書いてあること
- 主な読者:分かるようで分からない民法の用語を正しく理解したいビジネスパーソン
- 課題:日常で使用している用語と意味が違ったり、聞き慣れなかったりする用語が多い
- 解決策:弁護士がピックアップした、要注意な用語から押さえる
このシリーズでは、民法で頻出する次の用語の意味を、前後編に分けてご紹介しています。
- 前編で紹介している用語
法律全般(内容証明郵便、公正証書、供託、確定期限、条件付法律行為(停止条件・解除条件)、信義則、権利の濫用、善意、悪意、権限、権原、重過失、錯誤、心裡留保、取消し、無効、地位の移転、地位の留保、特定物・不特定物)、時効(時効、時効期間、時効の完成、時効の完成猶予と更新)、保証(保証、根保証、極度額、個人貸金等根保証契約) - 後編で紹介している用語
債権総論(債権者代位権、詐害行為取消権(債権者取消権))、取引総論(無過失責任、契約不適合責任、危険負担、不可抗力、反対給付)、契約各論(双務契約、要物契約、有名契約(典型契約)、無名契約(非典型契約)、定型約款、消費貸借契約、委任契約、請負契約)、執行・保全(仮差押え、差押え)
前編については、次のコンテンツに記載されています。合わせてお読みください。
1 債権総論
1)債権者代位権
債権者代位権とは、債権者が自己の債権について十分な弁済を受けるために、債務者が他人に対して持つ権利(被代位権利)を代わって行使する権利のことをいいます。例えば、債権者が債務者に債権を有し、債務者が取引相手に唯一の財産である債権を有する場合、民法上の要件を満たせば、債権者は債務者に対する債権を回収するため、債務者に代わって取引相手に対する権利を行使できます。これにより、事実上他の債権者よりも優先して弁済を受けられるようになります(事実上の優先弁済機能)。
2)詐害行為取消権(債権者取消権)
詐害行為取消権とは、債権者が債務者の行為を一定の要件の下、取消すことができる権利です。詐害行為取消権を行使するためには、裁判所に取消しの訴えを提起する必要があります。典型的には、債務者が債権者への債務弁済ができなくなるような財産処分(財産減少行為)を行った場合に、当該財産処分行為を取り消して、債務者の元に当該財産を取り戻す権利として認められています。
2 取引総論
1)無過失責任
損害の発生について故意・過失がなくても損害賠償の責任を負うことをいいます。民法上の原則は、損害賠償責任を負うのは故意・過失がある場合と考えられているため、無過失責任は例外的な場合といえるでしょう。
2)契約不適合責任
契約不適合責任とは、例えば、商品に品質不良や品物違い、数量不足などの契約内容に適合しない不備があった場合に、売主が買主に対して負う責任のことをいいます。契約不適合がある場合、買主は売主に対して追完(目的物の修補、代替物の引渡しまたは不足分の引渡し)を請求でき、これにもかかわらず追完がなされないときは、不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができるとされました。
3)危険負担
危険負担とは、売買等の双務契約が成立した後に、一方の債務が債務者の責めに帰することができない事由で履行ができなくなってしまった場合に、そのリスクを当事者のいずれが負担するかという問題をいいます。改正民法においては、債務者主義が原則となり、債務の履行不能についてのリスクは債務者が負担しなければならないことになりました。例えば、ある商品の引渡し前に震災により商品が滅失してしまい、買主(債権者)は商品を受け取れなくなった場合、売主(債務者)への支払義務がなくなります。
4)不可抗力
不可抗力とは、外部から発生した事実で、通常要求される注意や予防を講じても、損害を防止できない力や事態をいいます。
5)反対給付
例えば、売買契約において、買主の金銭給付(代金支払い)に対し売主が売買目的物を買主に交付する給付のことを反対給付といいます。
3 契約各論
1)双務契約
契約の当事者の双方が、互いに対価的な債務を負担する契約をいいます。
2)要物契約
契約を締結する当事者の合意の他に、目的物の引渡しが契約を有効に成立させるための要件となっている契約をいいます。
3)有名契約(典型契約)
売買契約、賃貸借契約等の、法律に名称や内容が規定されている契約類型をいいます。
4)無名契約(非典型契約)
有名契約以外の契約類型をいいます。契約自由の原則の下、当事者間に合意があれば、基本的にはどのような内容の契約も有効と考えられています。
5)定型約款
ある特定の者が、不特定多数を相手方とし、取引内容の全部または一部が画一的であることが双方にとって合理的な取引において、取引契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体を定型約款といいます。鉄道・バス・航空機などの旅客運送で定められている運送約款や電気の供給取引などにおいて定められている電気供給約款などがこれに該当します。
6)消費貸借契約
消費貸借契約とは、借りた物と同じ物を、同じ数量を返却することを約束して、物や金銭を貸借する契約をいいます。
旧民法において、消費貸借契約は、要物契約であるとされていました。しかし、実務上、判例で無名契約としての諾成的消費貸借契約が認められていたこともあり、改正民法では、書面または電磁的記録による諾成的消費貸借の規定が設けられました。
7)委任契約
委任契約とは、一定の法律行為としての事務を行うことを委託する契約をいいます。報酬は原則無償となりますが、契約内容で報酬について特約がある場合は、それに応じて報酬を支払うことになります。
8)請負契約
請負契約とは、仕事を完成する契約をいいます。請負人は、業務を行うだけではなく、発注側が求めた仕事を完成させて、納品する必要があります。
4 執行・保全
1)仮差押え
訴訟を提起して判決を得る前に、あらかじめ相手方の財産を保全しておくために暫定的に行う差押えを仮差押えといいます。これにより債務者は、仮差押えの対象となった財産の処分を禁止されます。仮差押えが認められると債務者が観念して任意の弁済に応じることも少なくなく、それゆえ、仮差押えは、債権回収の有効な手段の1つと考えられています。
2)差押え
法律に基づく強制力をともなった債権回収方法で、債務者が有する特定の有体物または権利について、事実上・法律上の処分を禁止し、回収することをいいます。
以上(2020年11月)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)
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画像:Akira Kaelyn-shutterstock