今年の3月には、私がかねてより楽しみにしていたイベントがありました。コロナ禍の影響で開催が延期されていた野球の世界一決定戦、第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)です。そして、日本チーム「侍ジャパン」の中でも私が特に注目していたのが、投手と打者を両立する「二刀流」で知られる大谷翔平選手です。
大谷選手は私の期待を上回る大活躍で、打っては打率4割3分5厘、1本塁打8打点、投げては2勝1セーブを記録。大会MVPに輝くとともに、日本を3大会ぶりの「世界一」へと導きました。特に、準決勝のメキシコ戦で逆転サヨナラ劇の口火を切った9回裏の2塁打や、決勝の米国戦で1点リードの9回表に登板して空振り三振で優勝を決めた場面は、今後も「大谷伝説」として語り継がれるであろう名シーンになったと思います。
大谷選手の二刀流が生まれたきっかけは、当時の監督であり、今回の侍ジャパンの監督として指揮した栗山英樹さんが、「誰も歩いたことのない道を歩いてほしい」と投打の両方で可能性を追求するよう勧めたことにあるようです。
大谷選手が二刀流でデビューした当初や、メジャーリーグに移籍した当時は、多くのプロ野球関係者が、「二兎(にと)を追う者だ」「プロ野球をなめるな」と、否定的な発言をしていました。投手か野手のどちらか一つでさえ一流になるのが厳しいプロの世界を知っているからこそ、そのように考えたのでしょう。
栗山さんや大谷選手のすごさは、そうした「プロの世界は厳しい」という現実におびえず、「二兎を追う者は一兎をも得ず」になる可能性があっても、大谷選手の将来に限界を設けず突き進んだことにあります。ちなみに、大谷選手自身はこの二刀流という表現を使わないようで、「投手と打者でやることは区別するが、ただ野球を頑張っているという意識でやっている」と語っています。二刀流は、大谷選手の野球に対する飽くなき情熱が、そのまま形になったものともいえるでしょう。
私は、皆さんにも、自分に限界を設けない大谷選手の生き方を学んでもらいたいと思います。日本の人材採用では近年、幅広い業務をこなす「ゼネラリスト」に代わって、1つの分野で専門性を極めた「スペシャリスト」が注目を集めています。限られた時間の中で伸ばせる能力には限界があるかもしれませんし、最短で自分の強みを伸ばしていくという点で、スペシャリストは合理的です。
ただ、皆さんに考えてほしいのは、「自分が伸ばせる道は、これだけだ」と早々に限界を設けて、これから開花するかもしれない別の可能性に蓋をしてしまっていないかということです。もし、皆さんの中に、「自分が今やっている分野の他にも、取り組んでみたいものがある」と思っている人がいたら、ぜひ私に相談してみてください。私は皆さんの前向きな挑戦を積極的に応援しますし、皆さんの中から新たな「二刀流の選手」が誕生することを期待しています。
以上(2023年3月)
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画像:Mariko Mitsuda