書いてあること
- 主な読者:ヒト・モノ・カネに関して直接的、間接的に海外と関係している企業の経営者
- 課題:海外との取引における自由化および円滑化に関する政策の方向性を知りたい
- 解決策:英国、中国、台湾が加入の申請を行ったTPP11の最新動向を押さえる
1 英・中の2大国などの加入申請が続くTPP11
2018年12月に発効したTPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定、CPTTP)が、2021年に生じた3つの出来事によって、新たなステージを迎えました。3つの出来事とは、
- 6月、英国の加入交渉の開始が決定
- 9月、中国が加入を申請
- 9月、台湾が加入を申請
です。
米国の離脱で一時は頓挫しかけたTPP11(当時はTPP12)ですが、GDP(2020年)の世界2位(中国)と5位(英国)の経済大国、さらに台湾が相次ぎ加入申請をしたことで、世界的な枠組みに発展していく可能性が見えてきました。これにより、
- 英国、中国、台湾が加入した場合、人口は20億人超、名目GDPは世界の約34.2%となる
- 英国が加入した場合、単なる地域連携の枠を超えつつあるともいえる
- GDPの面で日本中心だった体制が変わり、各国の思惑が入り乱れる
といった状況になります。
日本の中小企業にとって、TPP11の拡大は貿易や投資を行う上で大きなチャンスになり得ます。政府もTPP11の発効に合わせて、輸出促進や海外進出支援、国際競争力の強化などの政策を打ち出しています。海外との取引を行っている、もしくは行おうとしている中小企業の経営者にとって、TPP11の動向は人ごとでなく、最新の情報を押さえておくべきテーマの1つです。
この記事では、2021年9月24日時点で明らかになっているTPP11に関する新たな動きと、その影響などについて紹介します。
2 加入の意向を示す国・地域が相次ぐ
まず、発効前後からのTPP11をめぐる世界各国・地域の動きを確認しておきましょう。この他に、タイ、インドネシア、コロンビアなどが加入に関心を示しているとの報道もありました。
3 TPP11が拡大するとどうなるのか?
TPP11の参加国を個別に見ると、先進国・中進国・新興国、第1次産業・第2次産業・第3次産業に強みを持つ国など多様な顔ぶれとなっており、相互補完が期待できる関係にあるといえます。
別の見方をすると、11カ国の名目GDPの合計の約半分を日本が占めており、米国の離脱後は日本が主導することで発効までこぎ着けた経緯もあって、「日本を中心とする、環太平洋の経済的な連携の枠組み」という位置付けが否めませんでした。そこに英国や中国が加入した場合、顔ぶれがさらに多彩になるとともに、日本を中心とした枠組みから一歩前に踏み出すことになるといえるでしょう。
ここでは、TPP11が拡大すると、何が変わるかを紹介します。
1)英中台が加入すると世界の3分の1超のGDPを占める巨大経済圏に
TPP11は、モノやサービスの貿易・投資の自由化および円滑化を進めるとともに、幅広い分野で新たなルールを構築することを目的としています。他の経済連携協定と同様、日本にとっては海外の成長市場を取り込むことが期待できます。
図表2のように、TPP11の参加国を合わせた2020年の人口は5億人を超え、名目GDPは世界の約12.8%を占めています。仮に英国、中国、台湾が加入した場合、人口は20億人超、名目GDPは世界の約34.2%を占めることになります。
2)アジア太平洋地域の枠を超えた広域連携に
ASEAN(東南アジア諸国連合)やRCEP(地域的な包括的経済連携)は地域内の経済連携であり、地域外の国々と線引きをすることでのメリットを重視しています。TPP11も元来はアジア太平洋地域内の経済連携としてスタートしましたが、英国の加入申請により、単なる地域連携の枠を超えつつあるともいえるでしょう。
3)多国間の“自由で公正な21世紀型のルール”の定着へ前進
そもそもTPP11は、単なる地域内の経済連携だけを目的とするのではなく、「自由で公正な21世紀型のルール」作りを掲げたものでした。協定は30章からなり、モノやサービスの貿易や電子商取引に関する項目をはじめ、投資、ビジネスに関するヒトの移動、競争政策や規制、知的財産など多国間のルールを多岐にわたって取り決めています。
このため、加入を申請している中国に関しては、当面はTPP11のルールに対応するのは困難との見方もあるようです。
例えば、最終的な関税撤廃率について、日本は95%、日本以外の10カ国は99~100%とするなど、既存の地域内経済連携よりレベルの高い内容にしているといったように、保護主義的な傾向に対抗する方向性を明確に打ち出しています。
また、地域内の経済連携と異なり、広く加入国を募っているのも特徴です。2018年3月の署名式では、次のような閣僚声明(仮訳)も発表しています。
本協定に加入することを希望する他の多くのエコノミーによって示された関心を歓迎する。この関心は、本協定を通じ、将来の広い経済統合のための高い水準を促進するプラットフォームを創出するという我々の共通の目標を確認するものである
TPP11の拡大は、こうしたTPP11の理念に沿ったものだといえそうです。
4)議長国日本のかじ取りは難しく
TPP11への加入は、原則として全参加国の同意が必要になります。かつては米国の主導で進められてきたTPP11(当時はTPP12)に中国が加入を申請したことに対しては、歓迎する国もあれば、TPP11が中国主導になることを警戒する国もあるとみられます。
また、中国が国家として認めていない台湾が中国に追随する形で加入申請したことで、中国が反発を強めるなど、政治問題に発展する可能性があります。
さらに、仮に加入交渉に至った場合も、英国と中国という大国の意向がTPP11の協定内容に影響することが考えられます。参加国にとっては、TPP11の拡大と理念の尊重というバランスをどう取るのか、難しい選択を迫られるかもしれません。
特にTPP11の中心的存在であり、2021年の議長国でもある日本にとっては、3カ国・地域の加入申請の取り扱いは、政治的な面でも難しいかじ取りを迫られるとみられます。
以上(2021年10月)
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