昔、先輩から教えてもらったことがあります。
「電話をしているとき、相手からこちらの姿が見えないからと油断せず、会っているとき以上に丁寧に接するように」
そう言われて周囲を見渡すと、椅子にふんぞり返っている人など一人もいませんでした。それどころか、皆、電話を切る際は「ありがとうございました!」と深々と頭を下げていました。「あぁ~、私は素晴らしい会社に入社したんだな」と感じた瞬間でした。
本気であれば自然と背筋が伸びるものです。皆、仕事に真剣だったわけで、電話にも手を抜いていなかったのです。先輩は、「もし、あなたが椅子にふんぞり返って電話をしているなら、仕事や相手との向き合い方を反省しなさい」と教えてくれたのでしょう。
心には「根っこ」があって、その根っこが健全なのか、腐っているのかによって態度が変わってきます。これまでは毎日のように朝礼をしていましたから、お互い顔を見ながら話すことができました。同僚の話を聞き、また自分も話す中で刺激を受け、自分の「根っこ」が健全かどうかを無意識のうちに確認できたはずです。
しかし、今や朝礼は不定期となりました。クライアントとのコミュニケーションでも対面はおろか電話も減り、メールやチャットのやり取りが当たり前になってきています。
こんな時代だからこそ、私は先に話した先輩の教えがとても重要だと感じています。姿も見えず、声も聞こえない。ある意味で制約の多いテキストのコミュニケーションが中心になっている今、皆さんはどうやって自分の真剣さを伝えますか?
例えば、同じ「はい」という返事でも、「はい」「はい?」「はい!」「はい……」といったようにたくさんの種類があります。
昔、私は先輩によく誘われて、ご飯をおごってもらっていました。先輩が「ご飯食べに行こう!」と誘ってくれたとき、「はい」と言うだけの同僚もいましたが、私は「いつもありがとうございます! ぜひ、お願いします!!」と笑顔で答え、よく飲み食いしていました。おもねるわけではなく、ただ自分の気持ちを言葉に乗せていただけです。しかし、先輩にとって、私は誘いがいのある後輩であったことは間違いありません。食事の席で仕事の話をいろいろしてくれましたし、何かと気にかけてくれました。
松下電器産業(現パナソニック)の創業者で、経営の神様と称される故・松下幸之助さんは、採用基準の一つに「愛嬌(あいきょう)」を加えていたそうです。愛嬌があれば人から嫌われることなく、いろいろなところに呼んでもらえるので、仕事の輪も広がるということでしょう。
皆さんの心の「根っこ」は健全ですか。言葉や態度に愛嬌はありますか。同じ「はい」にも、たくさんの種類があることを知ってください。
以上(2021年10月)
pj17072
画像:Mariko Mitsuda