けさは、「お客様は神様です」という言葉について、皆さんに考えてみてもらいたいと思います。この言葉は、演歌歌手の三波春夫さんがよく口にしていた言葉だそうで、「演者にとってお客様を喜ばせることは絶対条件だから、神様だと思って完璧な芸を見せなければならない」という意味が込められています。ビジネスでも、お客様のことを第一に考えて、製品やサービスを提供しなければならない点には、議論の余地がありません。
ただ、皆さんに考えてみてもらいたいのは、私たちが大切にすべき存在である「神様」は、本当にお客様だけなのか、ということです。私たちは、お客様を第一に考える一方で、私たちを支えてくれているお客様以外の人たちの存在を、しっかりと認識できているでしょうか。
私がそのようなことを深く考えるようになったのは、コロナ禍で「医療崩壊」の淵にありながら、そして感染リスクにさらされながらも、患者を受け入れてくれている医療従事者の方々の姿を目にしたからです。私たちは医療従事者の方々に感謝こそすれ、「自分は診察料を払っているお客様だから、医療の提供を受けるのは当然だ」などとは考えもしないでしょう。
その考えを広げていくと、私たちが感謝をしないといけないのは、医療従事者の方々だけではないことに思い至ります。例えば、バスの運転手、スーパーマーケットの店員、宅配業者など、私たちの生活インフラを支えてくれている方々です。
彼らも感染リスクにさらされながら、サービスを提供し続けてくれています。医療サービスを受けられないことも困りますが、移動手段がなくなり、食品が入手できず、物流がストップしてしまえば、生活は成り立ちません。私たちはこうしたサービスを利用することが当たり前になっているため、いかにありがたいことなのかを見落としてしまいがちです。
そして、私が特に強調したいのは、もし皆さんの中に、単純にお金の流れだけを見て、「お客様だけが神様だ」と考える人がいるとしたら、それは大きな誤りだということです。
これは、我が社の取引先についても同じです。我が社の製品やサービスを購入していただいているお客様には感謝すべきですし、皆さんも感謝の気持ちを伝えていると思います。ですが、我が社が製品やサービスを提供できるのは、原材料や機器類などを納入してくれている取引先のおかげでもありますし、他にも、オフィスの清掃やごみ処理をされている方々など、大勢の人たちが私たちを支えてくれているのです。
私はコロナ禍によって、このことを改めて認識することができました。失った後に、初めて失ったものの大切さに気付き、喉元過ぎれば熱さを忘れる、というのはよくあることです。ですから、私は忘れないうちに、最初の言葉に次の言葉も付け加えたいと思います。「お客様は神様です。そして、お客様以外も神様です」と。
以上(2021年6月)
pj17059
画像:Mariko Mitsuda