私は、仕事で行き詰まっている人から相談を受けたとき、必ず「一歩一歩進むしかないよ。焦らずにね」とアドバイスをしています。しかし、一見優しく感じるこのフレーズの厳しさを感じ取ってくれる人は、残念ながら多くありません。
まず、「一歩一歩」という言葉から、多くの人は「ゆっくり」という印象を持ってしまうようです。しかし、私が伝えたいのは、進むスピードのことではなく、“質”についてです。その一歩でやるべきことを確実にこなし、万全にしてから次の一歩を踏み出すという、厳しい基準をクリアした歩みを求めています。これがどれだけ難しいことか、ある程度のキャリアを積んだ人なら分かるはずです。「もう大丈夫だ」と自信を持てるくらい、徹底的に努力してから次の一歩を踏み出すには、忍耐力が必要です。
同様に、「焦らず」という言葉から、多くの人は「マイペース」という印象を持ってしまうようです。確かに、ペースは人それぞれです。しかし、ビジネスにおける成長とは、相対的な関係で評価されます。自分が100の成長を遂げて満足しても、他の人が120の成長を遂げたのであれば、まだまだ努力と成長が足りません。同様に、上司が120の成長を期待しているのに、100しか成長できなければ、高い評価を得ることはできません。成長を焦ってミスが頻出してしまうのは駄目ですが、自分の能力が許す限り速く進むことが求められるのです。
どうですか。私の言葉がどれほど厳しいものか分かるでしょう。言葉のあやではありません。本気で今の局面を打開したいと考えている人なら、私の言葉の厳しさを感じ取れるはずです。逆に、そうでない人は、「ゆっくり」「マイペース」などと自分に都合の良い解釈をしてしまいます。
ノミは、あの小さな体で1メートルもジャンプする力を持っているそうです。しかし、高さ50センチの瓶に入れて蓋をすると、ノミはジャンプするたびに50センチの蓋にぶつかります。そのまま放置しておくと、そのノミは瓶から出しても50センチしか跳べなくなってしまいます。
自分に甘えるということは、自分にとって心地良い大きさの瓶を作って中に入り、そこから出てこないことと同じです。もっと成長できるのに、その機会を自分で潰しているのです。
「自分は甘えていた」。そう思い当たる節がある人には、変わるためのきっかけが必要です。具体的には、先延ばしにしていた仕事をすぐに片づけなさい。先延ばしするという行為が甘えそのものであり、それを断ち切るのです。また、仕事を先延ばしにしたことで、あなたは周囲の信頼を失いました。それを取り戻すための努力をしなければ、これからのあなたの努力を誰も応援してくれません。
私から見れば皆さんはビジネスパーソンとしてまだまだ未熟です。あえて言いましょう。「一歩一歩進むしかないよ。焦らずにね」
以上(2021年9月)
op16833
画像:Mariko Mitsuda