書いてあること
- 主な読者:相手の提示またはひな型通りの契約期間にしている経営者
- 課題:例えば、契約期間が必要以上に長いと、不要な契約上の義務を負う恐れがある
- 解決策:権利付与の側面が大きいなら契約期間は長く、義務負担の側面が大きいなら契約期間は短くするのが基本
1 契約期間を長くしたほうがよい場合と短いほうがよい場合
契約書を確認する際、金額や知的財産の帰属もそうですが、契約期間についてもしっかり確認しなければなりません。なぜなら、契約期間が適切でないと、
- 契約期間が短く、想定よりも自社の権利から得られる収益が小さくなった
- 契約期間が長く、必要以上に契約上の義務を負うことになった
などの問題が起こるからです。契約期間は、契約相手との力関係、契約内容、契約依存度などによって異なりますが、基本的な考え方は次の通りです。
契約内容が自社に権利を付与する面が大きく、契約依存度が高い(契約が自社ビジネスに与える影響が大きい)場合、契約期間は長いほうがよいです。逆に、契約内容が自社に義務を負わせる面が大きく、契約依存度が低い(契約が自社ビジネスに与える影響が小さい)場合、契約期間は短いほうがよいです。
この記事では、自社の不利にならない契約期間の考え方、定め方を紹介します。また、秘密保持契約、取引基本契約、ライセンス契約の契約期間を決める際の注意点も説明します。
2 契約書における契約期間の3つの定め方
1)契約期間(有効期間)に関する定め
契約期間(有効期間)は、
本契約書の有効期間は○年○月○日から△年△月△日までとする
などの定めです。物品やサービスを販売・提供するだけで即時に完結する、いわゆる「一回的契約」などを除き、契約期間を定める必要があります。「本契約書の有効期間は本契約締結日から○年間とする」といったように、契約期間だけを定めるケースもありますが、「初日不算入の原則」(民法第140条)や期間満了日が休日である場合、翌営業日を期間満了日とするなどのルールや慣習がトラブルにつながる恐れがあります。そのため、明確に始期と終期を特定しましょう。
2)契約更新に関する定め
契約更新は、
契約当事者から書面による解約の申し出がないときは、本契約書と同一条件でさらに○年間延長し、以後も同様とする
などの定めで、これは契約期間を長くしたい場合の定め方です。一方、契約を短くしたい場合は、更新拒絶ができる条項にします。具体的には、
本契約は契約満了により終了するものとする。ただし、甲乙が同一条件での更新に合意した場合はさらに1年間延長する
といった具合です。
契約更新は双方の利害が一致しにくい部分なので、慎重に検討しましょう。なお、契約更新に関する定めは、契約期間(有効期間)に関する定めと同じ条項に記載されることが多いです。
3)中途解約に関する定め
中途解約は、
契約当事者は、相手方当事者に対して○カ月以上の予告期間を置いて書面で通知することにより、本契約を中途解約することができる
などの定めです。これは契約期間を長くしたい場合の定め方ですが、さらに強化する場合は、
中途解約に違約金を設けたり、中途解約の定めを置かなかったりする
ことが考えられます。一方、短くしたい場合は、できるだけ制限なく中途解約ができるようにすることがポイントで、
中途解約の通知をすれば、通知をした月の末日に契約を終了できる
といったように定めます。
なお、中途解約に関する定めがなくても、相手方に債務不履行があれば契約は解除できます。逆に言うと、債務不履行ではない理由で解約することは難しいです。契約期間中、契約に拘束されることがリスクになるか否かを考えた上で、中途解約について検討しましょう。
3 契約期間はどれくらいが適切なのか?
1)秘密保持契約
秘密保持契約は、主たる契約の前段階や、付随する契約として締結することが多いです。秘密保持契約の契約期間は、主たる契約を実現するのに必要な範囲で設定するのが基本です。つまり、主たる契約が長期にわたる場合は秘密保持契約も長期となります。また通常は、秘密保持契約は主たる契約が終了した後も「一定期間」は有効です。この一定期間についてですが、
秘密保持契約で開示される情報の重要性によって異なりますが、一般的には2~3年
が適切でしょう。
2)取引基本契約
ビジネスでは、取引基本契約を締結して取引の大枠を決めた上で、発注書や請求書と請書などのやり取りによって個別契約を成立させる方法で取引を進めることがよくあります。その際、個別契約の終了期間が明確ならば、取引基本契約の契約期間は「契約締結日から○年間」と定めても問題ないといえます。
しかし、個別契約の終了期間が不明確な場合、
取引基本契約は終了しているのに、個別契約は継続しているといったおかしなことになり、その結果、取引基本契約で定めたことが個別契約に適用されない
といった事態に陥りかねません。
そのため、前述した「契約期間(有効期間)に関する定め」と矛盾しますが、取引基本契約の契約期間をあえて明確にせず、
全ての個別契約が終了してから○カ月後
といったように定めることも検討しましょう。
3)ライセンス契約
通常、ライセンス契約は長期にわたることが多いため、
契約期間を長く設定する、もしくは契約更新(自動更新)の定めを置いて、知らない間にライセンスが失効してしまう事態を防ぐ
ことが大切です。
また、ライセンスを受けて物品を製作・販売している場合、ライセンス期間が終了した時点(契約終了時点)で物品を完売できずに、在庫が残っていることがあります。こうしたケースに備えて、
契約終了後も当該物品の販売を可能にする、あるいは適正価格で買い取ってもらう
などの条項を定めておくことが重要です。
以上(2024年5月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)
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