【ポイント】

  • 新井白石は、悪政を正し、自分の理想を実現しようと全力で政治改革に取り組んだ
  • しかし、自分の理想と相いれない人間に対して厳しく、次第に孤立してしまった
  • 理想を貫くには、理想に付き合う人を大切にする必要がある

おはようございます。私は日ごろから、皆さんに「理想を貫くことから逃げてはいけない」と話しています。せっかく掲げた目標を「実現が難しそうだから」と途中で投げ出したり、自分が正しいと思ったことを「周りの反感を買いたくないから」と曲げたりすることはしないでほしいという意味です。この思いは今も変わりませんが、一方でもう一つ皆さんに覚えておいてほしいことがあります。それは「理想を貫くために、周囲をないがしろにしていいわけではない」ということです。

皆さんは、江戸時代中期に活躍した新井白石(あらいはくせき)をご存じでしょうか。徳川幕府の6代将軍・家宣(いえのぶ)、7代将軍・家継(いえつぐ)の下で「正徳(しょうとく)の治」と呼ばれる政治改革を実施した人物です。

白石の行った取り組みで有名なものとしては、例えば5代将軍・綱吉(つなよし)の時代に出された「生類憐(しょうるいあわれ)みの令」の廃止が挙げられます。動物愛護のための法令ではあるものの、「違反した人間に対する処罰が厳しすぎる」という点が問題視されていて、これを廃止したのです。他にも、幕府の財政が悪化する中で発行された、金の含有量を減らした質の悪い貨幣を、「通貨に対する信用が失われる」という理由で元の品質に戻すなどの取り組みも実施しています。

さまざまな面から悪政を正し、正徳の治は一定の成果を上げましたが、一方で白石には、自分の理想と相いれない人間を強く敵視する一面があったようです。自分の理想を追い求めるあまり、政策に反対する他の幕臣たちの声に耳を傾けなかったため、白石は次第に孤立し、8代将軍・吉宗(よしむね)の時代には、政治から失脚してしまいます。

政治でもビジネスでも、周囲の顔色ばかりうかがっていては、いつまでも物事は前に進みません。そうした意味で、白石のように全力で理想を貫こうとする姿勢は大切です。一方で、政治もビジネスも、一人ではできません。自分の理想に賛同して一緒に手を動かしてくれる人がいるからこそ、物事は前に進んでいくのです。自分が「これが正しい」と思うなら、ただそれを主張するのではなく、どうすればその理想に人が付いてくるかをよく考えなければなりません。理想を貫くには、理想に付き合う人を大切にする必要があるのです。

以上(2025年2月作成)

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画像:Mariko Mitsuda