最近、「心理的安全性」「エンゲージメント」などの言葉をよく聞きます。社員が安心して発言できる雰囲気づくりや、会社への愛着心を高めてもらう施策が、これからの組織運営上、重要なテーマになると私も認識しています。
だからこそ、今朝はあえて皆さんに苦言を呈したいと思います。
当社の行動指針に「少しのムダと思いやり」というものがあります。困っている同僚がいたら、率先してサポートできる組織でありたい。また、忙しいときに手を差し伸べられた人は、「自分でやったほうが早い」などと言って相手の厚意を台なしにせず、自分の仕事を説明し、一緒に仕事をしてもらいたい。説明などで多少のムダが出て通常より時間がかかってもいい。互いを思いやる気持ちを持った組織こそ、私が求める理想の姿です。そして、この考えを定着させるために、組織への貢献を把握し、賞与査定に反映しているのです。
ここで考えたいのは、同僚をサポートするときの皆さんの気持ちです。「賞与が上がるぞ!」と期待していますか。あるいは、「大して賞与に反映されない」と不満ですか。それとも、元来の優しい性格で、リターンなどは求めていませんか。
この手の話をするとき、よく取り上げられるのが「コブラ効果」です。19世紀、イギリスはインドを支配していました。当時のインドにはコブラが多く生息していて危険だったので、イギリス政府はコブラ退治に報奨金を出しました。
すると市民は率先してコブラを退治し、その数は順調に減っていきました。ところが、もっと報奨金をもらいたいと考えた市民は、なんと自分たちでコブラを飼育し始めたのです。それを知り憤慨したイギリス政府は、報奨金を廃止します。すると市民は、無価値となったコブラを野に放ってしまいます。その結果、皮肉にも、コブラの数が以前よりも増えてしまいました。
行動の対価としてリターンを求め、リターンがなくなれば態度が変わることを私は否定しません。むしろ、人間として自然です。ただ、忘れてならないのは、「相手も、こちらにリターンを求めていることがある」という事実です。
話を戻しますが、会社が心理的安全性などを確保しようと取り組むのはなぜなのか、皆さんは少しでも考えたことがありますか。
それは、皆さんに「当たり前のことが、当たり前のようにできる戦力になってほしい」と期待しているからです。会社から見ると、会議で一言も発言しないとか、十分な顧客対応ができない社員は戦力外です。そして、皆さんがそれをできない理由が、心理的安全性にあると聞けば、会社は本気で心理的安全性を確保しようとするわけです。
皆さんが会社にリターンを求めるように、会社も皆さんに求めています。心理的安全性もエンゲージメントも、会社の努力だけでは決して高まりません。会社と皆さんの相互理解、そしてたゆまぬ努力が不可欠なのです。
以上(2020年10月)
pj17025
画像:Mariko Mitsuda