私は経営者仲間や皆さんから、「既成概念などにとらわれず、本当にお客様のためになることを考えている」と言ってもらうことがあります。とてもありがたいことですが、実は、昔からそういう考えを持っていたわけではなく、きっかけは学生時代のアルバイトで大失敗したことにあります。今日は、皆さんにその話をしたいと思います。

大学生の頃、私はテーマパークの係員としてアルバイトをしていました。主に、パレードなどがあるときに、お客様を誘導するのが仕事です。

ある日のことです。その日はパレードで大混雑で、営業時間が過ぎた後も辺りは騒然としていました。出入り口付近で列をなして帰ろうとしているお客様を誘導していると、子供を抱えて猛烈な勢いで逆走してくる1人の中年男性が見えました。その人は、一度退場したにもかかわらず、また無理に入場しようとしているのです。「もう今日は終わりです。すみませんが入れません!」と私が全力で止めに入ると、その男性が怒鳴り返してきました。「子供の靴が片方ないんだ! 中に入って探してもいいだろう!」

私の対応は、本当にひどいものでした。「でも、一度出た人は、もう入れない規則なんです。入れるかどうか、上の人に聞かないと……」と途方に暮れてしまったのです。見かねたアルバイトの先輩が、「どうぞ入ってください! 手分けして一緒に靴を探しましょう!」と男性を招き入れ、1時間後に無事、靴を見つけることができました。

私は、自分が恥ずかしくてなりませんでした。日ごろから「お客様が第一」と考えてアルバイトに励んでいるつもりでしたが、とっさに、「マニュアル通りに規則を守らなくては。何かあったら後で叱られる」と思ってしまったのです。

この大失敗があったおかげで、私は自分が「自分視点でしかものを考えていない」ことに気付くことができました。だからこそ、本当にお客様や相手の立場に立っているかを、常に自問自答するようになったのです。

皆さんも、日ごろ、私の失敗と同じようなことをしていないでしょうか。お客様が困っているときや、難しい要望を言ってきたとき、「マニュアルでは禁止されているから」と断っていませんか。

確かに、当社にはお客様対応のマニュアルがあります。しかし、マニュアルが全てではありません。お客様の状況などによって取るべき対応は異なります。むしろ、現実のビジネスでは、マニュアル通りにいかないことが多いでしょう。

お客様のことを一番分かっているのは、日ごろ、現場でお客様と接している皆さんです。皆さんが本当にお客様のことを考えて、「こうしたほうがよい」と思うのであれば、ぜひ、その通りに行動してください。たとえ、それがマニュアルに沿っていなくても、否定したり叱ったりすることはありません。逆に、お客様のことを考え、マニュアルを超えてくれた皆さんに感謝し、その判断を、私は心から支持します。

以上(2019年2月)

pj16944
画像:Mariko Mitsuda

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