先日、イベントで“面白い人”と出会いました。ここではA氏と呼びましょう。A氏は非常に勢いのある人で、出会った瞬間に両手で握手を求めてきました。ビジネスでも素晴らしい実績を上げているようですが、本の出版など客観的に確認できること以外は、具体的に何をしているのかよく分かりません。その点を尋ねてみると、「日本のスタートアップ企業を支援するために、幅広く活動している」ということでした。幾つかの顧問先を持っているようですが、その日は名刺を1枚も持っていませんでした。

私の常識に照らすと危うさを感じるA氏。私はA氏と少し距離を置いて付き合うことにしました。「君子危うきに近寄らず」といいます。社長である私にはいろいろな人が近づいてくるのですが、中には自分が得することしか考えていない人や、法的に“グレー”な領域でのビジネスに誘ってくる人もいます。そうした人と関わり、万一トラブルに巻き込まれたときに大きな損害を被る恐れがあるので、会社を守るために人付き合いには慎重にならざるを得ないのです。

しばらくして、A氏から連絡があり、2人でミーティングをすることになりました。私は、隙を見せないようにと少々構えて臨んだのですが、意図せずA氏に助けられることになります。私は、A氏と出会ったイベントで知り合ったB氏と、次の週にミーティングをする予定だったので、そのことをA氏に何気なく話しました。

すると、A氏は少し迷った素振りを見せた後、「いない人のことを悪く言いたくはないのですが……。B氏と2人で会うのはやめたほうがいいですよ」と言うのです。理由を聞くと、B氏はビジネスの進め方が強引で、過去にこの業界で大きなトラブルを起こしたことがあり、今も評判が悪いというのです。私が抱いていた印象と違い、A氏は信用第一でビジネスをする当社のことを思い、わざわざ忠告してくれたわけです。

B氏は、弁護士から起業家に転身しており、イベントで出会ったとき、A氏とは対照的に非常に落ち着いた雰囲気を醸し出していました。私は経歴や雰囲気からB氏のことをすっかり信頼し、しっかりした人であると思い込んでいたのです。

「人を見る目」を養うことは、本当に難しいものです。A氏との一件で、そのことを痛感しました。しかし一方で、人と会うことを恐れていては、ビジネスの可能性を失います。ですから私は、A氏との出来事を反面教師にしつつ、皆さんがますます多くの人とつながることを望みます。人と会うことによって、私たちは自分の常識や当たり前を見直す機会を得ることができ、そこから新たな発想が生まれるからです。

ただし、リスクを回避する“嗅覚”は不可欠です。少しでも「違和感がある」と思ったときには、必ず上司や同僚に相談してください。また、特に最初は、1対1ではなく、複数人で会うようにすることも大切です。

以上(2022年3月)

op16933
画像:Mariko Mitsuda

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