書いてあること

  • 主な読者:裁判に勝訴したのに、相手が債務を履行せずに困っている経営者
  • 課題:強制的に債務を履行させる方法がないのか知りたい
  • 解決策:「強制執行」による債権回収が可能だが、相応の時間とコストがかかる

1 判決を得ても債権回収できない場合の強制執行

裁判で勝訴をしても、相手が判決に従って弁済するとは限りません。そのような場合、「強制執行」を行う必要があります。強制執行とは、

判決内容に基づいて債務の履行をすべきなのに相手がそれを行わない場合、改めて裁判所に「強制執行の申立」をして、国家が強制的に判決で命じられた債務の履行を債務者に行わせること

です。強制執行は、民事執行法で定められた「民事執行」の1つで、

  • 金銭執行:金銭の支払いを目的とする
  • 非金銭執行:物の引渡しを目的とする等、金銭の支払い以外を目的とする

に分類され、対象となる財産や目的などによって細分化されます。

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この記事では、比較的事例の多い不動産執行(強制競売)と債権執行を紹介します。なお、強制執行には相応の時間とコストがかかります。そのため、担保を設定するなど、訴訟や強制執行によらずに債権回収ができる準備をしておくことも大切です。

2 強制執行をするための3点セット

強制執行には、

  1. 債務名義
  2. 執行文
  3. 送達証明書

の3点セットが必要です。

まず、債務名義とは、

強制執行によって実現されるべき請求権の存在・範囲、債権者、債務者を示す公の文書

です。債務名義には、確定判決の他、執行証書(公正証書)や和解調書などがあります。

この債務名義とセットになるのが執行文です。執行文とは、

債務名義の執行力を公的に証明する文書

です。なお、債務名義のうち、「少額訴訟の確定判決」「仮執行宣言付少額訴訟の判決」「仮執行宣言付支払督促」については、執行文がなくても強制執行ができます。

最後は送達証明書です。強制執行をするには、債務名義が債務者に送達されている必要があります。そこで、確かに送達されていることを証明する送達証明書が必要なのです。

3 不動産執行(強制競売)の概要

1)強制競売と強制管理とは

不動産執行には、

  • 強制競売:不動産の売却によって金銭を得るもの
  • 強制管理:不動産から得られる収益(家賃収入等)によって金銭を得るもの

があります。債権者は強制競売と強制管理のいずれか、もしくは併用を選択します。実務では、強制競売が選択されるケースが多いため、裁判所のウェブサイトを基に強制競売の手続きを紹介します。

2)不動産執行の申立

不動産執行の申立は書面で行います。書式例は、東京地方裁判所や大阪地方裁判所のウェブサイトに掲載されています。申立先は、目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所となり、その裁判所を「執行裁判所」といいます。

3)開始決定・差押え

申立が適法なものと認められたら、執行裁判所は不動産執行を開始する旨および目的不動産を差押さえる旨を宣言します。

開始決定がされると、裁判所書記官が管轄法務局に目的不動産の登記簿に差押えの登記をするように嘱託します。また、債務者および所有者に開始決定正本が送達されます。差押えの効力は、強制競売の開始決定正本が債務者に送達されたとき、もしくは送達前に差押えの登記がされたときに生じます。

なお、差押えをされると、債務者は目的不動産を処分できなくなります。ただし、競売の手続きを経て買受人が決まり、買受人がその代金を納付して不動産を取得するまでは、通常の用法に従って目的不動産を使用することができます。

4)売却の準備

裁判所は執行官や評価人に命じて、目的不動産の詳細を調査します。この結果に基づき、裁判所は不動産の売却基準価額を定めます。また、物件明細、現況調査報告書、評価書を作成して一般の閲覧に供します。

5)売却実施

裁判所書記官が、売却の日時、場所、売却方法などを定めます。売却方法はさまざまですが、1回目の売却方法は定められた期間内に入札をする期間入札で行われます。裁判所書記官は、売却すべき不動産の表示、売却基準価額、売却の日時、場所を公告します。

6)入札から所有権移転まで

入札は、公告書に記載された保証金を納付し、売却基準価額からその20%相当額を差し引いた価額(買受可能価額)以上の金額でしなければなりません。最高価額で落札して売却許可がされた者(買受人)は、裁判所が通知する期限までに代金を納付します。納付代金は、入札金額から保証金額を引いた額であり、代金の納付をもって買受人は目的不動産を取得します。

なお、所有権移転等の登記の手続きは裁判所が行いますが、手続きに要する登録免許税等の費用は買受人の負担となります。

7)不動産の引渡し

不動産の引渡しが行われます。引き続き居住する権利のない人が居住している場合、その人に明渡しを求めることができます。この求めに応じないときは、代金納付後、6カ月以内であれば、裁判所に申立てて明渡しを命じる引渡命令を出してもらえます。引渡命令があれば、執行官に強制的な明渡しの手続きを取るように申立てることができます。

8)配当

裁判所が、申立てをした債権者や配当を要求した他の債権者に売却代金を配ります。原則として、抵当権を有している債権と、債務名義しか有していない債権とでは、抵当権を有している債権が優先されます。また、抵当権を有している債権の間では、抵当権が設定された日の早い順に優先されます。債務名義しか有していない債権の間では優先順位はありません。

4 債権執行の概要

1)債権執行とは

債権執行とは、

金銭の支払いまたは船舶もしくは動産の引渡しを目的とする債権(動産執行の目的となる有価証券が発行されている債権を除く)に対する強制執行

のことです。例えば、債務者の銀行預金を差押さえて債権回収を図る場合などです。ここでは裁判所のウェブサイトを基に債権執行の手続きを紹介します。

2)債権執行の申立て

債権執行の申立ては書面で行います。申立先は、債務者の住所地を管轄する地方裁判所ですが、住所地が分からないときは、差押さえたい債権の所在地となります。その裁判所を「執行裁判所」といい、「銀行」のように差押さえたい債権の債務者を「第三債務者」といいます。

3)差押命令

裁判所は、債権差押命令申立てに理由があると認めるときは、債務者に対して債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ第三債務者に対し債務者への弁済を禁止すること等を内容とした差押命令を発し、債務者と第三債務者に送達します。差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達されたときに生じます。

4)差押え

執行裁判所は、差押さえるべき債権の全部について差押命令を発することができます。例えば、請求債権が250万円で、被差押債権が300万円の場合、差押えの効力は300万円全額に及びます。

また、給料その他継続的給付に係る債権の差押え効力は、差押債権者の債権および執行費用を限度に、差押え後に受けるべき給付に及びます。なお、給料などについては「差押禁止債権」として、債権額の一部の差押えが禁止されています。「差押禁止債権」の概要は次の通りです。この他、国民年金・厚生年金、児童手当給付金、生活保護給付金等については、個別法により差押え自体が禁止されています。

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5)取立て(または配当)

債権差押命令が債務者に送達された日から1週間(給料等の差押えの場合については4週間)を経過したときは、債権者はその債権を自ら取り立てることができます。ただし、第三債務者が供託をした場合、裁判所が配当を行うので直接取り立てることはできません。

5 財産開示手続の概要

財産開示手続とは、

債権者が債務者の財産に関する情報を取得し、強制執行の実効性を高めるための制度

です。債務者が裁判所の指定する財産開示期日に出頭し、自らの財産状況を陳述する手続になります。

これまでの財産開示手続は、債務者が出頭しなくても30万円以下の過料の制裁を科されるリスクしかなかったことから、債務者が財産開示手続に出頭しないことが少なくなく、実効性に疑問がありました。そのため、なかなか利用される制度ではありませんでした。

このような問題点を踏まえて、民事執行法が2020年4月1日に改正(施行)され、

財産開示手続に出頭しなかったり、債務者が財産状況について虚偽の陳述をしたりした場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される

ようなりました。そして、法改正後、

裁判所の財産開示の呼び出しに応じなかった債務者が民事執行法違反で書類送検される

ケースも出てきました。

このように、財産開示手続に出頭しなかったり、虚偽の陳述をしたりすることによる刑事罰の定めが心理的なプレッシャーになり、今まではあまり利用されていなかった財産開示手続が今後、強制執行を実効化するために利用される機会が増えるのではといわれています。そのため、強制執行を検討するにあたって、このような手続きをきちんと知っておきたい場合には、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

以上(2023年9月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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画像:Mariko Mitsuda

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