ビジネスでは信頼関係が大切です。皆さんは普段、お客様と接していて、「相手が自分の会社や自分のことを認めてくれている、信頼してくれている」と感じることはありますか。

お客様との関係性にもよりますが、私がそう思うのは、お客様が困っているとても難しいことを相談されたり、打ち明けられたりしたときです。「御社ならどうにかできるのではないか」「助けてほしい」といったように頼ってもらえると、お客様からの信頼と期待を感じます。とてもありがたいことです。

また、お客様と一緒に企画しているサービスなどを他の会社の人に説明する際、説明役を当社側に任せてくれたときにも、とても信頼されていると感じます。うれしく、誇らしく、そしてありがたいという気持ちでいっぱいになります。

私は、皆さんにも、こうした気持ちをたくさん味わってほしいと思っています。お客様からの信頼を感じることは、何物にも替え難い大きな喜びだからです。それは、「もっと頑張ろう」という、今後の仕事への意欲にもつながります。

ただし、こうしたお客様との信頼関係をつくるのは、簡単なことではありません。日ごろのやり取り一つ、アウトプット一つを、コツコツと積み重ねていくしかないのです。その際、ポイントは「プラスアルファ」です。お客様の要望通りに応えるだけでは足りません。その一歩先、一つ上を、常に心掛けることが大切です。

また、場合によって、お客様に意見することも必要です。お客様が求めていることが、本当にお客様のためになるのか。そうではない場合は、しっかりと意見し、お客様のためになる代替案を提示しなければなりません。こうしてお客様のことを一生懸命に考え、行動することが、信頼につながっていくのです。

お客様との信頼関係について考えるとき、私はいつも、2人の落語家を思い出します。

1人は、桂歌丸さんです。彼は、ある師匠から、よく「迎えの拍手なんかなくたっていい、下りるときの拍手が肝心だ」と言われたといいます。観客の前に出て一生懸命に話し、「この落語家は面白い」と認められ、信頼されて初めて、拍手をもらえるということではないでしょうか。

もう1人は、5代目古今亭志ん生(ここんていしんしょう)さんです。落語の名人といわれた志ん生さんは、酔ったまま高座に上がり、お辞儀をした後、寝てしまったことがあるそうです。観客は怒るどころか、「寝かせといてやれ」と、寝ている志ん生さんを笑って眺めていたといいます。受け止め方は人それぞれですが、「志ん生は面白い」と皆が認め、信頼していたからこその、「寝かせといてやれ」ではなかったかと私は考えます。

2人の落語家が、常に観客のことを考え、努力と工夫の人であったのは言うまでもありません。私も皆さんも、2人のように、“お客様に信頼される名人”でありたいと、私は思うのです。

以上(2022年3月)

op16930
画像:Mariko Mitsuda

Leave a comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です