2019年8月、ゴルフの全英女子オープンで、渋野日向子(しぶのひなこ)選手が優勝しました。日本勢としては、実に42年ぶりのことです。
渋野選手のトレードマークは、あの「笑顔」で、「スマイルシンデレラ」と呼ばれています。優勝後のインタビューでも、「世界でも笑顔は共通。笑顔で努力すれば結果に出ると思った」という趣旨の発言をしていたのが印象的でした。
渋野選手については、「真剣な表情と笑顔、オンとオフの切り替えができている」「プレー中にお菓子を食べ、ギャラリーとハイタッチをするなど、自然体。自分をリラックスさせるようコントロールする方法を知っている」と報道されていました。しかし、私はそうしたことよりも、渋野選手の笑顔から、「絶学無為(ぜつがくむい)」という禅語を連想したのです。
「絶学無為」とは、学びに学んで学び尽くして、もはや学ぶことのない、自然な、淡々とした悟りの境地といった意味です。心底学んで自分自身の中で消化し、しっかりと取り込んでいる人は、飄々(ひょうひょう)としていて、その苦労や学びが消えてしまっているように見える。苦労や学びを、まるで感じさせない。そうした意味でも使われることがあります。
私は、渋野選手のことを詳しく知っているわけではありませんが、渋野選手の笑顔や自然体は、想像を絶する努力を重ね続けてきた人だけができる、いわば「絶学無為の笑顔」に思えたのです。
学びや努力を、「苦労している」と人に思われたり、人に苦労話を言いたくなったりするうちは、「本物」とはいえないのかもしれません。まだまだ未熟な状態なのでしょう。
ビジネスの世界でも同じです。私たちは、日々、仕事に活かせる能力や技術、考え方などを学ぶ努力をします。学んでいる姿を見せて、周りに対して「学ぶ意識を浸透させる」という良い影響を与えることも必要ですが、自分が学んでいることを人にひけらかすようではいけません。
大切なことは2つで、1つは、社内だけで満足するのではなく社外でも通用するよう学ぶこと。そしてもう1つは、どれほど努力をしても、おごらず、「上には上がいる」という謙虚な気持ちを持ち続けることです。人にもよりますが、本当に努力している人ほど、「自分はまだまだ足りない」と言います。逆に、それほど努力していないときほど、「こんなに頑張っているのに」と言いたくなるものです。
「絶学無為」の境地にたどり着くのは、並大抵のことではありません。一生かかっても、たどり着けるかどうか分からないくらいです。私たちにできるのは、「自分はまだまだ足りない」という気持ちを持ち、一歩一歩学び、努力し続けていくことではないでしょうか。
渋野選手の「絶学無為の笑顔」から、私は謙虚に努力し続けようと改めて思いました。皆さんは、あの笑顔に、何を学ぶでしょうか。
以上(2019年10月)
pj16976
画像:Mariko Mitsuda