私は、旅行をしたときや、新しいお店で食事をするとき、積極的に地元の人や店員に話しかけるようにしています。
先日の出張でもそうでした。次のアポイントまで少し時間が空いたので、私は小さな川沿いの道を歩いていました。そのときはまだ、私にとって何の変哲もない小川です。少し歩いて喉が渇いたので、私は川沿いにあるカフェに入りました。そのカフェには小さな美術館が併設されていて、ちょっと変わった空間でした。
コーヒーを注文するとき、「美術館が併設されているなんてすてきですね」と、店員に話しかけたところから会話が始まりました。その店員は、なんと美術館の館長で、小川や展示物のことをいろいろと教えてくれました。例えば、小川には、秋になると鮭が帰ってくるそうです。また、川辺には季節ごとに美しい花が咲き、展示物はそうした自然をモチーフにしているとのことでした。
館長の話を聞いたことで、何の変哲もなかった小川が、一気に特別なものになりました。鮭が帰ってくる様子や、季節の花が咲き誇る景色を想像するのは楽しいものです。同じ時間を同じ場所で過ごすとしても、経験に格段の深みが増すことが分かると思います。
飲食店でも同じです。「おいしいですね」「丁寧な接客をありがとう」と伝えることで、店員はお店の歴史や大切にしていることを教えてくれたり、ちょっとしたサービスをしてくれたりします。
皆さんの中には、店員に気軽に話しかける私の姿を、“オヤジ臭い”と言う人がいます。店員が女性の場合は余計に、「私がその店員と話したいだけ」だと思うのでしょう。そう言われると、私は「なんて発想力がないのだ。もったいないな」と思ってしまいます。
日本では、黙っていても金額なりのサービスが受けられます。しかしそれは、マニュアル通りの、何の変哲もないサービスです。一方、いきつけの飲食店で「裏メニュー」が出てくることがありますが、いきなり出てくるわけではありません。店員と仲良くなり、「作ってほしい」「食べてみたい」などと、こちらからお願いしたからこそ出てくる、特別なサービスなわけです。
商談相手に、「予算がない」と紋切り型の断り文句を言われ、諦めている人はいませんか。無機質に断られてしまうのは、こちらも決まり切ったマニュアル通りの営業しかできていないからです。相手は予算を持っています。ただ、「私たちにその予算を使おう」と思ってくれていないだけなのです。相手にとって、皆さんは何の変哲もない営業担当でしかありません。早くそこから脱し、特別な存在になりましょう。相手が求めることを考えるのが基本ですが、いきなりビジネスの話をしているようでは駄目で、会話の広がりが大切なのです。どうすればよいのか。そのヒントは、飲食店の店員との気軽な会話にあることも少なくないのです。
以上(2020年1月)
pj16990
画像:Mariko Mitsuda