書いてあること

  • 主な読者:契約当事者でない第三者が、取引にどのように影響するのかを知りたい経営者
  • 課題:第三者が取引上のリスクになる場合、どのように対処すればよいのか分からない
  • 解決策:相手が善意か悪意かよりも、まずは第三者への対抗要件を具備することが先決

1 取引に影響を与える「第三者」の存在

ビジネスは、売主と買主、貸主と借主といったように2者間で行われるのが基本です。しかし、もう少し視野を広げると、2者以外にも関係者が存在する場合があります。例えば、売主から売買代金債権を譲渡された第三者のように、直接の取引関係はないものの、取引について何らかの利害を有している者です。

そして、

こうした第三者が法律関係の発生、消滅、効力に影響を及ぼす

ことがあります。経営者は、取引上のリスクを避けるために第三者の存在を意識することが重要です。自身がどの立場になるかによって異なりますが、押さえておきたいのは、

  • 第三者が善意か悪意か(知らないか、知っているか)
  • 対抗要件は具備されているか
  • 第三者が悪意であり、かつ、信義則違反があるか否か(背信的悪意者)

となります。この記事で分かりやすく説明していきます。

2 第三者の正体と、善意と悪意の違いとは

法律上、第三者の定義は必ずしも一律ではありませんが、一般的には、

当事者およびその「包括承継人(ある者の法律上の地位を一括して引き継ぐ者(例:相続人や合併後の会社))」ではない者

となります。この第三者が法律上保護されるか否かの判断では、

「善意の第三者」なのか「悪意の第三者」なのかが問題

になることがあります。法律上の善意と悪意は、正義と悪というような倫理的な意味ではなく、対象となる取引や法的効果について、

善意は「知らない」、悪意は「知っている」

といったように、その人の主観的事情を指します。そして、当該主観的事情は、法律関係につき第三者が利害関係を有するに至った時期を基準として判断されます(最判昭和55年9月11日)。

3 事例1:他社に所有権がある商品を販売した第三者

A社は、B社に継続的に同一商品(動産)を販売する契約を交わしました。代金は後払いです。ただ、A社にとってB社との取引は初めてであり、代金回収に不安がありました。そこで、代金の支払いを受けるまでは、自社(A社)に商品の所有権を留保する契約内容としました。ところが、B社は、A社に所有権が留保されている商品をC社に売却して引き渡してしまいました。この場合、C社は当該商品の所有権を取得できるのでしょうか?

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C社がA社とB社の取引内容(所有権が留保されていること)について知らなければ善意の第三者、知っていれば悪意の第三者と見なされます。

C社が善意の第三者である場合、上記事例で問題となるのは「動産」の所有権なので、

取引の安全が重視され、真の権利者(A社)よりも無権利者(B社)を真の権利者と誤信して取引をした第三者(C社)が保護され、C社が動産の所有権を取得できる

ことになります(即時取得・民法第192条)。ただし、C社の不注意(過失)で、A社とB社の取引内容について知ることができなかった場合、C社は動産の所有権を取得できません。

また、C社が悪意の第三者である場合、

取引の安全よりも真の権利者が保護され、C社は所有権を取得できない

ことになります。

4 事例2:対抗要件を具備した第三者とそうでない第三者

甲社は乙社に対して売買代金債権を有しています。しかし、すぐに現金化したかったので、当該債権を丙社に譲渡して現金化しました。ところがその後、甲社は資金難に陥り、同一債権を丁社に二重で譲渡しました。その際、丁社は「確定日付のある証書」で債務者(乙社)に通知しました。この場合、丙社と丁社のいずれが債権を取得できるのでしょうか?

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丙社と丁社とは同一の権利について争う関係にあり、法律上は「対抗関係」と呼びます。丁社が甲社と丙社の債権譲渡について知らなければ善意の第三者、知っていれば悪意の第三者と見なされます。

前述した「事例1:他社に所有権がある商品を販売した第三者」と決定的に異なるのは、

丙社も丁社も、真の権利者(債権者)である甲社から債権を譲り受けている

ことです。このようなケースを債権の二重譲渡といい、先に債権を譲り受けた丙社に権利がありそうですが法的には逆で、

丁社が善意か悪意かにかかわらず、権利を有する

ことになります。なぜならば、丁社は「確定日付のある証書」で債務者(乙社)に通知することで、第三者への対抗要件を具備しているからです。対抗要件とは、

相手に自分が権利者であることを主張するために必要な要件

です。皆さんにここで押さえていただきたい重要なポイントは、

対抗関係が問題になる場合、原則として、当事者の善意と悪意は優劣に関係せず、先に対抗要件を具備したほうが権利を主張できる

ということです(なお、後述する背信的悪意者である場合は除きます。)。対抗要件にはさまざまな種類があるので次章で確認しましょう。

5 さまざまな取引の対抗要件

取引の内容によって対抗要件が異なるので整理しましょう。2020年4月1日施行の改正民法で、対抗要件を登記に一元化することも議論されましたが、これは実現しませんでした。

1)不動産の対抗要件

不動産の場合は、登記が対抗要件になります。

2)動産の対抗要件

動産の場合は、引渡しが対抗要件になります。引渡しには4つの方法があり、それぞれの特徴は次の通りです。

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この他に「動産譲渡登記制度」というものがあります。これは、企業が保有する在庫商品、機械設備、家畜(牛や豚等)などの動産を活用した資金調達の円滑化を図るために法人が行う動産譲渡について、登記によって対抗要件を具備できる制度です。

3)債権の対抗要件

債権の場合は、債務者への「確定日付のある証書」による通知または「債務者の承諾」が対抗要件となります。動産と同じで債権譲渡にも登記制度があり、債権譲渡登記ファイルに記録することで、「確定日付のある証書」による通知があったものと見なされます。

6 事例3:背信的悪意者である第三者

対抗要件が重要であることを説明してきましたが、

背信的悪意者の場合は対抗要件を優先的に具備しても保護されない

ことになります。事例で確認しましょう。

A社は、所有する土地を資材置き場として利用したいというB社に売却することにしました。土地はB社に引き渡されましたが、B社はすぐに所有権移転登記をしませんでした。この状況を知ったC社が、B社に高く売りつける目的で、A社を強引に説得してこの土地を譲り受けて登記しました。その後、C社はB社に対し、土地の買取りを要求しましたが、B社は、自らが所有者であると主張して応じなかったため、C社はB社に対し、土地の明け渡しを求める訴えを提起しました。この場合、C社の主張は認められるのでしょうか?

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譲受人が形式的に対抗要件を具備しても、

その者の権利取得を認めることが取引上の信義に反する場合、例外的に対抗要件具備の先後で権利の取得が決まらない

ことがあります。これを「背信的悪意者排除の法理」といい、C社を「背信的悪意者」といいます。取引上の信義に反するか否かの明確な基準はありませんが、次のような場合などに認められるといえるでしょう。

  • 詐欺や強迫によって登記の申請を妨げるなど
  • 不当に利益を上げようとする意図、他人の利益を害そうとする意図がある場合

問題は、このような背信的悪意者からの転得者は、対抗要件を具備すれば権利を取得できるのかということです。例えば、

C社からD社が土地を譲り受けた場合、D社は権利を取得できるのか

ということです。詳細は割愛しますが、D社が権利を取得できる可能性はあります。背信的悪意者であることを理由に権利を主張できないのはC社にだけ該当する主観的事情であり、D社が背信的悪意者でない限り権利を取得できることになります。

以上(2024年5月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 鈴木章太郎)

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画像:unsplash

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