皆さんは、自分ができないことや、思いもよらないことを考えている人と出会ったとき、「この人はすごい!」と素直に感じることができますか。恥ずかしいことですが、私が他人のことを素直に認められるようになったのは、それほど昔のことではありません。
それまでは、自分より優れた人に会えば嫉妬をしていました。また、本当に素晴らしい工夫がされている事柄でも、その“からくり”が何となくイメージできることについては、安易に、「たいしたことはない」と低い評価を下しがちでした。逆の場合もしかりです。自分のほうが相手よりも優れていると思えば、必要以上に強気になっていたと思います。
多くの人は、相手との関係性、相手の能力、置かれている状況に応じて自分のポジションを変えながら、「幾つもの自分」を使い分け、なんとかバランスを取っているものです。実際、家族に接するとき、上司に接するときのそれぞれの場面では、部下に接するとき、友人に接するときでは、皆さんの態度は大きく異なるはずです。
こうした立ち居振る舞いは、「自分の軸がない」ようにも映ります。通常、そうした人は高い評価を受けません。しかし私は今では、さまざまなポジションの自分についても、「それはそれで自分の弱さやもろさである」と認めています。その結果、視野が広がり、同時に頼りない自分を受け入れられるようにもなっていったのです。
他人と自分を比較していてもキリがありません。勝ち負けや優劣の判断だけでは、相手と上か下かの関係しか築くことができず、コラボレーションしながら仕事をする関係にはなりにくいでしょう。ビジネスにおいては、他社とのコラボレーションがとても上手な人がいます。そういう人は、自分の考えをしっかり持っていますが、ポジションは中立で目線もフラットです。自分のだけではなく相手の立場から相手の考えを聞く姿勢ができているということなのです。
相手と自分を比べてしまうということは、相手から見ても同じです。私たちが「自分はたいしたことはない」と思っていても、相手は私たちのことを「すごい!」と思っているかもしれません。皆さんがフラットな目線を心掛ければ、もっと深いコミュニケーションが生まれ、新しい仕事が生まれる可能性があります。
最近、「自己肯定」という言葉をよく聞きます。とにかく「今の自分を受け入れよう」との風潮がありますが、大切なのは「ダメなことはダメ」と認めることです。そこで初めて自分と深く向き合い、本当に肯定できる自分になれるのです。
「あなたも私も素晴らしい!」。この朝礼で私が皆さんに伝えたいメッセージです。元号が平成から令和に変わり、新しい時代が始まりました。皆さんにも新しい可能性があります。それを追求し、令和の時代に躍動するために、自分と向き合い、弱さを認める強さを持ってください。
以上(2019年6月)
pj16960
画像:Mariko Mitsuda