いつの時代も「コミュニケーション」は難しい課題です。例えば、皆さんは、商品やサービスのプレゼンの場で、お客さまがつまらなそうにしていたり、話についてこられなかったり、終始時間を気にしていたりして、伝えたいことをうまく伝えられなかった経験はないでしょうか。どうすれば自分の考えをうまく相手に伝えられるのか。今日はそのヒントになるように、新渡戸稲造(にとべいなぞう)氏の名著「武士道」を紹介します。
新渡戸氏は明治から昭和にかけて活躍した日本の教育者です。国際連盟の事務次長を務めたこと、旧紙幣の五千円札の肖像画になったことなどで有名ですが、その存在が世界に知られるようになったきっかけこそ「武士道」です。新渡戸氏は、若い頃海外に留学していた際、「日本の学校では宗教を教えないのに、どうやって子どもに道徳を身に付けさせるのか」と質問されます。そして、考えた末、日本では宗教の代わりに、武士特有の名誉や礼儀を重んじる道徳観が生活に根付いていることに気付き、それを本にまとめたのです。
「武士道」は1900年に米国で刊行され、世界中で翻訳されます。この本が世界のベストセラーになった理由ですが、私は3つあると思います。
1つ目は「情熱」です。新渡戸氏はもともと武家の生まれで、明治維新以降、日本が西洋化していく中でも、武士の教えを大事にしていました。そのため、学生の頃から「日本の思想を世界に伝えたい」という強い情熱を持っていたようです。
2つ目は「分かりやすさ」です。新渡戸氏は幼少の頃から英語を学び、さらに長期の海外留学によって人並み外れた語学力を身に付けていました。「武士道」の初版は英語で書かれていますが、新渡戸氏の文章は分かりやすいうえに格調が高く、海外の読者から高い評価を得ていたようです。
3つ目は「タイミング」です。「武士道」が刊行された頃の日本は、江戸幕府の滅亡から数十年で近代国家としての体制を整え、日清戦争で中国を破るなど、大きな発展を遂げていました。まさに世界が日本に注目していたときに刊行されたため、「武士道」は多くの人を引き付けたのです。
もし、皆さんが、伝えたいことが相手にうまく伝わらないという問題で悩んでいるとしたら、それは「情熱」「分かりやすさ」「タイミング」のどれかに問題があるからかもしれません。冒頭のプレゼンの話に戻ると、自社の商品やサービスに対して情熱を持っていない人の話には魅力がありません。また、情熱があっても、難しい言葉でまくし立てるように説明したり、お客さまの忙しいときに長々と話をしたりするようでは、相手に伝わりません。
逆に「情熱」「分かりやすさ」「タイミング」が備わっている人というのは、「仕事に愛がある人」だと私は思います。つまり、商品やサービスへの愛、お客さまへの愛、それらを全て兼ね備えた人です。皆さんにもぜひ、そんな社員になってほしいと願っています。
以上(2022年2月)
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画像:Mariko Mitsuda