書いてあること
- 主な読者:知的財産権を侵害してしまうリスクと活用するメリットについて知りたい経営者
- 課題:何をすると他社の知的財産権を侵害してしまうのか? また、どうすれば自社の知的財産が保護されるのか?
- 解決策:それぞれの知的財産権が何を保護対象としているのか、権利取得のためにどのような手続が必要となるのか、保護期間はどれくらいあるのかを押さえておく
1 ゆるキャラはどの権利で保護する?
突然ですが、皆さんの会社で「ゆるキャラ」をつくることになりました!
Webサイトでの掲載などのPR活動、ぬいぐるみやお菓子などのグッズ展開もしようと考えています。ここで質問です。
このゆるキャラをどのような知的財産権で保護していくべきでしょうか?
著作権、意匠権などさまざまな知的財産権が思い当たるでしょうが、「これだ!」という確信はないのではないでしょうか。今回は、さまざまな知的財産権の種類と、それらが何を保護してくるかについて分かりやすく説明していきます。
2 ゆるキャラを保護する知的財産権
まずは、皆さんも気になっているはずの、「ゆるキャラを保護するための知的財産権」について簡単に触れておきましょう。結論としては、「何を保護したいのか?」によって重要となる知的財産権は変わってきます。この辺りを意識して確認してみてください。
1)著作権で保護する
キャラクターの保護として、最初に思い浮かぶのは著作権ではないでしょうか。ディズニーなどの映画に出てくるキャラクターを商業利用するときに著作権の問題をクリアにしておかなければならないことは、よくご存じだと思います。
著作権の発生には何らの手続も必要なく、権利期間も著作者の死後(法人著作物や映画の著作物は公表から)70年間と長期にわたって保護を受けることができる点でメリットがあります。
ただ、裁判所は、キャラクターそのもの、つまり小説や漫画等の具体的表現から昇華したイメージ(小説や漫画等に実際描かれたイラストとは異なる)に関しては著作物には当たらず、著作権法の保護対象ではないと判断しているという点については注意が必要です。このため、展開するグッズは知的財産権を保護できない可能性があるのです。また、ゆるキャラのネーミングも保護できません。
2)意匠権で保護する
意匠権は、権利の存在の証明が容易であることに加え、物品を特定してそのデザインを権利化し、その効力は類似範囲の物品にまで及びますから、「ぬいぐるみ」「菓子」「表示画像」などの意匠として登録することで、第三者による無断使用を広く排除することができます。
もっとも、意匠権は意匠登録が必要なためコストがかかりますし、出願前に発表したり秘密保持契約のない第三者に開示してしまったりすると登録ができなくなる上、権利期間も著作権と比べると短期に終わるというデメリットがあります。グッズなどを急いで展開したい場合などは向かないかもしれません。また、著作権と同様に、ネーミングは保護されません。
3)商標権で保護する
立体商標としての商標権による保護も考えられます。商標権は、更新によって半永久的に保護を受けられるメリットがあります。ゆるキャラのネーミングも商標権で保護する必要があります。
ただし、商品役務の区分ごとに登録をしていく必要がありますのでコスト面でのデメリットがありますし、立体商標として登録されるためには、十分な識別力がある必要があり、若干ハードルが高いといえます。
3 知的財産権の活用で重要なポイント
このように知的財産を保護する方法は一長一短があり、正解があるというわけではありません。実際の事業活動の内容との関係でその都度最適な保護方法を検討していくことが必要となるのです。
その場合、次のようなポイントを押さえた上で、知的財産権を取得するメリット・デメリットについて知っておくことが重要です。
- 特許権や著作権など知的財産権がそもそも何を保護対象としているのか
- 権利取得のためにどのような手続が必要となるのか
- 保護期間はどれくらいあるのか など
そこで、次章では、知的財産法の全体像を概観し、それぞれの特徴や守備範囲などを解説していきます。
4 知的財産法の全体像と各法域の特徴
前回「知的財産権侵害のリスクと知的財産権活用のメリット/意外と知らない「知的財産権」シリーズ1」のおさらいになりますが、知的財産とは、財産的価値のあるアイデアやブランドなどの無形固定資産をいいます。これらのうち知的財産に関する法令によって保護される権利や利益のことを、一般に知的財産権と呼んでいます。
主な知的財産権の種類、保護対象、保護期間については、次のように整理することができます。
以降では、主な知的財産権の特徴を紹介します。
1)特許権
特許法の保護対象は「発明」です。新しい物の組成や構造、その物の製法、新しい測定方法などの技術に関するアイデアが発明として保護を受けられることになります。エネルギー、宇宙関連、IT、医薬品など最先端の科学技術から、日常生活における目からうろこの知恵まで、ありとあらゆる分野で、日々特許発明が生まれています。
なお、特許権は、特許庁に対して特許出願を行い、審査官による審査を経て、登録査定を得たのちに特許庁にある特許原簿へ登録されることによって、はじめて権利として成立します(登録主義)。特許権を取得するためには、必ず「出願」という手続をしなければなりません。
特許権の存続期間は、出願の日から20年間です。
2)実用新案権
実用新案法が保護するのは、物品の形状、構造または組合せに係る「考案」です。発明と考案は、創作の程度が高度かどうかによって区別されています。考案は「小発明」ともいわれ、私たちの身近なところでは、洗濯槽の糸屑を集めるネットやフローリングワイパーの回動自在なジョイント機構などのアイデアの保護に利用されています。
実用新案法においても登録主義が採用されていますので、実用新案権を得るためには、必ず出願をして実用新案登録を受ける必要があります。なお、実用新案法では、特許法と異なり、審査を受けなくても実用新案権者になれるという特徴がありますが、この点については、次回以降に改めて詳しく触れたいと思います。
実用新案権の存続期間は、出願の日から10年間です。
3)意匠権
意匠法で保護されるのは「意匠」、すなわち物品のデザインです。人工衛星のような大型のものから電子顕微鏡で見なければ分からないような極小の粒子まで幅広く保護対象とされています。
意匠法においても登録主義が採用されており、意匠権者になるためには出願して登録を受けることが必要です。また、意匠法には、秘密意匠、関連意匠、部分意匠、動的意匠など特有の制度が用意されていますので、これらについては、また回を改めて詳しく解説したいと思います。
なお、2019年の意匠法改正で保護対象が拡充され、スマートフォンなどの端末画面そのもののデザインや建造物、店舗内装のデザインまで意匠登録を受けられるようになりました。
意匠権の存続期間は、出願の日から25年間です。
4)不正競争防止法
商品や営業の表示、商品の形態、ドメインネーム、営業秘密等は、不正競争防止法によって保護されています。不正競争防止法上の保護は、特許庁への出願手続等は必要ありません。また、保護期間についても、商品形態の保護が国内初販日から3年間に限られるのを除いては、特に制限はありません。
5)著作権
著作権法の保護対象は、楽曲や小説、映画、プログラムなどの著作物です。ゲームソフトなども著作物として保護されます。著作権は、各利用行為に応じたさまざまな権利の束として構成され、複製、上映、インターネット配信など、さまざまな場面において保護を受けられることとなります。
著作権法は、特許法や商標法などの産業財産権法とは異なり、登録主義を採用していません。このため、著作行為を完成すれば、何らの手続を行うことなく、著作権が発生するという仕組みになっており、この点に大きな特徴があるといえます。
なお、著作権法においても登録制度はありますが、権利の発生要件ではなく、著作者の実名や創作年月日の推定や権利移転、担保権の設定の第三者対抗要件を目的として利用されています。
著作権の存続期間は、著作者の死後70年間、法人著作や映画の著作物については公表後70年間です。
6)育成者権
種苗法では植物新品種が保護対象とされています。農林水産省の品種登録簿に登録することにより、育成者権者として保護を受けられることとなります。
なお、日本の優良品種が海外へ流出するのを防止することを目的として、令和2年の種苗法改正で、登録品種の種苗については育成者権者の意思に反する海外持ち出しや自家増殖が禁止され、これに違反した場合は損害賠償請求や刑事罰の対象とされることとなった点には注意が必要です。
育成者権の存続期間は、登録日から25年間(果樹等の永年性植物は30年間)です。
7)商標権
商標法は、「商標」、すなわち商品やサービスのネーミング、ロゴマークなどを保護対象としています。2014年の法改正で保護対象が拡充され、名称やロゴマークなど従来の伝統的な商標に加え、動き商標、ホログラム商標、色彩商標、音商標、位置商標が新しい商標として保護を受けられるようになりました。
商標法も登録主義を採用していますから、商標権を得るためには出願・登録が必要となります。ただ、商標法は、特許法、実用新案法、意匠法などの他の産業財産権法とは異なり、登録要件として「新規性」が不要であるという点に特徴があります。このため、既に使用を開始したネーミングであっても商標登録を受けることは可能である反面、場合によっては、他人に冒認されて先に商標登録されてしまう危険もあるのです。
商標権の存続期間は、登録日から10年間です。ただし、他の産業財産権と異なり何度でも更新可能ですので、更新を続ける限り半永久的に保護を受けられる点に特徴があります。
以上(2021年8月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)
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