けさは、私の知人から聞いた、お子さんを歯科医院に連れて行ったときの話から始めます。
知人のお子さんは小学校低学年で、歯並びを治したくて歯科医院に相談に行きました。そこは、通常の治療法と異なる独自の治療を行う歯科医院でした。知人によると、歯科医院に入るなり、お子さんの口内を診察しないまま、歯科衛生士が治療法についての説明を始めました。しかも、歯並び以外も含めた歯科矯正全般の治療法についてのマニュアルを読み上げ、その治療法で治った人の口内の写真を繰り返し見せられたそうです。
さらに、その治療法には、毎日のトレーニングに加え、夜寝ている間も口内に治療器具を着け続ける必要があるのに、その説明はほとんどなく、最後は「今、治療を受けないと、値上がりするかもしれません」と念押しされたとのことでした。
その後、知人はやっと会うことのできた歯科医師に、その治療法の「成功率」を聞いてみたところ、「それは分かりません。きちんと毎日宿題ができる子供であれば成功率は高いです」と言われました。通常の治療法との治療期間や成功率の違いを聞いてみても、「自分たちがやっていない治療法のことは分かりません」という返答。
揚げ句の果てに、知人のお子さんの口内を診察した途端、その歯科医師は「この子の歯の状態では、まだ治療ができません」と伝えてきたといいます。これには知人もあきれ返り、二度とその歯科医院に行かないと心に決めたそうです。
知人が感じたのは、「この歯科医院は子供の歯並びを治したいのではなく、独自の治療法を売りつけたいだけだ」ということでした。
これは、他山の石とすべき話です。我が社でも新商品のキャンペーンをやっていますが、もし、お客さまに新商品を販売すればそれでいいと考えている人がいるとしたら、それは間違いです。会社の方針を守るのと、お客さまが求めているものを提供するのは全く別の話です。仮に我が社が推す新商品と、お客さまの悩みを解決する従来の商品の、どちらを提案するかと問われたら、私は迷わず従来の商品を提案します。
場合によっては、競合他社の商品だってお薦めしていいのです。お客さまのニーズに合う商品を提供できていない私たちの努力不足こそ問題視し、商品を改善していくのが、本来のあるべき姿だと思うからです。それに、今はさまざまな情報が容易に入手できる時代。仮に競合他社より劣った商品を一時的に販売することができても、後でお客さまが競合他社の商品のことを知れば、もう二度と我が社の商品は使ってくれないでしょう。
大切なのは、「商品を売る」ことではなく、「お客さまの信頼を得る」ことです。そのためには、何がお客さまのためになるのかを常に考えることが重要です。そうした積み重ねによってお客さまからの信頼を得られれば、次回は必ず、我が社が自信を持ってお薦めする商品を購入していただけるはずです。
以上(2022年5月)
pj17100
画像:Mariko Mitsuda