書いてあること
- 主な読者:株主総会で行われる決議の種類や決議事項を知りたい経営者、実務担当者
- 課題:正直に言うと、普通決議・特別決議・特殊決議の違いがよく分かっていない
- 解決策:定足数と決議要件の違いを確認し、それぞれの決議で決められることを把握する
1 株主総会で行われる3つの決議
定時株主総会(以下「株主総会」)で行われる決議には、普通決議・特別決議・特殊決議の3種類があります。ほとんどの事項は普通決議で決まりますが、多くの株主に影響を及ぼすような重大な事項は、特別決議などで決めます。
まずは、3つの決議について説明した後に、それぞれの決議で決められることを網羅的に紹介します。株主総会で決めたいことと照らし合わせて、必要な決議の種類を確認してください。
1)普通決議
普通決議には、
議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した当該株主の議決権の過半数の賛成(決議要件)
が必要です。定款に定めれば定足数を変更・排除できます。
なお、会社法第309条1項に定める普通決議ではないものの、注意が必要なのが、
役員の選任・解任の決議については、定款で定めても定足数は議決権を有する株主の3分の1以上でなければならない
という点です。
2)特別決議
特別決議には、
議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の賛成(決議要件)
が必要です。ただし、定款に定めれば定足数を3分の1超、決議要件を3分の2超にできます。
3)特殊決議
特殊決議には2種類あります。1つは会社法第309条第3項に定められるもので、
議決権を行使できる株主の半数以上であって、当該株主の議決権の3分の2以上の賛成(決議要件)
を必要とするものです。主な決議事項には、発行する全部の株式に譲渡制限を付するための定款変更などがあります。
もう1つは第309条第4項に定められるもので、
総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上の賛成(決議要件)
を必要とするものです。主な決議事項には、非公開会社における「剰余金の配当を受ける権利」「残余財産の分配を受ける権利」「株主総会における議決権」について、株主ごとに異なる取り扱いを行う旨の定款の変更(廃止を除く)などがあります。
2 普通決議で決められること
- 特定の株主からの取得(会社法第160条第1項)を除く、株主との合意による自己株式の有償取得(会社法第156条第1項)
- 会計監査人の選任、解任(会社法第329条第1項、第339条第1項)
- 会計監査人の不再任(会社法第338条第2項)
- 取締役会非設置会社の取締役による競業および利益相反取引の承認(会社法第356条第1項)
- 取締役の報酬など(定款に当該事項を定めていないとき)(会社法第361条第1項)
- 会計参与の報酬など(定款に当該事項を定めていないとき)(会社法第379条第1項)
- 監査役の報酬など(定款に当該事項を定めていないとき)(会社法第387条第1項)
- 資本金の額の減少(株主総会で欠損の額を超えない範囲で決定するもの)(会社法第447条第1項、第309条第2項第9号括弧書)
- 準備金の額の減少(会社法第448条第1項)
- 剰余金の額の減少による資本金・準備金の額の増加(会社法第450条第2項、第451条第2項)
- 剰余金についてのその他の処分(会社法第452条)
- 剰余金の配当に関する事項の決定(金銭分配請求権を与えない現物配当を除く)(会社法第454条第1項)
- 取締役、会計参与、監査役の選任(会社法第329条第1項)
- 取締役(累積投票により選任された者を除く)、会計参与の解任(会社法第339条第1項)
(以下は、会社法第309条1項に定める普通決議ではないが、出席株主の過半数の決議で行うもの)
3 特別決議で決められること
- 株式譲渡不承認の場合における株式会社の買取の決定(会社法第140条第2項)
- 取締役会非設置会社における指定買取人の指定(会社法第140条第5項)
- 特定の者からの自己株式の取得(会社法第156条第1項、第160条第1項)
- 全部取得条項付種類株式の取得(会社法第171条第1項)
- 相続その他の一般承継により当該株式会社の譲渡制限株式を取得した者に対する売渡し請求(会社法第175条第1項)
- 株式の併合(会社法第180条第2項)
- 非公開会社における募集株式(新株発行・自己株式処分)における募集事項の決定(会社法第199条第2項)
- 非公開会社における募集株式の募集事項の決定の取締役、取締役会への委任(会社法第200条第1項)
- (取締役による決定および取締役会による決議によって募集事項を定められる旨の定款が存在しない場合)募集株式の割当てを受ける権利を株主へ与える決定(会社法第202条第3項第4号)
- 取締役会非設置会社における譲渡制限株式の割当て(会社法第204条第2項)
- 募集新株予約権の発行における募集事項の決定(会社法第238条第2項)
- 募集新株予約権の募集事項の決定の取締役、取締役会への委任(会社法第239条第1項)
- (取締役による決定および取締役会による決議によって募集事項を定められる旨の定款が存在しない場合)募集新株予約権の割当てを受ける権利を株主へ与える決定(会社法第241条第3項第4号)
- 取締役会非設置会社における譲渡制限株式を目的とする募集新株予約権および譲渡制限新株予約権の割当て(会社法第243条第2項)
- 監査役、累積投票により選任された取締役解任(会社法第339条第1項)
- 役員等の会社に対する損害賠償責任の一部免除(会社法第425条第1項)
- 資本金の額の減少(株主総会で欠損の額を超えない範囲で決定するものを除く)(会社法第447条第1項)
- 金銭以外の配当(株主に金銭分配請求権を与える場合を除く)(会社法第454条第4項)
- 会社法第2編第6章「定款変更」(会社法第466条の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会)
- 会社法第2編第7章「事業譲渡」(会社法第467条~第470条の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会)
- 会社法第2編第8章「解散」(会社法第471条~第474条の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会)
- 会社法第5編「組織変更、合併、会社分割、株式交換および株式移転」(会社法第743条~第816条の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会)
4 特殊決議で決められること
1)会社法第309条第3項
- 発行する全部の株式に譲渡制限を付するための定款変更(第1号)
- 吸収合併により消滅する会社または株式交換により完全子会社となる会社が公開会社であって、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する金銭などの全部または一部が譲渡制限株式などである場合における当該会社の吸収合併契約、株式交換契約の承認(第2号)
- 新設合併により消滅する会社または株式移転により完全子会社となる会社が公開会社であって、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する金銭などの全部または一部が譲渡制限株式などである場合における当該会社の新設合併契約、株式移転計画の承認(第3号)
2)会社法第309条第4項
- 公開会社でない株式会社における、「剰余金の配当を受ける権利」「残余財産の分配を受ける権利」「株主総会における議決権」に関する事項について、株主ごとに異なる取り扱いを行う旨の定款の定めについての定款の変更(廃止する場合を除く)
以上(2024年4月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 滝川航生)
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