成否が確定すると、効力が確定する法律行為をいいます。条件には大きく停止条件と解除条件があります。

  • 停止条件
    法律行為の効力の「発生」が将来の不確実な事実にかかっている場合を停止条件といいます。
  • 解除条件
    法律行為の効力の「消滅」が将来の不確実な事実にかかっている場合を解除条件といいます。

6)信義則

信義則とは、信義誠実の原則のことを指し、具体的には、契約関係等にある当事者は、「相互に相手から期待される合理的な行動を取るべきであり、相手方の信頼を不当に害さないようにしましょう」といった行動準則のことをいいます。法律では十分に具体化されていない点を補うための法理として使用されることがあります。

7)権利の濫用

権利の濫用とは、信義則と同様、人々の行動準則になるもので、外見上は単純な権利の行使のように見えるものの、実際には権利の行使として認めることが社会的に妥当とはいえないため、権利行使を認めるべきではないような場合に当該権利行使を禁止する法理として用いられます。信義則と同様、法律では十分に具体化されていない点を補うための法理として使用されます。

8)善意

法律効果に一定の影響を及ぼす可能性のある事実等を知らないことをいいます。一般的な場面では他人のためを思う親切心など道徳的な評価の意味合いで使用されますが、法律用語として使用する場合は、単に「知っているか/知らないか」という意味になります。

9)悪意

前述した善意の反対の意味で、法律効果に一定の影響を及ぼす可能性のある事実等を知っていることをいいます(善意の用語解説もご参照いただければと思います)。

10)権限

契約や法律等に基づいて、他人に対して行うことができる権利・権力のことをいいます。

11)権原

ある特定のことを行うことができる、法律上の原因、法的根拠をいいます。

12)重過失

法律上、契約上の義務違反や不注意の程度が大きい場合をいいます。どのような場合に重過失となるかを一般的に説明することは難しいのですが、容易に結果を予見できる(予見すべき)危険な事象や契約違反を漫然と見過ごして(もしくは予見しておきながら)、そのような結果が生じないように結果を回避することを怠った場合(ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態)といえるでしょう。

13)錯誤

1.Aを購入しようとして、誤ってBを購入してしまったように、何らかの意思表示をした人が意思表示に対応する意思を欠いていたり、2.Aには特別な機能が付いていると考えて購入したものの、実際には特別な機能が付いていなかったりした場合のように、法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反するような場合、一定の要件の下、錯誤に基づく法律行為があったとして、当該法律行為を取り消すことができます。

14)心裡留保

売買契約をするつもりがないのに、冗談で「君と契約をしてあげるよ」などと述べる場合のように、意思表示を行う者が、自己の真意と意思表示の内容が食い違っていることを知りながら意思表示を行うことを心裡留保といいます。このような意思表示も原則として有効ですが、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、または知ることができたときは、その意思表示は無効とされています。

15)取消し

いったん有効に効果が生じた法律行為を、一定の事由が生じたことを理由に、取消権者の意思表示によって遡及的に無効とすることを「取消し」といいます。後述する無効と異なり、いったん有効に効果が生じているため、取消権を放棄して効果を確定的なものにすることもできます。これを「追認」といいます。

16)無効

法律行為や意思表示があったものの、そもそも法律効果が発生するための要件を満たさないため、最初から効果が生じないことを「無効」といいます。取消しと異なり、無効事由は、当初から問題があって法律効果が発生していないため、追認をしても有効にはなりません。もっとも、その追認があったときに、あらたな行為をしたものと見なして、その行為が有効に成立することはあります。

17)地位の移転

契約に基づいて、当事者間に発生する全ての権利・義務関係を、包括的に第三者に移転し、契約当事者を実質的に交代することをいいます。契約上の地位の移転には、原則として契約の相手方の承諾を要します。ただし、不動産賃貸借契約における賃貸人たる地位の移転については、一般的に賃借人が不利益を被ることはないと考えられていることから賃借人の承諾は不要とされています。

18)地位の留保

民法改正により、不動産賃貸借の場面において、賃貸人の地位の留保という規定が新設されました。これは、賃貸不動産の売買取引がなされる場合において、旧所有者と新所有者との間で、賃貸人たる地位を留保する旨の合意に加えて新所有者を賃貸人、旧所有者を賃借人とする賃貸借契約を締結した場合、賃貸人たる地位は譲受人に移転することなく譲渡人に留保されることになります。これが地位の留保になります。

19)特定物・不特定物

特定物とは、当事者が物の個性(同じ物がなく、代替できないなど)に着目して取引した物をいいます。

不特定物とは、当事者が種類、数量、品質などにのみ着目し、物の個性には着目せずに取引した物をいいます。

2 時効

1)時効

時効とは、一定の事実状態が一定期間継続することにより、権利を取得するあるいは消滅させる制度のことです。

時効には、一定の要件の下、他人の物を一定期間占有することによって権利を取得する「取得時効」と権利を行使しないまま一定期間が経過した場合にその権利を消滅させる「消滅時効」があります。なお、民法改正によって、これまで存在していた職業別の短期消滅時効が廃止されるなど、時効制度の見直しがありました。

2)時効期間

取得時効については、これまでと同様、20年間所有の意思をもって平穏かつ公然に他人の物を占有した場合、または10年間所有の意思をもって平穏かつ公然に他人の物を占有した者でその占有の始めに善意かつ無過失であれば認められることになります。

一方、消滅時効については、民法改正によって、次のいずれか早い時点で消滅時効が完成することになりました。

  • 権利を行使することができるとき(客観的起算点)から10年間の時効期間
  • 権利を行使することができることを知ったとき(例えば、代金などを請求することができることを知ったとき。債権者の主観を基準とするので、主観的起算点という)から、5年が経過した場合

3)時効の完成

時効の完成とは、時効により権利を取得する、あるいは消滅させるために必要な一定の期間が経過することをいいます。なお、時効の完成によって当然に権利を取得したり消滅したりするわけではなく、時効を援用する必要があります。

4)時効の完成猶予と更新

分かりづらかった時効の中断や停止という概念で説明されていたことが、民法改正によって時効の完成猶予と更新という概念に整理されました。すなわち、時効期間が形式的に経過しても時効が完成したことにはならない場合を「時効の完成猶予」(例:催告、天災によって権利行使に障害が発生する場合など)、時効期間がリセットされ、改めてゼロから時効期間を起算する場合を「時効の更新」(例:承認など)といいます。

3 保証

1)保証

保証とは、債務者が債務を履行しない場合に、債務者に代わってその債務を履行するよう約束することをいいます。保証債務には次の3つの性質があります。

  • 主債務が存在しないときは、保証債務も存在しないという附従性
  • 主債務者が債務を履行しないときに初めてその債務を履行する責任を負うという補充性
  • 主債務が譲渡されるなどして債権者が変更となる場合、保証債務の債権者も変更になるという随伴性

2)根保証

根保証とは、継続的な取引から生じる不特定の債務(保証の対象となる債務、主債務のこと)を保証することをいいます。改正民法では、個人が根保証契約を締結する全ての場合において、極度額を定めなければならず、これがなければ、保証の効力は生じないことになりました。

3)極度額

極度額とは、保証人が保証すべき債務の限度額をいいます。

4)個人貸金等根保証契約

貸金等債務(金銭の貸し渡しまたは手形割引を受けることによって負担する債務)について個人が根保証するものをいいます。

「債権者代位権」「無過失責任」などは次のコンテンツに記載されています。合わせてお読みください。

以上(2020年11月)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

pj60220
画像:photo-ac

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です