「飢えている人がいたら、魚を与えるのではなく、魚の獲り方を教えてあげなさい」ということわざがあります。魚を与えれば、その人は1日は飢えをしのげるでしょう。しかし、魚の獲り方を教えれば、その人は一生飢えないでいられます。

1900年代前半に活躍したシュヴァイツァー博士は、アフリカの赤道直下の国ガボンにおいて、当地の住民への医療などに生涯を捧げたことで、高く評価されています。ただ、ひとつだけ残念なことに、博士には現地人に医学の知識を与えて、医師に育成し、医療環境を整えるという発想がありませんでした。そのため、現地人の中から医師が生まれることはありませんでした。仮に、現地人の中から医師が育っていく環境を実現できていれば、博士の死後もアフリカにおける医学は大きく進歩したことでしょう。

一方、アフリカの人に井戸の掘り方を教えた日本人がいます。その人は、初めはアフリカに行って自ら井戸を掘ったそうです。しかしあるとき、自分が井戸を掘るのではなく、現地の人に掘り方を教えてあげるべきだと気がついて、日本式の井戸の掘り方を教えたのです。そして、掘り方がうまくいかないときの対処法や井戸の修理方法も教えておいたため、現地の人は自分たちで井戸の管理・維持ができるようになったそうです。

これらのことを、ビジネスに置き換えてみましょう。分かりやすいのは、上司と部下の関係です。

上司が部下に与えなければならないのは「金銭」ではなく「方法」です。金銭は一度使ってしまえばなくなりますが、方法はいくら使ってもなくなりません。手取り足取りして面倒見の良い上司がいますが、先のことわざでいえば、それは「魚」を与えているだけで、部下の成長の機会を奪っているといえます。

魚を直接「与える」よりも「獲る方法」を教えるほうが、真に部下のためになり、部下の将来が開けることになるのです。

ここでいう「魚の獲り方を教える」とは、相手が欲していることに対して、ただ与えるのではなく、「どうすれば求めるものにたどり着くことができるのか」を教えてやることです。

上司が部下の仕事を手伝う場合とそうでない場合を比較してみましょう。部下の仕事を手伝う場合は、部下の仕事を手伝う→部下の仕事は速く進む→上司の仕事が遅れる→必死で上司は仕事を終わらせようとする→部下の仕事がまた遅れる→2人とも仕事が遅れる。結果としては2人とも仕事が遅れてしまいます。

一方、仕事を手伝うのではなく、部下の仕事がなぜ遅いのかを観察し、効率良く仕事ができる方法を教えた場合はどうでしょうか。この場合、上司は部下の仕事をチェックして問題点を把握する→部下にはいったん仕事を止めさせて、上司が問題点を説明する→上司は解決方法を部下に自分で考えさせる→さらに良くなる点があれば上司はアドバイスする→部下は自分で効率良く仕事ができるようになる→そして、その部下が効率良く仕事ができる方法をほかの人に教えることで組織全体の効率が上がる。こんな具合にいけば理想的です。

魚の獲り方を教えるのは、魚を与えるよりはるかに根気が必要で、面倒なことです。しかし、上司の仕事とは、人や組織をよく観察して、そこで働く人たちが高い能力を発揮できる方法を教えることなのです。

上司の皆さんは「やり方」を教えることに徹してください。

以上(2023年4月)

pj16524
画像:Mariko Mitsuda

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