物事の勝ち負けはさまざまな形で表れます。結果が分かりやすいのは、点数やタイムを競うスポーツです。点数が高いほうや、タイムが速いほうの勝ちであることは一目瞭然です。

同様にビジネスにも勝ち負けがありますが、勝ち負けの判断は簡単にはつきません。それは、ビジネスの結果には、勝った部分と譲った部分が混在するからです。例えば、交渉事をイメージすると分かりやすいでしょう。交渉の当事者は、絶対に勝ち取りたい条件と、譲歩してもよい、つまり負けてもよい条件を決めてから交渉に臨みます。そして、交渉結果には双方の勝ち負けが複雑に絡み合うため、当事者でなければ結果を判断することはできないのです。

このことは、「ビジネスは勝ち負けの明確な基準を持って臨まなければならない」ということの示唆でもあります。これができていないと、目指すべき目標や、どこまでなら譲ってもよいというラインが曖昧になり、場当たり的な対応になってしまうからです。

また、目標に向かって正しい努力ができないことも問題です。皆さんがプロのサッカー選手になりたいのなら、サッカーの練習を一生懸命にやるべきであり、囲碁の指し方を学んでも意味がないわけです。これを聞いてサッカーと囲碁を間違えるような根本的な問題が起こるはずはない、そう感じた人が多いでしょう。しかし、実際にこのような間違いがビジネスでは起こっています。

簡単な例を挙げてみましょう。1000万円の資金を渡され、それを使って事業部の利益を1年以内に10%向上させることを命じられたら、皆さんは何をしますか。

試す価値のある施策はたくさんありますが、ここで「利益を1年以内に10%向上させる」ということにとらわれ過ぎては駄目なのです。ビジネスの結果には勝ち負けが混在し、100%思い通りになることは稀です。このケースで言うなら、「1年では期間が短すぎるが、2年なら達成できそうだ。そのため、1年目に利益が5%向上していればよいペースである」という考え方もあり得ます。目標を都合よく解釈しているわけではなく、実現可能な勝ち負けの基準を設定しただけのことです。

しかし、こうした考え方ができない人は、とにかく何とかしなければと場当たり的な対応を始めます。言うなれば、絶対に勝ち取りたい条件を決めずに交渉のテーブルにつくようなものです。当然、正しい努力もできません。

今、私はビジネスの基本についてお話ししました。幅広い選択肢の中から、何をするのか、あるいは何をしないかを決め、チャレンジするのがビジネスです。自分自身の目標を再確認してください。その目標は、皆さんが「勝算あり」で設定しているもののはずです。勝ちを手中に収めるプランにぬかりはありませんか。1年間、正しい努力を積み重ねる覚悟はありますか。新年度の始まりはすぐそこまで来ています。

以上(2021年12月)

op16847
画像:Mariko Mitsuda

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