まだ20代だった頃の話です。私には大事な商談の前日に風邪を引いて高熱を出し、商談を欠席してしまったという苦い経験があります。そのとき、当時の上司から言われたのは、「気が緩んでいるから風邪を引くのだ!」という厳しい言葉でした。気の緩みと風邪を引くことに因果関係はありませんから、私は「精神論を言われても困る。私だって風邪を引きたくはない!」と、上司に腹を立てたことを覚えています。
しかし、今ではその上司の気持ちが分かる気がします。上司は、文字通り「気を引き締めれば風邪など引かない」ということを伝えたかったのではありません。商談に対する私の真剣さや準備が足りないことを不満に感じており、その感情がそのような言葉として表れたのだと思うのです。
実際、その商談に向けた私の準備は不十分でした。資料の仕上がりはスケジュールギリギリで、商談シナリオも練り込まれていませんでした。その結果、私の代わりに商談を託された同僚には、大変な迷惑を掛けてしまいました。「気が緩んでいるから風邪を引く」という上司の言葉は乱暴ですが、そもそもの問題は、私の仕事に対する姿勢にあったのです。
あることをきっかけに、本音が口をついて出ることがあります。心の中で2人の人物をイメージしてみてください。1人は仕事を頑張っていて、時間もきっちりと守る人。もう1人は仕事に対してやる気がなく、時間にもルーズな人です。
遅くまで続いた飲み会の翌日、この2人がそろって遅刻をしたら、皆さんはどのように感じますか? 前者のしっかりした人については、「昨日、飲み過ぎて体調を崩したのかな? それとも別の理由があったのかな?」などと心配するかもしれません。一方、後者のダメな人については、「飲み会の次の日に寝坊するなんて……。私だって眠いのに」などと腹を立てるかもしれません。2人とも遅刻をしているのに、日ごろの行い次第で、これほどまでに印象が違ってしまうのです。
ありがたいことに、私はビジネスのタフな交渉の場面で、相手から「○○さんがそこまで言うのだから信じます」と言ってもらえる経験を何度かしています。これは、日ごろから当社が真摯な姿勢で相手に接しているからだと思いますし、そうした対応をしてくれる皆さんには心から感謝しています。しかし、仮に、当社の姿勢が不誠実であれば、相手は決して「信じます」とは言ってくれないでしょう。逆に「もっとこちらに配慮してください」などと苦情を言われるかもしれません。
日ごろの行いの積み重ねが、いざというときに大きな差となります。そして、悪い行いを積み重ねてしまえば、後からマイナスを取り戻すことは本当に難しくなります。そうならないために心がけるべきは、謙虚な姿勢で、真摯に相手と向き合うことです。その姿勢が相手に伝われば、皆さんへの好感が生まれ、ビジネスが進めやすくなるのです。
以上(2020年3月)
pj16998
画像:Mariko Mitsuda