私は、実は経営者の自叙伝を読むのが好きで、最近は「お、ねだん以上。」のキャッチコピーで知られるニトリの創業者、似鳥昭雄(にとりあきお)さんの自叙伝を読みました。自叙伝には、似鳥さんがいかにニトリのビジネスモデルの基礎を築き、事業を成功に導いたかが記されています。
例えば、ニトリの強みの1つは、「シリーズ家具によるコーディネートの提案力」ですが、この強みは、似鳥さんが1972年に米国の家具店を視察したときの出来事がもとで生まれたものです。当時事業に苦戦し、何とか起死回生の一手を打たねばと日本を飛び出した似鳥さんは、米国の家具店を見て驚愕します。当時の日本の家具店は、メーカーが作った商品を並べて売っているだけでちぐはぐなコーディネートになりがちだったのですが、米国の家具店は色やデザインがしっかりコーディネートされていて、統一感があるのです。日本でも同じことをやったら成功するはずだと確信した似鳥さんは帰国後これを実行に移し、見事、倒産寸前の会社を立て直します。
もう1つニトリの強みとして挙げられるのが、「安価な価格設定」です。ただし、クオリティーを維持しながら製品を安く売るのは簡単ではありません。似鳥さんは、この問題をクリアするため、安く家具を仕入れられる海外の調達先を開拓することに注力します。似鳥さん自ら海外に渡り、観光ガイドを通訳にして、電話帳から家具会社を探し、しらみつぶしに当たっていったそうです。いち早く海外進出を果たしたおかげで、1985年のプラザ合意で円高が急速に進行した際、他社に先んじて輸入を本格化させることができたのです。
この自叙伝が面白いのは、似鳥さんがこうした偉業を誇るのでははく、「運が良かった」と結論付けていることです。私は正直、なぜ似鳥さんがこれほど謙虚なのかが疑問だったのですが、この自叙伝を読み進めることでその理由が理解できました。その理由とは、似鳥さんが「成功以上に失敗を多く経験しているから」というものです。
例えば、先ほどの海外調達を始めた頃の話です。台湾から家具を仕入れてみると、「椅子に座った途端に壊れた」といったクレームが多く寄せられたそうです。原因は、現地と日本の湿度や習慣などの違いでした。似鳥さんいわく「行き当たりばったり」が招いた失敗でした。この他に、低コストのエアドーム店舗を思い付くも、出店後に「店舗の室温が高くなりすぎる」「ドームが雪で潰れる」などトラブルが相次ぎ、5年ほどで撤退を余儀なくされるといった失敗談などもありました。
成功者は、数多くの失敗を経験しているからこそ、自分の力を過信せず、大きな成功をつかんでも「運が良かった」と謙虚に語るのです。しかし、その失敗は膨大な数のチャレンジの裏返しであり、確かに成功者の力になっています。私はそこに至るまでの努力をしているだろうかと反省せずにいられません。だから、私は初心に帰りたいとき、いつも誰かの自叙伝を読むのです。
以上(2024年8月作成)
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画像:Mariko Mitsuda