少し前ですが、私の父が長年勤めた職場を定年退職し、家族そろってお祝いをすることになりました。少し奮発して、あるホテルでお祝いをしたのですが、そのホテルの対応にとても感動したので、皆さんにもお話ししたいと思います。

私はお祝いの当日、父と母とホテルで待ち合わせをすることになっていました。しかし、当日に両親から少し遅れて到着するとの連絡があったため、私は先にチェックインを済ませ、スタッフの方に部屋まで案内していただきました。私の荷物の中に父に渡すプレゼントがあったからか、スタッフの方が、「今日は何かお祝いでいらっしゃったんですか?」と私に尋ねました。私は「えぇ、父の定年退職の祝いです」と答えましたが、間もなく両親が到着したので、スタッフの方との会話はそこで一旦終わりとなりました。

驚いたのは、その日の夕食でした。ホテルで父と母と食事を楽しんでいたのですが、最後のほうになって、先ほどとは別のスタッフの方がテーブルに小さなケーキを運んできました。そこには、チョコクリームで「ご退職おめでとうございます」の文字が。父が驚いて「これはどういうことですか?」と尋ねると、スタッフの方は笑顔で「お客さまの退職祝いと息子さまから伺いましたので、ささやかですが私たちからもお祝いさせてください」と答えました。私がホテル側に頼んだわけでもないのに、わざわざ気を利かせて、父のためにケーキを用意してくれたのです。

私が感動したのは、このホテルが、スタッフの方と私とのちょっとした会話の中で出てきた「父の退職祝い」というワードを、「家族での夕食」という最高のタイミングでサービスにつなげてくれたことです。私がホテルに到着したのは夕方ごろで、夕食までさほど時間もなかったのですが、そのわずかな時間を使ってホテル内で連携を取り、本来の夕食のメニューとは別に、できる限りのサプライズを用意してくれたのです。

私はこのホテルの対応に今でも感謝していますし、スタッフの方々を心から尊敬しています。恥ずかしながら、もし私がこのホテルのスタッフだったとしたら、チェックイン後のわずかな時間の会話は、「軽い世間話」ぐらいの感覚で流してしまったでしょう。「父の退職祝い」などのキーワードに気付けたとしても、その日のうちにサプライズを用意するほどの行動力があるか、というと正直自信はありません。

私たちは、日ごろから「お客さまに愛を持って接する」を合言葉にしていますが、愛というものは相手に伝わって初めて意味があります。ささいな会話にも気を配る「アンテナ」、それをサービスに昇華させる「スピード感」、私はそこにホテルのスタッフの方々の大きな愛を見ました。私自身も、自分のお客さまに愛を届けられるよう、アンテナとスピード感をもって業務に励んでいきたいと思います。

以上(2022年9月)

pj17118
画像:Mariko Mitsuda

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