――災害時に起こりがちな法務上の問題について教えてください。
弁護士A
まず想定されるのは、契約を履行できない事態です。例えば、災害による影響で事業の継続が不可能な場合、期日までに顧客に商品を納品できないことなどが起こり得ます。災害という非常時なので、事情を考慮してくれる顧客は多いでしょう。しかし、型通りの解釈をされてしまえば、自社が債務不履行責任を問われる恐れもあります。
弁護士B
債務不履行責任に問われるような事態を避けるためには、「不可抗力により、自社が免責される場合」をあらかじめ契約書で定めておくという方法があります。不可抗力には地震、暴風雨、洪水などの天災や火災などが含まれます。例えば、不可抗力となる災害の範囲を「自社所在地の震度が○以上の場合」など、できる限り具体的に定めておくとよいでしょう。
――契約に関する問題は、専門的な知識がないと対応が難しいように思います。何から始めればよいでしょうか?
弁護士A
中小企業の場合、単一事業を手掛けていたり、特定の顧客への依存度が高かったりします。災害時に事業の継続が難しくなり、取引に支障を来せば、経営が大きく傾きかねません。
そこで、自社の契約内容を十分に理解し、どのような責任を負うのかを把握してください。弁護士といっても、ビジネスの細部まで理解しているわけではありません。信頼できる弁護士に、自社の事業を理解してもらい、現在の契約で問題になりそうなポイントと、それを防ぐ方法を相談するのもよいでしょう。
――顧客との契約以外に、注意しておくべきことはありますか?
弁護士B
オフィスや機械などの事業用資産を、賃借やリースで調達していると思いますが、災害によってこれらが損壊した場合の取り扱いについても注意が必要です。例えば、賃借しているオフィスが使用できなくなった場合、再び使用できるようになるまでは、賃料を支払う必要はありません。一方、リース物件が損壊した場合、契約で定められた残リース料(規定損害金)を支払う義務を負います。
賃借もリースも、事業用資産を他者から借りる点は同じですが、自社と契約相手(物件のオーナーやリース業者)のどちらが責任を負うのかなどの違いを理解しておかなければなりません。
弁護士A
重要な事業用資産の被災という点でいえば、データの消失についても対策が必須です。顧客情報やデザインデータなどの営業上重要なデータを、社内のPCでしか保管していない中小企業も見受けられます。こうした場合、PCの損傷などで、営業上重要なデータを失ってしまう恐れがあります。
しかし、社内のPCで保管しているデータを消失しても、バックアップがあれば、自宅などオフィスではない場所から、リモートワークなどで事業を継続することができます。バックアップの方法や保管先、万が一の際のアクセス方法などを取り決め、早めに対策を講じましょう。
――BCPや災害対策に本気で取り組もうとしている経営者に対して、アドバイスをお願いします。
弁護士B
BCPの策定や災害対策は、売り上げに直結したり、社員のモチベーションが高まったりといった、プラスの効果が生まれる取り組みではありません。そのため、後回しにされがちです。
しかし、BCPの策定や災害対策をしていない状態で被災すれば、一気に経営が傾きかねません。どれだけ努力しても、リスクをゼロにすることはできませんが、準備をしておくことで、万が一の際に大きな効果を得られることがあります。
影響の大きさを最もよく理解している経営者がリーダーシップを発揮して、ぜひ、BCPや災害対策に取り組んでいただきたいと思います。
以上(2020年4月)
(監修 弁護士 田島直明、弁護士 坂東利国)
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