書いてあること
- 主な読者:フリーランスに仕事を依頼する経営者や実務担当者
- 課題:2024年11月に施行される新しい法律のポイントが分からない
- 解決策:「書面等による取引条件の明示」をはじめ7つの項目を押さえる
1 罰則ありのフリーランス・事業者間取引適正化等法に備える
フリーランスを活用する会社が増えてきましたが、発注側と受注側の力関係から、フリーランスが一方的に不利益を被るケース(低報酬、短納期、ハラスメントなど)が少なくありません。皆さんの会社は大丈夫ですか?
2024年11月1日から、「フリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」(以下「新法」)が施行され、フリーランスの権利保護が次のように強化されます。なお、「現状」は、下請法や独占禁止法の規制を記載しています。
「下請法」もフリーランスの保護につながりますが、これは資本金が1000万円超の会社を対象とするため、小さな会社と契約するフリーランスは守られにくい状況です。一方、新法はフリーランスと取引する全ての会社が対象となります。
新法の施行以降は、会社(発注事業者)が図表1の義務を果たさない場合、行政機関からの立入検査、指導・助言、勧告・命令が行われることがあります。勧告・命令に従わない場合、
- 会社名が公表される
- 命令違反に対して50万円以下の罰金が科される
といったペナルティーがあります。以降で、2024年11月から対応が必要となる各義務のポイントを紹介します。なお、新法の細かい内容については、厚生労働省ウェブサイトのリーフレットなども併せてご確認ください。
■厚生労働省「「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html
2 書面等による取引条件の明示(口約束はNG)
会社がフリーランスに仕事を頼む際、
書面(契約書や発注書)、電磁的方法(メールやSNS)で取引条件を明示すること
が義務付けられます。口約束はNGです。具体的に明示すべき項目は次の8つです。
- 会社とフリーランス、それぞれの名称
- 会社とフリーランスとの間で業務委託をすることを合意した日
- 仕事の内容(品目、品種、数量・回数、規格、仕様など)
- 仕事のスケジュール(いつ納品するのか、いつ作業をするのか)
- 仕事の場所(どこに納品するのか、どこで作業をするのか)
- 仕事の検収をする場合、それが完了する期日
- 報酬の額と支払期日(具体的な報酬額を記載することが難しい場合は算定方法でも可)
- 現金以外の方法で報酬を支払う場合、支払方法に関すること
このルールは2024年11月以降に締結する業務委託契約だけでなく、既存の契約についても適用されるので、現在仕事を依頼しているフリーランスに対し、8つのうち明示していない事項があれば、新たに書面等を交わしてフリーランスと合意する必要があります。
なお、8つの明示事項のうち、正当な理由があって内容が決められない事項(未定事項)がある場合、その理由と、未定事項の内容が決まる予定日を委託時に明示する必要があります。
3 原則60日以内の報酬支払い
フリーランスに仕事を依頼する場合、
フリーランスから「給付を受領した日」から起算し、原則60日以内のできる限り短い期間内で報酬の支払期日を定め、期日までに報酬を支払うこと
が義務付けられます。「給付を受領した日」とはフリーランスが仕事を完成させ、納品等を終えた日という意味です。例えば、次のようなイメージです。
- 物品の製造・加工:物品を受け取り、会社の管理下に置いた日(検収の要否は関係ない)
- 情報成果物(ソフトウェアなど)の作成:データの入ったメールやUSBメモリを受け取り、会社の管理下に置いた日
- 役務(サービス)の提供:個々の役務の提供を受けた日、または一連の役務の提供が終了した日
支払期日を定めなかった場合は「給付を受領した日」に、また法律に反し、給付を受領した日から60日を超える日を支払期日とした場合は「60日目」に報酬を支払わなければなりません。また、フリーランス側の事情で支払いが遅れる場合は「その事情が解決してから60日以内」に支払えばよいとされています。
なお、会社(発注事業者)が取引先など(元委託者)から受けた仕事をフリーランスに「再委託」する場合、例外的に
「再委託である旨」「元委託者の名称」「元委託業務の支払期日」をフリーランスに明示することで、元委託業務の支払期日から起算し、30日以内で支払期日を定めることが可能
です。これを「再委託の例外」といいます。
4 発注における問題行為の禁止
フリーランスと1カ月以上の業務委託契約を締結する場合、次の7つの行為が禁止されます。この7つは、フリーランス側の同意があったとしても、行った時点で違法なので注意が必要です。
ちなみに、図表3の7つは現状でも、独占禁止法の「優先的地位の濫用」に該当し得る行為として、内閣官房のガイドラインに記載されています(全ての会社が対象)。なお、上の7つ以外にも「優先的地位の濫用」に該当する行為が4つあります。併せて押さえておきましょう。
「優先的地位の濫用」については、内閣官房のガイドラインも併せてご確認ください。
■内閣官房「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」■
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/20210326guideline.html
5 募集情報の的確な表示
会社がコーポレートサイトや広告などを使ってフリーランスを募集する際、
募集情報が「虚偽の表示をしたり、誤解を生じさせたりする表示になっていないか」「正確かつ最新の内容となっているか」を確認すること
が義務付けられます。具体的には次の5つの項目について、募集情報の的確な表示ができているかを確認する必要があります。
フリーランスとのトラブルを防止するため、上の5つの項目については可能な限り具体的な情報を記載し、また変更があった場合、その部分を明らかにして速やかに明示します。
なお、「通常の社員」と「フリーランス」の募集情報が混同されるケースがありますので、
- フリーランスの募集情報に業務委託であることを明記する
- コーポレートサイトは、社員用とフリーランス用とで募集のページを分ける
などの対応をして、トラブルがないようにしましょう。
6 出産・育児・介護に関する配慮
フリーランスと6カ月以上の業務委託契約を締結する場合、
フリーランスから申し出があった際、出産・育児・介護と仕事を両立できるよう、必要な配慮を行うこと
が義務付けられます。具体的には、次の流れで対応します。
フリーランスは社員ではないので、産前・産後休業や育児・介護休業の対象にはなりませんが、例えば「仕事の量」「打合せ日時、稼働時間、納期」「テレワークの可否」などについて、可能な範囲で配慮する必要があります。
フリーランスの申し出通りに必ず措置を講じなければならないわけではありませんが、実施できない場合、その旨と理由を本人に説明する必要があります。何もせず申し出を無視したり、契約を解除するなどの不利益な取扱いをしたりするのは違法です。
7 ハラスメント対策の体制整備
業務委託でフリーランスとコミュニケーションを取るに当たり、
フリーランスに対するハラスメントを防止するための体制を整備すること
が義務付けられます。現状、通常の社員については、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法により次のハラスメント対策を講じることが義務付けられていますが、これをフリーランスにも準用するイメージです。
- ハラスメント防止方針の明確化、周知・啓発
- 相談窓口の設置・運用
- 事実確認、ハラスメント行為者の処分と再発防止策の検討
- その他プライバシーの保護のための措置など
ハラスメント防止方針に「フリーランスに対する悪質な言動も、ハラスメントとして厳しく対処する」旨などを追記し、相談窓口はフリーランスからの相談も受け付けられるようにした上で、社員とフリーランスに周知徹底しましょう
また、フリーランスが相談をしやすくなるよう、フリーランスも対象とするハラスメント防止研修などを企画し、ハラスメントに関する基本知識や相談の流れを身に付けさせるのもよいでしょう。
8 中途解除等の事前予告・理由開示
フリーランスと6カ月以上の業務委託契約を締結する場合、
フリーランスとの契約を解除する際に、30日前までに契約解除の予告をすること
が義務付けられます。イメージは、通常の社員を解雇する際の「解雇予告」と同じです。ただし、「金銭を支払って、予告期間(30日)を短縮する」といった「解雇予告手当」のような制度はありません。また、
契約解除の予告後、フリーランスから請求があったら、契約解除の理由を開示すること
が義務付けられます。なお、事前予告や理由開示は、書面の交付、ファックス、電子メール等のいずれかの方法で行わなければなりません。
通常の社員の解雇でもそうですが、契約の解除は特にトラブルになりやすい分野であるため、解除の可能性が生じた時点で、速やかにフリーランスと協議を行うことをお勧めします。
以上(2024年9月作成)
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