書いてあること

  • 主な読者:ヒト・モノ・カネに関して直接的、間接的に海外と関係している企業の経営者
  • 課題:海外との取引における自由化および円滑化に関する政策の方向性を知りたい
  • 解決策:中国、韓国が参加するRCEPが2022年1月に発効した場合の効果を確認する

1 2022年1月にも発効するRCEP ポイントになる3つの意義

2021年9月、日本、中国、韓国、ASEAN(東南アジア諸国連合)の経済担当相による共同声明で、

地域的な包括的経済連携(以下「RCEP」)協定について、2022年1月初旬までの発効を目指す

ことが発表されました。既に参加する15カ国(日本、中国、韓国、ASEAN10カ国、豪州、ニュージーランド(以下「NZ」))による署名を2020年11月に終えており、あとは各国の国内手続きの完了を待つだけです。具体的には、RCEPはASEAN10カ国のうち6カ国以上、その他5カ国のうち3カ国以上が国内手続きを終えて批准書を寄託した60日後に発効します。2021年9月30日時点で既にシンガポール、中国、日本などが国内手続きを完了しています。

日本企業にとって、RCEPに関して意義の大きいポイントは、次の3点です。

  • 人口・GDPともに世界の約3割を占めるメガ経済圏が誕生
  • 日本が中国、韓国との間で結ぶ初めての経済連携協定
  • 当初は交渉に参加していたインドが2019年11月に離脱

この記事では、2021年9月30日時点で明らかになっている情報に基づいて、RCEPの発効が日本企業にとってどのような影響を受けることが想定されるのかを紹介します。

2 人口・GDPともに世界の約3割を占めるメガ経済圏が誕生

図表1のように、RCEPの参加15カ国を合わせた2020年の人口や名目GDPは、世界の約3割を占めます。仮にインドが復帰した場合、人口は36億人を超え、世界のおよそ半分を占める規模になります。

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3 日本が中国、韓国との間で結ぶ初めての経済連携協定

日本の企業にとってRCEPの最大の意義は、中国および韓国との間で初めて経済連携協定を結ぶということでしょう。

TPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)や日EU経済連携協定をはじめ、日本はさまざまな国との間で経済連携協定を結んでいます。ところが、隣国の中国および韓国とは、経済連携協定を結んでいませんでした。RCEP参加15カ国のうち、日本が経済連携協定を結んでいないのは中国と韓国だけです。

2012年11月に日中韓自由貿易協定に関する交渉開始が宣言されましたが、2019年11月の第16回の交渉会合まで交渉が続いています。RCEPは、3国間交渉に先んじる形で発効する可能性が高まっています。

なお、香港およびマカオは現時点ではRCEP協定の適用対象外となっています。

1)日本の輸出入総額の約3割が中国、韓国との貿易

隣国という地理的なメリットや、産業の補完関係にある部分も多いことから、日本は貿易面で中国、韓国の2カ国への依存度が高くなっています。

図表2からも分かるように、2020年の日本の相手国別の輸出入総額で見ると、中国は1位で世界の約24%を占めています。また、韓国も米国に次ぐ第3位で、この2カ国で日本の輸出入総額の約3割を占めています。

輸出入総額からも、RCEP協定の発効は日本にとって大きな影響があることが分かります。ちなみに、RCEPの参加15カ国を合計すると、日本の輸出入総額のほぼ半分を占めています。

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2)日中、日韓貿易の関税撤廃が進む

RCEPによって、中国や韓国と貿易する場合、無税となる品目の割合が大幅に増加します。特に工業製品の輸出に関しては、中国では発効前の8%から86%、韓国では19%から92%へと増えます。中国、韓国を合わせた2019年の貿易ベースでは、16兆円分の工業製品が無税になるといいます。

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財務省、経済産業省、農林水産省が2021年3月に公表した機械的試算によると、RCEPによって減少する関税の支払額は、発効した初年は工業製品が3054億円、農林水産品が33億円となります。段階的な関税の引き下げが全て終えた後は、工業製品が1兆1294億円、農林水産品が103億円に上ると試算しています。

4 当初は交渉に参加していたインドが2019年11月に離脱

交渉の開始当初は参加していたインドが離脱した影響は、どの程度大きいのでしょうか。

経済的な面では、日本は既に2011年にインドとの間で日本インド包括的経済連携協定(日インドCEPA)を結んでいます。このため、関税撤廃率などに関して大きなデメリットが生じることは想定されません。

インドの離脱は、経済的というよりも政治・外交的な影響が大きいとみられます。そもそもRCEPは、日本が提唱したASEANプラス6(日本、中国、韓国、インド、豪州、NZ)による「東アジア包括的経済連携(CEPEA)」と、中国が提唱したASEANプラス3(日本、中国、韓国)による「東アジア自由貿易圏(EAFTA)」の2つの構想を抱合する形で交渉が始まったという経緯があります。

RCEPにおける中国の強い影響力を、インドが加わることによって薄められるかどうかは、日本が提唱してきた「自由で開かれたインド太平洋」構想や、日本、米国、豪州、インドによる安全保障や経済について協議する枠組み「Quad(クアッド)」にも関連する、国際関係上の綱引きという側面が大きいといえそうです。

また、2027年にも中国の人口を超すと予測されるインドの加入によって、参加各国にとっては自国の成長に結びつけたいという思惑もあるとみられます。

こうした背景などから、2020年11月の署名の際に公表された「インドのRCEPへの参加に係る閣僚宣言」には、インドの復帰を促すための次のような内容が盛り込まれました。

  • インドはいつでもRCEPに加入できる(インド以外の国は発効から18カ月以降)
  • いつでもインドとの交渉を開始する
  • インドはRCEPの会合にオブザーバーとして参加できる
  • RCEP協定の下で参加国によって実施される経済協力活動に、インドは参加できる

以上(2021年10月)

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画像:pixabay

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