人事や広告に携わったことのある人なら、誰もが知っている求人広告を紹介します。
「求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒(ごっかん)。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証なし。成功の暁には名誉と賞賛」
これは、南極点を目指した冒険家アーネスト・ヘンリー・シャクルトンが南極探検隊の人材を募集したときの広告といわれています。
実は、この求人広告が本当に掲載されたかは定かではありません。しかし、これまで多くの人に語り継がれ、ビジネス書などにも紹介されたことで、歴史上もっとも有名な求人広告となりました。
「求む男子」や「生還の保証なし」という表現は今の時代では使えませんが、「至難の旅」や「僅かな報酬」など他の言葉は使えるでしょう。浮いた言葉はどこにもありません。成功した場合にも、多額の報酬ではなく、名誉と賞賛を得るだけです。にもかかわらず、多くの人の気持ちを惹(ひ)きつけたのです。要は「面白そうだ」「やってやろう」という気にさせたのです。
相手をその気にさせるには、まず自分が「事実」と「本心」を明らかにしなければなりません。そうしないと、伝えたいことを伝えられないのです。
先ほどの求人広告は、まさに「事実」と「本心」が記されています。だからこそ、これまで語り継がれてきたのだろう、と私は考えています。
コミュニケーションは、伝えたいことを言葉にして「話す」こと、次は「文章に記す」ことです。伝えたいことが相手にうまく伝わらないのは、話し手が格好を付けて話すため、本心が見えないからです。
私の場合、特にその傾向が強いので、困っていました。この求人広告のおかげで、伝えたいことを伝え、皆さんをやる気にさせるには、(経営者である、責任者である)私が皆さんに遠慮しないで、事実を伝え、本心を語る必要があると気づきました。
事実を伝え、本心を語るのはとても勇気のいることです。例えば、私が皆さんの仕事ぶりをしかるときは、これまでとても遠慮していました。私だけでなく、上司や先輩が部下や後輩をしかるときは、私と同じように遠慮していたでしょう。その一方で、部下や後輩は上司や先輩に「言いたくても言えない」ことが数え切れないほどあったでしょう。
でも、言わなければなりません。遠慮する必要はないのです。会社のため、上司のため、部下のため、先輩のため、後輩のため、同僚のため、自分のために、事実を伝え、本心を語ってください。
ただし、そのときに一つだけ留意してほしいことがあります。それは、本心を伝える際の話し方です。相手をほめるときはよいのですが、相手に注意を促すときは、話し方によっては、相手を傷つけたり、怒らせたりするかもしれません。本心を伝えるときには、より丁寧な言葉遣いを心がけてください。
今日から、私は事実と本心を、遠慮なく皆さんに伝えるようにします。皆さんもそうしてください。事実と本心を語りあうことのできる会社(組織)は元気に満ち溢れてくるはずです。
以上(2022年12月)
op16470
画像:Mariko Mitsuda