書いてあること

  • 主な読者:日常的に自転車に乗る社員がいる会社の総務担当者
  • 課題:道路交通法違反や交通事故のリスクに備えてしっかり社員を教育したい
  • 解決策:社員に対し、道路交通法、自転車の走行ルール遵守を徹底させる

1 自転車の交通違反に対する取り締まり強化

「信号無視」「一時不停止」「右側通行(逆走)」など、従前は警告で済まされてきたような違反に対し、

刑事罰の対象となる交通切符(いわゆる「赤切符」)が交付されて、検挙

されるケースが増えています。

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上図の通り、2023年の検挙数は約4万4千件となっています。注目すべきは、2022年に比べて検挙件数が2倍近くまで跳ね上がっていることです。

赤切符で検挙されると、警察の事情聴取のために出頭しなければならず、その後、書類送検されることもあります。また、3年以内に2回以上検挙が重なると自転車運転者講習の受講を命じられることになります。悪質な違反行為や交通事故を起こした場合は、道路交通法の罰則の対象にもなります。

社員が自転車の「赤切符」の対象になったとしたら、

出頭や運転者講習のために業務に支障を来す恐れ

があります。「たかが自転車」と軽視することはできません。違反となる行為や交通ルールを社員に周知しておくのも一手でしょう。

この記事では、主に「赤切符」の対象となる違反行為と、刑事罰の対象となった場合にどうなるかについて紹介します。特に、通勤や業務で自転車に乗る社員がいる場合、この機会に改めて自転車の走行ルールを確認するようにしましょう。

なお、2024年5月17日、自転車の交通違反に反則金を納付させる、いわゆる

「青切符」による取り締まりの導入を盛り込んだ改正道路交通法が可決・成立

しました。改正法は公布の日から2年以内に施行される予定で、今後、反則金の金額などについて政令が定められます。

2 「赤切符」の対象となる違反例

「赤切符」の対象となる違反例は、次の通りです。以降で、それぞれの違反例について詳しく解説していきます。

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1)右側通行(逆走)

自転車は、道路交通法で「軽車両」に位置付けられており、歩道と車道の区別のある道路では、原則として車道の左側を通行しなくてはなりません。

これに違反した場合、

3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金

に処されます。

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2)歩道の走行ルール違反

「歩道」は、分かりやすく言うと

道路の端を(ガードレールなどで)区画した道

のことです。自転車が歩道を走行できるのは、次の場合に限られます。

  • 道路標識や道路標示で、自転車の通行が許可されている場合
  • 13歳未満の人、70歳以上の人、身体が不自由な人が運転している場合
  • 車道や交通の状況を見て、車道を通行するのが危険だと判断される場合

また、自転車は歩道の中央から車道寄りの部分を徐行しなければならず、歩行者の通行を妨げることとなるときは一時停止しなければなりません。

加えて、「歩道」の車道側には、「普通自転車通行指定部分」が設けられていることがあり、この場合、自転車は「普通自転車通行指定部分」を徐行しなければなりません。ただし、普通自転車通行指定部分であっても歩行者が優先です。歩行者がいる場合は徐行し、通行を妨げるような場合は一時停止しなければなりません。

これらに違反した場合、

2万円以下の罰金または科料

に処されます。

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3)「普通自転車走行通行帯(自転車レーン)」を走行しない場合

車道の左端に、以下のような標識と共に「普通自転車走行通行帯(自転車レーン)」が設置されている場合があります。

「普通自転車走行通行帯(自転車レーン)」が設置されているのにもかかわらずここを走行しなかった場合、

5万円以下の罰金

に処されます。

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4)自転車道を走行しなかった場合

自転車道とは、縁石や柵その他これに類する工作物によって区画された車道部分のことをいいます。通行する道路に自転車道が設置されている場合、自転車道を走行しなくてはなりません。

自転車道があるのにもかかわらず自転車道を走行しなかった場合、

2万円以下の罰金または科料

に処されます。なお、前述した「普通自転車専用通行帯」(自転車レーン)が設けられている場合は、自転車レーンを走行しなくてはなりません。

5)信号無視

繰り返しになりますが、自転車は原則として車道を走るため、道路交通法で「軽車両」に位置付けられており、車用の信号に従うことになります。

一方、歩道を走ってきて横断歩道を進行して道路を横断する場合や、歩行者用の信号に「歩行者・自転車専用」の標示のある場合は、歩行者用の信号に従わなければなりません。

信号に従わなかった場合、

3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金

に処されます。

分かりにくいのは、自転車横断帯がない横断歩道のある交差点を直進しようとしているとき、車用の信号が「赤」で、歩行者用の信号が「青」の場合です。歩行者用の信号が「青」だからといって、車道を走ってきた自転車が直進すると信号無視になります。自転車横断帯がない場合は横断歩道を横断できますが、歩行者がいるときは自転車から降りて押して渡ります(自転車を押して歩いている者は歩行者と見なされます)。

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6)一時不停止

自転車は、道路標識や道路標示で一時停止すべきことが指定されているときは、停止線の直前(停止線がない場合、交差点の直前)で一時停止しなければなりません。

また、狭い道から広い道に出るときは、徐行しなければなりません。

一時停止しなかった場合、

3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金

に処されます。

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3 自転車運転者講習が命じられる危険行為

「右側通行(逆走)」「信号無視」「一時不停止」などを含む一定の交通違反(危険行為)を繰り返し、3年以内に2回以上検挙された場合には、都道府県公安委員会により、

自転車運転者講習の受講

が命じられます。

危険行為として、例えば、「酒酔い運転」「ブレーキが利かない自転車の運転」「遮断踏切立ち入り」「安全運転義務違反」などの項目が定められています。

■政府広報オンライン「知ってる?守ってる?自転車利用の交通ルール」■

https://www.gov-online.go.jp/featured/201105/

中でも、つい、やってしまいがちなのが「安全運転義務違反」です。例えば、傘差し運転やイヤホン・ヘッドホンをしたままの運転などが該当します。

傘差し運転は、傘を片手で持ったまま、もう片方の手でハンドルを操作するため、いざというときにブレーキをかけられず危険です。

イヤホン・ヘッドホンをしたままの運転は、音楽に気を取られて注意散漫になったり、後ろから近づいてくる自動車の音が聞こえなかったりして、事故に遭う危険性が高まります。

なお、道路交通法施行令の一部改正に伴い、2024年11月1日以降、「酒気帯び運転」「自転車の運転中における携帯電話使用等」も危険行為に加えられる予定です。

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4 「赤切符」が交付されたら、どうなる?

警視庁や各道府県警察ウェブサイトによると、自転車の交通違反で「赤切符」が交付された場合、

指定日に、指定場所に出頭し、警察による事情聴取を受ける

ことになります。その後、

書類送検され、検察による事情聴取を受ける

ことになります。交通違反の内容によって異なりますが、検察官が略式命令を請求し、裁判所の略式命令、罰金の納付の順で手続きが進められます。

比較的軽微な交通違反については、初犯の場合は、反省しているかどうかを考慮のうえ、罰則なしで帰されることもあるようです。

前述の通り、危険行為を繰り返し、3年以内に2回以上検挙された場合には、都道府県公安委員会により、自転車運転者講習の受講が命じられます。

この命令を無視して受講しない場合、5万円以下の罰金

に処されます。

5 参考:自転車事故の予防と備えを忘れずに

1)「自転車指導啓発重点地区・路線」を確認しよう

警察庁によると、自転車関連事故(自転車が第1当事者または第2当事者となった交通事故)の件数は減少傾向にありますが、2023年は前年より2千件余り増加しており、全交通事故に占める自転車関連事故の割合は2017年以降、増加傾向にあります。

■警察庁「自転車は車のなかま~自転車はルールを守って安全運転~」■

https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bicycle/info.html

警視庁および各道府県警察は、管内の交通量が多い道路や、生活道路などで自転車が関係する違反や事故が多いエリアを「自転車指導啓発重点地区・路線」として、ウェブサイト上で公表しています。日常生活で自転車をよく利用する社員に、居住地や会社周辺の「自転車指導啓発重点地区・路線」を確認するよう、周知するのも自転車事故防止につながります。

2)ヘルメット着用を検討しよう

2023年4月1日に施行された改正道路交通法によって、全ての自転車利用者に対し、乗車用ヘルメット着用が努力義務化されました。

自転車乗用中の交通事故で死亡した人の約6割が、頭部に致命傷を負っています。ヘルメット着用はあくまで努力義務であり罰則はありませんが、社員に着用を勧めることで、「もしものとき」の大きなケガを防ぐことができます。

■警察庁「頭部の保護が重要です~自転車用ヘルメットと頭部保護帽~」■

https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/toubuhogo.html

3)自転車向けの損害保険の加入も検討しよう

自転車で交通事故を起こした場合には、運転者に刑事上の責任も問われます。さらに、被害者を死傷させれば「重過失致死傷罪」に問われる恐れもあります。被害者に対しては民事上の損害賠償責任も発生します。

交通ルールをしっかり守って運転しなければならないことを、いま一度、社員に徹底させましょう。また、自転車向けの損害保険の加入も検討するとよいでしょう。

■日本自動車連盟「[Q]自転車で道交法違反をした場合は?」■

https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-accident/subcategory-traffic-violation/faq286

■日本損害保険協会「自転車事故と保険」■

https://www.sonpo.or.jp/about/useful/jitensya/

以上(2024年9月更新)

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画像:EdNurg-Adobe Stock

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