書いてあること

  • 主な読者:SDGsに取り組んでみたいと考えている経営者
  • 課題:あまり資金や労力をかけないことから始めたいが、何から取り組むべきか分からない
  • 解決策:公開されているSDGs Industry Matrixや、経営者自身の社会課題解決への想いを基にマッピングし、SDGsの何を目標にして、どのような取り組みを行うか導き出す

1 「SDGsはもうかるの?」はもう通用しません

SDGsに関わる取り組みをしていると回答した企業は、大企業が約90%であるのに対し、中堅企業では約60%、中小企業では約40%にとどまっています。なぜ、中小企業のSDGsが加速しないのでしょうか?

私が共同代表を務める一般社団法人SDGsマネジメント(以下「SDM」)が中小企業のSDGs導入の支援をさせていただいている中でよくいわれるのが、「SDGsはもうかるの?」という質問です。正直にお答えすると、必ずもうかるとは言えませんが、正しく理解すれば、お金をかけずに実践できますし、やらないよりも良い結果につながると思っております。SDGsの取り組みの成果を数値化して発信できれば、自社の事業価値を再定義することができ、ブランド力が高まることで、融資面や採用面、企業間の連携でも有利になります。

これから学校の現場では、ESD(Education for Sustainable Development=持続可能な開発のための教育)が本格的にスタートします。若い世代はSDGsネーティブといわれる世代で、SDGsが当たり前の状態で社会を見ます。企業がSDGsについて考えなければならなくなる時代は、すぐそこまで来ています。良い意味で諦めて、SDGsを早く始めてみましょう。日本のSDGsは、まだまだこれからですので、今からでも遅くありません。

2 「何に取り組むか」を決めるヒントと先進事例

1)SDGsを進めるための3つのフェーズ

では、SDGsを始める際の手順を整理してみましょう。企業のSDGs導入書といわれている「SDG Compass」では5つのステップ(SDGsを理解する、優先課題を決定する、目標を設定する、経営へ統合する、報告とコミュニケーションを行う)があると言っていますが、SDMでは5つのステップをもう少し簡単に考えるために、3つのフェーズにまとめて導入のオススメをしております。

  • SDGsの理解
  • マッピングとストーリー
  • 発信

今回は、SDGsの具体的な取り組みに直結する、2番目のマッピングとストーリーについてお話をしたいと思います。マッピングとは何かというと、自社の取り組みをSDGsの17ゴールに当てはめることです。マッピングには2通りの方法があります。

2)産業別のSDGs導入のヒント

マッピングの1つ目の方法は、産業別のSDGs導入の手引書を参照するものです。例えば、一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンとKPMGあずさサスティナビリティが監訳・監修した「SDGs Industry Matrix」では、7つの産業別にSDGs導入のヒントを記載しています。少し難しい表現ですが、ゴール別に取り組み事例が記載されているので、自社の取り組みに近いものを探してみてもよいと思います。また、建築業界であれば、「建築産業にとってのSDGs―導入のためのガイドライン―」というハンドブックが販売されていますので、それを参照されるとよいでしょう。

■グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン「SDGs Industry Matrix日本語版」■
https://www.ungcjn.org/activities/topics/detail.php?id=204
■日本建築センター「建築産業にとってのSDGs―導入のためのガイドライン―」■
https://www.bcj.or.jp/publication/detail/111/

3)低価格住宅の提供でゴール1:「貧困をなくそう」に取り組むSUNSHOW GROUP

マッピングの2つ目の方法は、経営者自身の想いを基に、独自のSDGsストーリーを組み上げていくものです。社会課題に対する経営者自身の想いを基に、自社の事業を再定義し、そこから取り組む内容を導き出す方法です。

まずは、政府のSDGs推進本部による第2回のジャパンSDGsアワードを受賞したSUNSHOW GROUP(岐阜県岐阜市、以下「SG」)を紹介します。SGの西岡徹人社長は、青少年育成などの奉仕活動によって社会課題解決を進めてきた青年会議所での経験から、SDGsの取り組みに興味を持ちました。

SGの取り組みでユニークなのは、各事業部がSDGsに基づいてブランディングしていることです。例えば、低価格住宅の販売を手がける事業部は、SUNSHOW夢ハウスというブランドを展開し、ゴール1:「貧困をなくそう」、ゴール10:「人や国の不平等をなくそう」に貢献しています。

低価格の商品を売ることは、価格競争で勝つことを目的にしてしまいがちです。それに対してSGでは、「全ての人にマイホームを」という社会課題解決を目的としています。このため、例えばローンが承認されにくい人には、審査が通るまでの手続きや、無理のない返済計画づくりのお手伝いなどもしています。この取り組みは、日本人のみならず、岐阜に在住する外国人にも好評です。外国人が、日本で持ち家を持つことによって、コミュニティーに参画ができるようになり、外国人に対する不平等が是正されるようになりました。

ここで重要になるのが、社会課題解決のストーリーです。SGでは、日本の社会問題や商圏である岐阜の地域課題を調査し、背景を明確に設定します。ゴール1に対しては、子供の貧困問題の背景や、解決に向けた指標や数値も記載されている政府の「子供の貧困対策に関する大綱」および岐阜県による「岐阜県子どもの貧困対策アクションプラン」を参照にしています。その上で、SGの本業である建築業という強みを活かし、それらの社会課題を解決するための新たな価値として、低価格住宅を提供すると再定義しています。

■SUNSHOW GROUP(三承工業株式会社)ウェブサイト■
https://www.sunshow.jp/

4)健康経営の推進でゴール3:「全ての人に健康と福祉を」に取り組む大平経営会計事務所

大平経営会計事務所(愛知県豊橋市)では、経営者である大平佳宏さんの「経営者は健康であってほしい」との想いを、自社の事業として再定義しました。経営者が心身ともに健康であることは、企業の健康や従業員の健康にもつながり、ひいては持続可能な企業への成長に結び付く、との考えに基づいています。

その結果、同社ではゴール3:「全ての人に健康と福祉を」を中心として、「経営者に寄り添い持続可能な経営のお手伝いができる会計事務所」を目標に掲げ、健康経営の推進、教育、ITの活用による働きがいのある環境づくりなどに積極的に取り組んでいます。

具体的な取り組みとして、まずは自社の職場改善から始めています。健康経営の推進としては、定期健康診断で再検査となった従業員へのフォローや、ストレスチェックとそのアフターケアなどを行っている他、従業員の定期健康診断の受診率100%、1日7000歩の運動といった数値目標を掲げています。この他、ゴール4:「質の高い教育をみんなに」では従業員の勉強会の参加を月1回以上、セミナー参加を年1回以上とし、ゴール9:「産業と技術革新の基盤をつくろう」では、コピー用紙使用率の30%削減を数値目標に掲げるなどしています。

事業内容だけでマッピングをしようとすると、会計事務所の場合などは、デジタル化や効率化といった内容に偏ってしまうことがあります。経営者の想いにフォーカスして、その企業がお客様や社会にどんな価値を提供したいのかを深掘りすることで、SDGsのゴールにマッピングをしていくことができる事例といえます。

■大平経営会計グループのSDGs宣言■
https://odaira.com/sdgs/

5)女性の活躍推進でゴール5:「ジェンダー平等を実現しよう」に取り組む神美

神美(東京都渋谷区)は、「THE PERFECT LINE」というエステブランドを展開しています。経営者の田中由佳さんは、女性の経済的エンパワーメントに対する意識が低いことについて問題意識を持ちました。そこで、「女性の精神的自立は金銭的自立から」との考えに基づき、女性が活躍しやすい環境を整備し、男女の所得格差解消を進めることで、ゴール5:「ジェンダー平等を実現しよう」に取り組んでいます。

具体的には、年齢や経歴を問わず、全ての社員を対象としたキャリアアッププランを構築し、女性管理職の登用を図っています。また、「変わりたい女性に行動を起こさせ、女性が輝き活躍する社会の実現」をビジョンに掲げ、未経験者である「変わりたい女性」を優遇し、積極的に正社員として中途採用しています。

さらに、固定給と別にインセンティブ制度(年6回)を導入し、全社での表彰式を2カ月に1回行うなど、社員が自己成長感を持つことによってやりがいを感じる、長く働ける環境づくりにも取り組み、ゴール8:「働きがいも経済成長も」に貢献をしています。

また、田中さんのSDGsの取り組みで面白いのは、自社の取り組みをもっと広くさまざまなパートナーを巻き込む仕掛けとして、一般社団法人Women’s Independence Forumを立ち上げられたことです。SDGsはゴール17でも掲げているように、パートナーシップで目標を達成することが求められています。しかし、一般的な自社を取り巻くパートナーシップとは、利害関係を軸とするサプライチェーンでのつながりであります。自社の利益を中心とする考えではなく、視座を高めて、志を中心とする団体や協会を設立することで、多様な企業連携のみならず、今までになかった官公庁や大学・研究所とのパートナーシップを構築することが期待できます。

■神美ウェブサイト「SDGs」■
https://synbi.jp/sdgs/

3 取り組みの成果を発信してメリットを得る

1)成果の数値化が、SDGsに取り組む企業にメリットを生む

SDGsはマッピングするだけで終わりではありません。SDGsはゴールであるので、具体的に達成目標が設定されるべきであります。

SDGsの構造をご説明すると、SDGsは17のゴールの下に169のターゲットがあり、さらに、その下に250近くのグローバルインディケーター(指標)があります。今、日本でSDGsの旗振り役になっている人たちの間では、このインディケーターへの注目度が高まっています。なぜなら、企業がSDGsに取り組むには、社会にとっても企業にとっても、その成果を評価する仕組みが大きな意味を持つからです。

グローバルインディケーターは外務省のウェブサイトで公表されていますが、世界各国の共通指標であるために、日本の実情に合っていない指標も多くあります。そのため、SDMでは法政大学デザイン工学部建築学科の川久保俊教授とともに、グローバルインディケーターをローカライズし、日本、そして地域ごとの社会課題に合った指標を設定する取り組みを進めています。ローカライズされた指標と、企業が取り組むSDGsを関連付けることによって、その企業が事業を継続すればするほど、社会により良い影響を与えるという関係性を数値化することができます。

さらにSDMと川久保教授は、その数値を基に、中小企業への金融(クラウドファンディングや制度融資など)が加速される仕組みを構築しようと、関連機関と研究を重ねています。中小企業にも、SDGsへの貢献度によって融資面での格差が生じる時代が来ているのです

2)SDGsへの取り組みのアピールが、採用や企業間の連携に有利に

格差が生じるのは融資面だけではありません。前述の通り、これからの若い世代は、SDGsネーティブといわれる世代です。企業にとっては、少子化で採用困難が予想される中で、自社のSDGsへの取り組みをより多くの人に発信していくことが急務であります。

そのためにも、これからSDGsに取り組もうとしている企業の皆様に使っていただきたいサービスが、一般社団法人サステナブルトランジションが提供する「Platform Clover」です。2021年8月の大幅アップデート後は、自社のSDGsの取り組みを体系的に発信できるだけでなく、プロジェクトの管理・評価もできるオンラインプラットフォームになります。SDGsに取り組むためのマッピングができたら、このプラットフォームに登録することをオススメいたします。

また、SDGsはゴール17で掲げているように、パートナーシップで目標を達成するものであり、そこにイノベーションの可能性があります。「Platform Clover」では今後、SDGsに関する自社のニーズと他社のシーズをマッチングする仕組みもできますので、大いに活用してほしいと思っております。

■サステナブルトランジション「Platform Clover」■
https://platform-clover.net/

4 終わりに

「経済なき道徳は戯言(ざれごと)であり、道徳なき経済は犯罪である」(二宮尊徳)

私は日本で最初にSDGsの精神を説いた偉人は、二宮尊徳であると思っております。まきを背負って勉強した勤勉な人として語られていますが、尊徳は各地で農村再建をしました。当時の経済基盤は農業でした。尊徳の教えは「報徳仕法」といい、過去の収穫高(収入)と、年貢(支出)を洗い出し、また天候による飢饉(ききん)の可能性を考えた備蓄(貯蓄)をするために、生産効率を上げ、持続可能な生活スタイルを定着させようとしました。

その仕法を各地で授けるに当たり、上記のような言葉を残しています。大変厳しい言葉でありますが、これはSDGsの次のステップを指し示している言葉であると思います。私たちは、SDGsを通じて経済性と社会性を両立させ、日本のビジネスを「道徳ある経済」に進化させていくことが求められています。

以上(2021年5月)

pj80105
画像:Sakosshu Taro-Adobe Stock

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