書いてあること
- 主な読者:ビジネスチャンスを広げたい経営者
- 課題:リスクを考慮しつつ、新しい領域、新規の取引先を増やしていきたい
- 解決策:ポイントは新しい取引相手が信頼できるかどうか。相手の「人となり」で最終判断するが、【取引可能と判断できる範囲】を広げるリスク対策や与信管理も大切
1 新しい取引をスタートするとき、相手の何を見ているか?
経営者は日々、新しい会社や経営者と出会います。そうしたとき、その新しい相手と取引するかどうかは何を見て判断しているでしょうか。実際に経営者の方々にお聞きしたところ、次のような回答を挙げていただきました。
- 仕事に対する考え方が合うか(例:プラス思考かどうか など)
- 大切にしているものが同じか(例:価値観、時間感覚 など)
- SNSで誰とつながっているか、どのグループ・層の方々と仲良くしているか
このように経営者は、相手(経営者や担当者)の「人となり」から「信頼できるかどうか」を見ています。その会社のビジネスが今後伸びそうか、財務状況やキャッシュはどうかなどももちろん重要ですが、最終的には、
たとえ失敗したとしても、この人(会社)と一緒にビジネスをした結果、そうなったのであれば仕方ない!と思えるくらい、信頼できる人(会社)と取引をする
というのが経営者の理想かもしれません。
ただし、特に、「これまでと全く違う領域の人(会社)と新しいビジネスにチャレンジする」「知人の紹介などではない新しい取引先を開拓する」場合は、その会社の今後の展望も含めて、信頼できるかを判断するのに迷うこともあると思います。そこで、この記事では、
「たとえ失敗したとしても」の失敗ダメージを少なくしつつ、かつスピーディーに新規取引をスタートできるリスク対策や与信管理のヒントをご提案します。
さまざまな状況が大きく変化している今、こうした「今後のビジネスの可能性を広げるリスク対策」の実践が、皆さまのビジネスチャンスの拡大につながれば幸いです。
2 【取引可能と判断できる範囲】を広げるという考え方
この記事でご提案するリスク対策の考え方は、「経営者の皆さまが【取引可能と判断できる範囲】を広げる」というものです。これを図示すると、図表1のようになります。
この4象限は、「取引先の倒産などにより売上債権が回収できなくなる(貸倒れ)リスク」に対して、それぞれどのような対策が必要かを表しています。何もしない状態(リスク対策前)では、【取引可能と判断できる範囲】は、「A:リスクの保有」部分しかありません。
- A:リスクの保有-リスクはあるが、受け入れる=取引できる範囲
- B:リスクの移転-リスクを外へ移す必要がある=このままでは取引できない範囲
- C:リスクの回避-リスクを回避する必要がある=このままでは取引できない範囲
- D:リスクの低減-リスクを低減する必要がある=このままでは取引できない範囲
この状態のとき、例えば、「リスクの移転=リスクを外へ移す必要がある」の対策としては、取引信用保険などが考えられます(詳細後述)。そうすると、リスクの程度は変わらないものの顕在化したときのダメージが少なくなるので、「取引できる」と思える範囲が広がるのです。
- A:リスクの保有-リスクはあるが、受け入れる=取引できる範囲
- B:リスクの移転-取引信用保険、保証ファクタリングなど=一部、取引できる範囲
- C:リスクの回避-リスクを回避する必要がある=取引できない範囲
- D:リスクの低減-契約書での取り決め、代金の先払いなど=一部、取引できる範囲
ここで紹介した対策は、自分たちにとっては有効なものですが、ビジネスには必ず相手がいます。例えば、「リスクの低減」で示した、契約書で取り決める、代金を先払いにしてもらうといった方法は、相手が了承してくれるとは限りません。
また、お互いに気持ちが分かる経営者としては、「代金を先払いにしてほしい」とは言いにくい面もあるでしょう。特に新しい取引先の場合はなおさらです。そこで次章では、相手を巻き込まずに実践できる「外部に移転する」方法を見てみます(サービス内容は各社で異なります)。
3 「外部の力」を知り、うまく使う
貸倒れリスクを外部に移転する方法には、取引信用保険や保証ファクタリングがあります。取引先が倒産した場合などでも、一定の金額が保険金や保証という形で支払われます。その他、取引先が倒産したら無担保で借入できる共済制度も、リスク対策の一つといえるでしょう。
取引信用保険や保証ファクタリングでは、取引先に知られずにすむことや、取引先に関する信用情報を提供してもらえることも大きな特徴です。例えば、損保ジャパンは自社で収集した大量のデータから独自の格付けを行い、取引信用保険の見積時に無料提供しています。こうした情報を活用すれば、効率的な与信管理が実現できるでしょう。
なお、取引信用保険や保証ファクタリングは、サービス提供各社によって条件や費用などが異なりますので、インターネットや資料請求などで詳細を確認することが大切です。損保ジャパンでは取引信用保険の説明動画を公開しています。
ご参考 「与信判断に何を重視しているか」などのデータ2点~与信管理白書 2021
最後に、他社が「与信判断の際に取引先のどのような情報を重視しているか」「今後、何を与信管理で強化したいと考えているか」のアンケート結果をご紹介します。やはり、財務状況の他、経営者の人物像などの与信判断につながる情報収集も、重視される傾向にあるようです。
- 【アンケート資料概要】
- タイトル : 2021年 与信管理の実態に関するアンケート
- 実施期間 : 2021年6月17日(木)~7月16日(金)
- 実施方式 : Webアンケート方式
- 回答数 : 5019件
- 出所:帝国データバンク「与信管理白書 2021」
以上(2021年11月)
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画像:photo-ac