「人に頼る」と聞くと、自分が本来やるべきことをやらず、人に甘えているという印象を受けるかもしれません。しかし、人が自分ひとりだけの力でできることは限られています。もし、自分ひとりで問題を抱え込んでいる人がいたら、誰かに助けを求めてください。時には人に頼ることも必要です。

かつて、私は自分の力だけで物事を進めようとして、大きな失敗をしたことがあります。それは、私が初めて管理職になったときの話です。管理職ですから、部下の指導を任されることとなりました。しかし、部下の指導は初めてだったため自分自身が手探り状態で、しかも、手取り足取りで教えるため多くの時間を取られました。さらに、自分自身が担当する案件も多く、その一つ一つが複雑なものでした。こうして、いつの間にか、私の仕事量は増えていきました。

しかし、仕事量が増えたにもかかわらず、私は上司や同僚に頼ることができず、「ちょっと手伝ってもらえませんか」という一言がいえませんでした。そうしているうちに、仕事量は自分ひとりでは抱えきれないくらいまで増えていき、その結果、体調を崩してしまいました。

治療のために会社を休んでいる間は、顧客に迷惑をかけないように、上司、同僚、部下が私の代わりに対応してくれました。その後、病気が治って出社したとき、上司からは「なぜ会社のみんなを頼って、仕事を手伝ってもらうようにしなかったのだ」と注意されました。私が「自分の仕事は自分自身で処理しないと不安だった」と答えると、「自分ひとりで抱え込んで、周りに迷惑をかけるのは有能な人のやることではない。時には人に頼るのも大切なことだ」と言われました。

「自分は有能だ」と思っている人ほど、人に頼るのに抵抗があるものです。また、「仕事ができないと思われるのが嫌だ」とか、「人にやってもらうのは申し訳ない」など、見栄や遠慮の気持ちもあるはずです。

しかし、仕事によっては、何人かで行ったほうが効率が上がったり、よい成果が得られたりするものがあります。例えば、単純作業を延々と1人で行うのと、2人で行うのでは、作業時間は半分になるでしょう。また新商品の企画で斬新なアイデアが必要になるとき、自分ひとりで考えていても、煮詰まってうまくいかないものです。しかし、このようなとき、誰かと話し合ったり、アイデアを出し合ったりすると、よい着想が生まれることが少なくありません。

人に頼ることのメリットは、これだけではありません。同じ仕事にかかわる人が増えれば、自然とチェック機能が働き、失敗を防ぐことができます。

仕事で成長するためには、自分ひとりで難題を解決するだけではなく、時には人に頼ることも必要です。人に頼ることで、ほかの人たちの仕事の進め方も分かり、自分に足りない点も見えてくるでしょう。

ここで、皆さんにお願いがあります。誰かに頼るときは、できれば直属の上司に相談をしてもらいたいのです。上司は皆さんが考えている以上に部下のことを分かっています。上司は、部下から頼られるのも仕事の一つですから、皆さんにとって必ずよいアドバイスや具体的な解決方法を教えてくれます。

私は皆さんを心から頼りにしています。特に、多くの部下に頼られる上司の皆さん、部下の指導をよろしくお願いします。

以上(2023年5月)

pj16492
画像:Mariko Mitsuda

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