30、40年先の未来を考えることはとても面白い。僕は存在しないけれど、いまの中学生が大人になった世界はどうなっているんだろう
宗田理(そうだおさむ)氏は、『ぼくらの七日間戦争』をはじめ、子供向けの作品を数多く残した小説家です。記者や編集者を経て小説家としてデビューしたのは51歳と遅咲きでしたが、2024年4月に95歳でこの世を去るまで絶え間なく小説を発表し続け、「ぼくら」シリーズだけでも52作品と、最後まで創作意欲を発揮し続けました。
冒頭の言葉は、2017年に行われた取材で、宗田氏が「ぼくら」シリーズ次作の構想について語ったときのものです。宗田氏は当時88歳。米寿を迎えてもなお、未来への憧れを持ち続けていたことが如実に感じられます。この「ワクワク」こそが彼の創作の原動力でした。
宗田氏は、1928年生まれ。戦争の影が近づき、次第に自由が制限されていく子供時代を過ごしました。その反動ゆえか、宗田氏の作品は常に子供が主役。「何十年たっても子供は変わらない。自分が子供だったら楽しいだろうな、と思うことを書いているし、書いていて楽しいから書き続けられる」と、宗田氏は語っています。
一方、子供の本質は変わらないとしつつも、作品の内容はもちろん時代に合わせてアップデート。例えば、2023年に書き下ろされた「ぼくらのオンライン戦争」では、序盤では、どの時代も子供たちが憧れる「秘密基地作り」をテーマにしつつ、中盤からはオンラインゲームでのトラブルに巻き込まれた友人を救うため、SNSなどを駆使して事件解決に奔走する主人公たちの活躍が描かれます。
宗田氏は、前述した2017年の取材の際も「今一番関心があるのは、AIとVRだ」と語っています。新しい情報を次々に吸収して、自分の中の世界をブラッシュアップする。そして、さらに未来へと思いをはせる。それが宗田氏にとってのワクワクなのでしょう。
経営者は常に、会社や社会の未来を思って行動しています。ただ、何かを「しなければならない」という使命感が強すぎるあまり、「やってみたい」「もっと知りたい」といった、純粋な気持ちを忘れてはいないでしょうか。童心がとてつもなく大きなエネルギーを持っていることは、宗田氏の書いた作品の数を見るだけでも明らかです。
一方、自分だけがワクワクしていても意味はありません。ビジネスは1人でやるものではなく、顧客、社員など経営者を取り巻くさまざまな人たちがいて成り立っています。宗田氏は、読者である子供から手紙が届けば会いに行って話を聞き、彼らの不安や不満を作品に落とし込むなど、常にその時代その時代の子供の視点に立つことを忘れませんでした。どうすれば子供を巻き込んで、「一緒にワクワクできる作品を創れるか」を常に考えていたわけです。
ワクワクを忘れず、そして共有していく。宗田氏の創作に対する姿勢は、未来を創り出す上で大切なことを私たちに教えてくれています。
出典:「時代のしるし 悪い大人をやっつけたい」(朝日新聞、2017年6月28日)
以上(2024年8月作成)
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