皆さんは、何か決めなければならないことがあるとき、何を基準に、どのような理由で判断していますか。ごくごく日常的なことでかまいませんから、ちょっと考えてみてください。
例えば、レンタルビデオ店に行って、面白そうな映画を選ぶとき。スーパーに並んでいるたくさんのキャベツやキュウリからどれかを選ぶときなど、何かを決めるとき、その判断基準はどこにあるのでしょうか。
「私はいつも自分の物差しを持って物事を判断している」という人もいるでしょう。けれども、もう一度考えてみてください。皆さんは、本当に、すべてのことに対して、自分の物差しをしっかりと持っていますか。いろいろと考えているうちによく分からなくなってしまって、最後には「カン」で物事を決めていることも少なからずあるはずです。「カンで物事を判断するな」ということではありません。むしろ、私としては「カン」の持つ力は積極的に利用すべきだと考えています。けれども、その前にしておいたほうがよいことがあるのです。
そもそも、すべての物事に精通した人などいるはずがありません。もちろん、仕事にかかわる知識はあって当然ですし、皆さんが学生時代に勉強した専門分野についてならば、それなりに知識は持っていることでしょう。ですから、誰でも得意な分野というのはあるはずです。けれども、一人の人間が世の中のすべての知識を自分のものにすることはできません。
一人の人間が得られる知識などたかが知れています。人は持っている知識よりも、よく分からない、聞いたことがないもののほうが多いのは当たり前なのです。とはいえ、自分の知らないことについて考え、判断しなければならないことも出てきます。
そうしたときに、カンに頼る前にすべきことは「勉強」です。ただし、やみくもに勉強をするのはあまり効率のよい話ではありません。実は、効率よく必要な知識だけを身につけるのに、とてもよい方法というのがあります。
それは、謙虚になってよく分かっている人に話を聞き、教えてもらうことです。これを聞いて今、「当たり前じゃないか」と思った人がいるかもしれません。けれども考えてみてください。皆さんは本当に、知らないことを知らないと認めて、謙虚に人に教えを請うという姿勢を貫くことができていますか。趣味や遊びの話なら教えてもらうことができても、仕事の話になると、知らないことを「知らない」と言えないことが多いのではありませんか。「自分は上司だ、先輩だ」というプライドが邪魔をして、部下や後輩に「教えてほしい」の一言が言えなかったことはありませんか。
知らないことを知らないままで終わらせてしまっては、成長の芽を摘み取っているのと同じです。
皆さんには、自分の専門分野や好きな分野についてはしっかり勉強をしてほしいと思います。それに加えて、謙虚に人に教えを請う姿勢を持つことも実行してください。知らないことについては素直に教えを請うことが、けっして万能ではない私たち人間が少しでも賢くなれる方法なのです。
仕事ができるビジネスパーソンは、ビジネス経験を重ねるとともに、教えを請う相手を増やしていきます。こうした人脈は、さらなる人脈につながります。
すべては、「お時間をください。勉強しましたが分からないことがあります。教えてください」という、謙虚に人に教えを請う姿勢から始まるのです。
以上(2023年2月)
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画像:Mariko Mitsuda